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【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる人外暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
3章ー運命集う魔法学島

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姦姦蛇螺(2)

 

 獣牙種(オーク)の血を継ぐ戦士による、全身の筋肉を100%酷使した戦闘が続く。


 「おりゃああああああ!」


 ものの数分で一帯が破壊しつくされる攻防の中、ヴィトーラの肢体はしなやかに躍動した。白い肌には飛び散る破片による傷が増え、滴る汗がショーツを肌に張り付かせる。


 ――うおおっ、尻――!?

 ――あっ! 何見てんスかセンパイッ!


 それは遠巻きに戦闘中だった義瑠土(ぎるど)員の目すら釘づけにした。

 だが殆ど全裸で跳ねまわる当人はそれどころでない。不可視の攻撃魔法を常に警戒し、自身の攻撃は全力を込めねばダメージを望めない。よしんば傷を負わせても立ちどころに回復される。


 「(迷宮全体の魔力を削るっつっても、せめてコイツを殺すぐらいしねぇと効果ねぇだろ)」


 ヴィトーラの実感は正しい。曲がりなりにも魂を持つ怪異妖怪達が最も魔力を消費する瞬間とは、死からの再構築である。多少の傷を与えた所で、前記に勝る魔力消費は無いのだ。

 しかし追い詰められているのは姦姦蛇螺(かんかんだら)でなくヴィトーラ。黒い下着で隠せない腕や腹、両足に至る全ての柔肌に、鍛え上げられた筋肉をハッキリと浮かばせ、恥じらいを捨てたダイナミックな動きで(ふもと)へ後退している。


 ―― ホ ほ


 「モウ神聖城壁の境界ダぞ」

 「ああ、わかってらぁ」


 ついにガドランとヴィトーラは光の障壁際まで追い詰められた。追い詰めた事を理解する姦姦蛇螺は、より邪悪な表情で夜闇の影から‘ぬるり’と姿を現す。大怪異の女体(にょたい)部分が嗜虐的興奮を感じている事は一目瞭然。多腕が女肌(おんなはだ)の湿り気を撫でるように蠢き、ひとしきり胸や下腹といった局部を(こす)る。

 

 かと思えば、いくつもの腕が機械的に印を結び、今までで最も強い魔力を垂れ流し始めたではないか。


 ガドランは全身に巡る魔力を増幅させた。

 ヴィトーラは足を前後に大きく開き姿勢を低く、姦姦蛇螺の魔法に備える構え。


 ≪ やあ ≫


 「っ?」


 だが突然、一触即発の場に似つかわしくない、ややくぐもった電子音声が聞こえる。

 予期しない声にヴィトーラとガドランは意識を声の方向、自分達の後ろへ。


 ほの暗く光る魔力の霧の奥から、視覚センサーの赤い光が輝いた。


 ≪ 苦戦しているようだね。いいとも、この僕が手を貸してあげようじゃないか ≫


 声の音源は直立する魔導機体、“(アケ)”のスピーカーであった。鋼鉄製の長い両腕には、魔戦大会の時とはややシルエットの異なる魔導機関砲がそれぞれ握られている。

 “明”は、おもむろに腕を上げ銃口を標的へと向けた。


 ≪ 安全装置解除。 “(アケ)” 射撃はじめ ≫


 〔 ――指示を受諾。射撃始め 〕


 声と共に、2メートルに及ぶ機関砲が轟音を上げて火を噴いた。細身の機体を支える関節は固定され、さながら固定砲台が如き火力を生む。


 ―― ッ!?!!


 最新式魔導機関砲の弾丸が、針程度の弾芯を核とした超圧縮魔力であるがゆえに薬莢の散らばりは無い。

 だが代わりに、鉄が弾けあう音が姦姦蛇螺から聞こえてくる。

 

 それは超高圧力の弾丸を、突き出された手より生じる不可視の力場で押しとどめている音だ。そして姦姦蛇螺が苛立たし気に鳴らす歯ぎしりの音でもある。

 

 ≪ おお、魔導機関砲の運動エネルギーを抑え込むとは。想定以上だ ≫


 「その声、クレルトギスタと一緒に来た論亜(ロア)とか言うガキだな?」


 ≪ ガキとは心外だね。(きたな)らしい台詞を吐く前に、僕への感謝を(つら)ねるのが先じゃないかい? まったく、ソチラの世界では半裸で戦うのが一般的なのかな? だとしたら理性的な会話など望むべくもないか ≫


 「あん? 身なりには気を使う方だぜ? 一張羅が汚れちまったんでな、脱いでマシにしたんだよ。それにテメェの助けなんざ要らねぇ」


 機関砲のトリガーを引きながら、スピーカーで論亜(ろあ)の声を流し続ける“明”。高性能演算処理により、姦姦蛇螺の防御へより負荷を与える弾道を計算し、異形蛇体の動きを押さえる。


 「‘ムセンツウシン‘なるニホンの技か。シカシ、魔力の濃い場所デハ使えナイと聞いタガ……」


 ≪ 僕を誰だと思っているんだい? そんな技術的問題、特に苦労せず解決済みだとも。まあ、まだ魔導外殻とか一部の重要設備にしか適用できていないけれど ≫


 ガドランの疑問に答える論亜は、司令部テントから一歩も動いていない。椅子に座りながら、視界をメカメカしいゴーグルのような機械で覆っている。このゴーグルによって“明”と視界を共有し、距離と魔力障害を飛び越えた音声通信を可能にしているのだ。

 

 「ともかく、僕は今状況をリアルタイムで把握しているんだ。ここなら呪いも届かない。姦姦蛇螺相手に逃げ惑っていた君よりは、上手く戦えると思うけどね」


 「論亜ちゃん、次ソレ貸してくださいー」


 「クレルトギスタくんは神聖城壁の維持に集中したまえよ」


 どこか緊張感の無い司令部の様子が、“明”を通して聞こえてくる。皮肉交じりの言葉にヴィトーラも苛立っている――かと思えば、彼女は下着姿でも堂々とした様子で笑っていた。


 「ハン、このアタシが(ただ)逃げ回っていたとでも?」


 ≪ほう?≫


 「それよりもいいのか? 蛇女が痺れを切らしたみてぇだぞ」


 姦姦蛇螺の苛立ちは頂点を迎えていた。途切れず視界を埋める熱弾を防いでいたが、ついに一段と強い魔力を放出し弾丸を、射手である“明“ごと吹き飛ばしにかかったのだ。

 あとは質量を盾に、正面から押しつぶせばいいだけ。

 “明”は姿勢を崩しながらも弾丸を放つが全て無視。カラダに穴を空けながら突っ込んでくる。


 「ようやく山の(きわ)まで連れてこれたぜ」


 凄まじい圧で迫る大怪異を前に、ヴィトーラは‘してやったり‘と白い歯を見せる。

 

 「危うイ場面もあったガ、何とかナッタ。ココでなら大いニ地の魔力ヲ手繰(タグ)り、()レル」


 「【石礫弾(せきれきだん)】も【断崖轟槍(だんがいごうそう)】も、土地の支配権を取られてるんじゃあ威力はおざなり。だが【神聖城壁】で支配があやふやになった此処なら、本領発揮だ」


 「容易(タヤス)くハ無いガ……」


 「波とツキは乗りこなしてこそッ。多少の無理は(チカラ)で通す!」


 ヴィトーラは逃げていたのではなく、自身が有利となる空間へと姦姦蛇螺を誘い込んでいたのだ。迷宮核による土地の支配は霊園山全体に及ぶも、不安定な地点がある事をヴィトーラは見抜く。

 土地の呪詛支配は機械的でなく、さながら揺れる感情のように浮き沈みが激しい。

 呪いの深さは強力だが、均等でなく場所場所によって()()()になっているのだ。

 

 「馬鹿の一つ覚えで追ってきてくれたんだ、盛大にもてなしてやらなきゃなぁ――獣牙種(オーク)本気(マジ)を味わって()けやッ!」


 もはや怪異は、鉄火場を仕切る勝負師の(カモ)


 「足を止メルッ、【断崖轟槍】ッ!」


 初めにガドランの岩槍が次々と地面から飛び出し、数刻前とは比べ物にならない破壊力を(もっ)て蛇体を串刺す。

 

 「 牙の(いさ)みよ敵を()め 祖霊の(かかと)よ踏みにじれ  

   (おご)りを(にえ)とす地の礼讃よ 血潮(ちしお)血河(けつが)を渇きの大地へ(ささ)(ほう)じん 

   底よ 地の火よ 世界よ開け  ――【獄咬(ごっこう)祭壇(さいだん)】  」


 魔力の軋みが大地を揺らす。凄まじい地響きだ。

 地平で繋がる果ての果てから、チカラが集まり地を割り砕く。夢かと見まごうばかりの天変地異。

 侵された山以外から引きずられてきた魔力の脈が、術者立つ大地へ()()(アギト)を押し開かせる。

 地割れの全てに岩刃が並び、下は地獄の灼熱溶岩。


 瞳を焼く溶岩の光が、ヴィトーラの豊満なカラダに濃い陰影を作りだしていた。


 ―― ア あ あっ  Aあ ああっっ


 穴を空けられた姦姦蛇螺が、地獄の口へと沈んでいく。逃れようと暴れ叫んでも、成す術もなく(むご)い刃に刻まれていく。

 肉片となっては熱に焼かれ、こびり付く怨嗟すら大地の糧とし死んでいくのだ。


 「どうだ、戦争時代の獣人が編み出した対軍魔法は。本当は地平線の端から端まで地割れに飲み込ませる術らしいがな……今回は、これぐらいで、カンベンしてやる――……」


 徐々に閉じていく地獄の門。魔力切れを起こしたヴィトーラは、剥き出しの肌に熱の余韻を感じながら、地面へ汗で湿った尻を降ろし胡坐をかくのだった。


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