表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる人外暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
3章ー運命集う魔法学島

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

357/400

姦姦蛇螺(1)


 普段であれば夜風と闇の静寂が満ちる霊園山。しかし呪腕の群れと狂蒼(きょうそう)の魔力光に支配された今、山に安寧の場は何処にも無い。


 「来やがるぞ、構えろッ!」

 「地ノ精霊よ、言祝(ことほ)グ我の石牙なりヤ――」


 至る所で苦悶があった。見渡す限りで戦いがあった。多くの義瑠土(ぎるど)員が各々の武器で、魔法で、山に湧く呪いの進行を食い止めている。先刻よりも頑強で悪辣と化した異形達に、全力を以て抗っているのだ。


 「後ろだガドラン!」

 「【石礫弾(せきれきだん) 三牙襲突】ッ」


 特に墓地区画のはずれで戦うヴィトーラとガドランの奮闘は凄まじい。詠唱、無詠唱を織り交ぜた魔法の乱打は、周囲の異形を一辺(いっぺん)に薙ぎ払い、強度を増したとはいえ蠢くだけの有象無象を寄せ付けない。


 「ハアッ、ハッ」

 「ったく、貧乏クジ引いたぜ。こんなヤベェのには、向こうの世界でも早々お目にかかれねぇぞ」


 しかし、一見優位に見える魔法戦士達の息は荒い。魔法触媒を兼ねる同じ長警棒を持ち、同郷(ゆえ)の地属性魔法による連携は、初の共闘にしては見事と言える。

 

 だが敵は、“悪徳嬢王(あくとくじょうおう)”にしても悪態をつきたくなるほどに強大であった。


 ―― ほ ほ ホほほほ


 圧倒的なサイズ差、蛇体の筋力、ヴィトーラの知識に無い術式体系から放たれる不可視の魔法、そして矮小なヒトに対し侮辱を表せるだけの知能。

 巨大な“うねり”が木々を蹴散らす。並ぶ鱗が地面を削る。異形の女体が全裸で嗤う。


 「カンカンダラ、だったか? 半人魔蛇(ラーミア)の変異種ぐらいかと思ってたが、アテが外れたらしい。アタシが手札を読み違えるたぁ……ヤキが回った」


 神聖城壁を通り抜けたヴィトーラは、自らの名乗りで標的とした姦姦蛇螺(かんかんだら)の元へ直行した。先手で魔力を込めに込めた警棒を頭部へ叩きこみ、至近距離で火魔法を炸裂させる。

 蛇人は傷を負った。だがそれだけだった。瞬時に消える(アザ)にもならない打撲跡と火傷(あと)


 「我が【石礫弾】ガこうモ簡単に……」


 あとはひたすらに劣勢。岩石をも貫く不可視の魔法に逃げ惑い、ガドラン渾身の【石礫弾】3点バーストも、姦姦蛇螺(かんかんだら)が手印を編むとたちどころに塵と化す。


 ‘にたり’と、大蛇の頭にすげられた女の顔が、口を耳まで裂き開く。


 「っ、(かわ)せガドランッ」


 ――オN ベイシラまナYA SOWa、カ、かかかかかか


 ヴィトーラの警告を受け、ガドランはなりふり構わず横へと跳んだ。すると彼の立っていた空間が透明な(ねじ)じれによって、一瞬で大きく破壊される。

 付近の墓石に留まらず、墓地区画の一帯が見るも無残に崩れていく。対照的に汚水と白腕は皮肉なまでに穏やかであった。


 「クソが、何の魔法だよっ?」

 

 「まるデ、殺意ヲそのまま投げツケルようナ魔法ダ」

 

 「見た目が腕の塊だった頃とは、比べ物になんねぇほど硬ぇ。妙な魔法の威力も上がって、再生力も据え置きってのはイカサマが過ぎるよなぁ!? ええっ? 蛇のバケモノがよぉ!」


 ―― ほ ほ ほ


 さらに大怪異の攻勢は止まらない。笑顔をさらに愉悦に歪め、蛇頭に生えた女体をうつ伏せに地面へと垂らし、人外にしては妙に豊満な乳房からまず汚水に浸かっていく。そのまま姦姦蛇螺(かんかんだら)は、長い長い全長を異界となった水底へと沈めた。

 

 「気をツケロ! また不意をツイてくる気だ」

 「言われずとも分かってらぁっ」


 2人は互いに死角を庇い、総鉄製の長警棒を構える。

 襲撃はすぐに訪れた。

 両者の足元から泡立ち始める黒い水――。


 「 ! やられた、下だッ」


 言うが早いか、阿修羅似の多腕が爪を突き立て下から飛び出す!


 「ぐあっ!!」


 空中へ突き飛ばされたのは小柄な人影。咄嗟にガドランを庇ったヴィトーラである。

 彼女は辛うじて殺意に満ちる幾本もの腕を(かわ)すも、結局仕舞いには腕の横薙ぎと巻き上げられた汚水を身に受けた。

 

 服に染みる腐水から、カラダを()った痛みから、女神の呪いが駆け巡る。


 「くう、ぅぅ――趣味の悪ぃ呪いだな!」


 ヴィトーラは飛ばされた先の地面へ着地すると同時に、呪いに汚された衣服を破いて脱ぎ捨てる。

 もはや肌を隠すのは下着一枚。魔法学島で揃えた黒のブラとショーツ、フラットシューズだけの出で立ち。さらにブラに至っては片側の肩ひもが千切れて(たゆ)み、胸の先端が微かにこぼれ出てしまっている。


 「スマンッ、油断シタ!」

 「ったく。()()はまず七郎のヤツに見せびらかしてやるつもりだったのに――」

 「ドウシタ? 傷を負ったカッ?」

 「何でもねぇよ」


 あられもない姿となったヴィトーラであるが、羞恥心はおくびにも出さない。ガドランにも幼馴染の半裸に動揺は無かった。

 双方獣人国家で生まれた戦士の血筋。敵を前にして隙を(さら)すは愚の骨頂であると理解している。

 

 「(チッ、気色悪ぃ。腹の奥が(うず)くみてぇな……)」


 例えヴィトーラの足が、澱む魔力により生じた風のひと撫でで震えていても、彼女はいくつもの港を統べた女としての矜持で立ち続ける。


 窮地に立たされる2人に、蛇の怪異は容赦なく迫っていた。


『ブックマーク』と★★★★★評価は作者の励みになります。お気軽にぜひ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ