流星の夜
ここから間話……主人公の過去話となります。
2章の本筋はもう少し先となりますが、見限らずお付き合いくださいますようお願い致します。
これは10年以上前の過去。
魔法の無い世界……その最後の夜から始まり、仲間達と出会い運命が動き出すまでの記憶。
10月31日の夜更け。墨谷七郎は街頭の少ない暗い夜道をひとり歩いていた。
高等学校での学業を終え、直後のバイトから帰路に着いているのである。
「(何か買って行こうか…)」
両親は交通事故ですでに亡く、唯一の肉親である祖母が待つ平屋アパートへの帰り道。
何かお土産の菓子でも、と考えながら。
そうしているうちに、まだ明かりの付いた商店街に差し掛かった。
いくつかの商店を横目で見ながら、祖母への土産を吟味する。
途中目に入ったのは、電化製品店の入口に貼ってあるポスター。店自体は年季の入った個人商店で、生活家電のほかにゲームも販売している。
”筋肉モン!ゲッドだぜぇ"
ハガネの大胸筋 / カガヤキの背筋
”君はどっちにする? 選べない? じゃあプロテインだね!”
10年程前から存在するゲームのヒット商品。
シリーズの最新作を宣伝するポスターだった。
筋骨隆々の、かろうじて生物の名残を残す化け物たちが、パンプアップしながらオイルレスリングしてボディビルマスターを目指す大変暑苦しいゲームである。
しかし俺は子供の頃、同時期に発売されたどマイナーなボードゲームに熱中してしまい、筋肉モンをプレイしたことは無い。
その為同年代と話が合わず、やや寂しい少年時代を過ごすことになった。
自身の心を奪ったボードゲームの周知度は絶望的で、いつもひとり二役で遊戯盤に向き合っていた悲しい過去を持つ。
「(おかしい。なんだか寒いなぁ…。主に心が)」
目から塩水も出てきた。
零れないように上を向く。
「え」
明るい商店街から視線を上に向けると、べったりと黒い夜空が広がる。そこへ筆で絵具を引くように虹色が広がっていくのだ。
商店街に屋根は無い。ましてや虹色に塗られた天井など見たことが無い。
ここは外のはずだ。
そうか、夜空が虹色に光って……。
「オーロラ………?…………あ˝」
突如経験したことのない感覚が体に広がる。
激痛、不快感、めまい、吐き気。
ナニカが体に入り込んで、骨の髄まで焼き付くような!
「ああああ˝あ˝!?!?」
全ての苦痛がない交ぜになって意識を刈り取りに来る。
抗えない。立っていられない。
道路に倒れ込み、誰かの悲鳴を聞きながら意識は暗転。
御伽話が現実と成った日、最初の魔法使いのひとりは原色の流星と共に誕生した。
・
・
・
「…………ふがっ! ――おはようございまっす」
寝ぼけた頭で布団から跳び起きる。
――あれ? いつ寝た? 今何時だ?
部屋の時計を探すが、見当たらない。
「(というか、自分の部屋じゃない?)」
見知らぬ天井、知らない景色。
無機質な白で統一された部屋のベッドの上に居る。
だんだんとハッキリしてくる意識でまず感じたのは、動かす腕の微かな痛み。
管が伸びている。点滴のようだ。
胸には何か四角いテープが張られ、テープから伸びる管が電子機器の画面に繋がり心電図を映す。
理解できない状況に頭が働かないが、だからこそ周りの変化に鋭敏となっていた。
「(……足音がする?)」
部屋にあった横開きのドアが開き、面識のない人々が列を成して入ってくる。
服装から医師や看護師だと一目で理解したが、集団の中でひとりだけ、まったく立ち位置が分からない人物がいた。
なんというか、こう……パンクな上着だ。
それでいて女性的な印象の服を身にまとう女性…………女性?……にしては輪郭が男らしいというか……。
「んふ。よく寝てたわねー」
「(あ、男だ)」
高音であるが、男性だと察せれる声であった。
薄く化粧をした顔には人懐っこい笑顔が浮かび、まったく警戒心が湧かない。
明るい色に染められた髪を後頭部で纏め、妙にファッションモデルを連想させる立ち方をしている。
彼?の長い手足がそう見せるのだろう。
「あんたが最後よ。これで全員ね」
「最後?」
「そーうよぅ。アタシたち、晴れて魔法使いになれたんだから。これから薔薇色の人生よー♡」
「おネェの魔法使い宣言。つまり夢だね、さー寝よう」
「待ちなさいよ」
かぶり直した掛け布団を無造作に剝いでくる正体不明の人物。
ちょっとまって!! なんで唇を近づけてくるんだ!
なんで目をつぶるんだ!?
「んおおおおおおおおおおおお」
「んちゅうううううううううう」
ドッタンバッタンとベットの上で激しくもみ合う。
……貞操の危機を含むひと悶着を周りの医師団に止めてもらい、一息つくことが出来た。
「そ、それで。此処は病院?」
「そ。魔力の浸透反応?ってヤツで倒れた、私達みたいのが運ばれた病院。特別なネ?」
魔法使い。魔力。
理解出来ない現実離れした単語が続くが、どこかこの人物を信じてしまう自分がいる。性別を超越するカリスマというヤツだろうか?
「ところで……まだお互い名乗ってなかったわね」
「……まあ、そりゃあ」
混乱の絶えない状況であった。主にこの人の唇のせいで。
「墨谷七郎、と言います」
「あら渋い名前」
――んふふ、アタシはね
「鹿波。鹿波虎郎。カナちゃんって呼んで欲しいわっ」
「虎郎の兄やん」
「シバいたろか?」
思い出の彼方。
我らが初代魔導隊リーダー、頼れるアネキの鹿波虎郎。
彼女との騒がしい初対面は、泣きたくなるほど優しく魂に刻まれている。
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