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【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる人外暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
3章ー運命集う魔法学島

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識り記す者(3)


 「コレが、情報? 紙束に……結びだけは嫌に厳重」


 紙自体は古くも新しくもない普通の材質に見える。だが紙束を()じる黒(ひも)が何重にも巻かれており不気味だ。


 「今時紙媒体でよこすとは僕も驚いたけどね。でも見た目通りのシロモノじゃ無い」


 好奇心が刺激されるのだろう。論亜(ろあ)は笑みを浮かべ、情報とやらを舐めるように眺めていた。


 「ただの紙に見えるでしょうけどー、凄いですよコレー。縛っているヒモや紙自体にも、魔術的な封印が信じられないくらいびーっしり! 読み解けない人には絶対空けられませんー」


 クレルトギスタはそう言いながらも、指先に魔術式を描きながら封を解き紙束を広げる。

 中から現れたのは、これでもかと敷き詰められた文字列の層。だが全ての文字がモザイクのように乱れ、伽藍(から)をはじめとした少女達には内容を(うかが)い知る事が出来ない。


 「気味がワリィな」

 「ぜんぜん読めません……」

 「僕は読めるよ」


 「手間でしたけど、論亜ちゃんにも手伝ってもらいながら解読しましたー。ゼナちゃんなら一瞬で終わらせたでしょうけどー……」


 「へぇ、星譚至天【小さな角】ゼナかい? 彼女はウィレミニアで最も優秀な魔法使いだと聞くけどね。ぜひ会ってみたいものだよ」


 「……それで、情報の内容は?」


 ゼナの名に一瞬メセルキュリアの表情が曇る。しかしクレルトギスタでさえ気づかない機微の変化を、他の者が察せるはずが無い。


 「これらは全て、あの手の魔物について記されていますー……けど……う、ふふうふふふ」


 と、論亜に続き今度はクレルトギスタが、論亜などよりもよっぽど怪しく、もう(こら)えられないといった様子で薄ら笑う。


 「……クレルトギスタ」


 急な奇行。これにはメセルキュリアも困惑の表情……と思いきや、意外にも予想していたかのような呆れが見えた。


 「何が可笑(オカ)しいってんだ、【王立図書館】サマ?」


 「だって、これ、こーんな頭のオカシイ記録書物初めてなんですー! もうたまんなーい! ニホンの神性について解釈っ、次元を超越した魔力質量への論述などなどなどなどっ、どこをどう切り取っても既存の書物の一世紀先をいってますっ。世っ界一カオスな“物語”ッ、ウィレミニアに持ち帰ればゼッタイ禁書してーい! 愛おしーいっっ」


 丸縁メガネの奥にあるクレルトギスタの瞳は、普段の様子からは想像もできないほど爛々(らんらん)と輝いている。紙束を両手でつかみ掲げ、全身で歓喜を表現しているのだ。


 「ああっ、コレを秘密で図書館に仕舞ってー、自分で編修できたらーっ、濡れちゃーう!」


 「ど、どうしたんでしょうか、クレルトギスタ様……」

 「彼女、あの記録を初めて読んだ時も‘ああ’でね。自身の振る舞いを客観視する能力は大事だと思うのだが」

 「どの口が言ってるのよ論亜」


 「ハァ……クレルトギスタの悪癖だ。コレを除けば真人間なんだがな……」


 【王立図書館】の称号は、クレルトギスタにとってある種の額縁。図書館を己が家とするための言い訳。仮にもウィレミニアが誇る書の貯蔵施設だ、管理する者の(はく)が問われる。

 

 今(なお)あらゆる記録媒体を収集し続けるウィレミニア王立図書館……彼女がその写し身であるのは、彼女が図書館の司書であり主人であるからでは無い。


 彼女は図書館の書物という書物、果ては神代の遺物や禁書に至るまでを魔力情報パッケージ化し仕舞いこむ。この偏愛こそ、彼女を額縁で飾り付け“図書館という餌”で縛り続けなければならない理由。

 一歩間違えれば白星級冒険者へ討伐依頼が下る……間違いなく世界一危険な活字中毒者なのだ。


 「はぁ、はあ……ごめんなさい、取り乱しましたー」


 「彼女のような人間を、こちらの世界ではビブリオフィリア(愛書家)と言うんだ。ひとつ勉強になったろう伽藍くん?」

 「知りたくなかった知識ね……」

 「と、ところで、まだ封がしてある紙があるみたいですけど……これは?」


 クレルトギスタの狂態をさておき、リンカが紙束の一部を気にする。確かに指摘した一束は、他の情報紙と異なり封をされ畳まれたままだ。

 疑問を受け、論亜が唯一封じられたままの束を手に取る。


 「コレには他とケタの違う、とても強力な封印が施されている。この部分だけは僕らもまだ空けて見ていない」

 「既に開封した情報から照らし合わせるに、最後の封印には“名前”が記されているハズですー」


 名前。それが迷宮の魔物と何の関係があるのか?

 この場に居る人間の疑問を代弁するようにメセルキュリアが問う。


 「名前だと? あの山すべてに広がる呪いに、名があるというのか?」

 「はい。これこそが、あの迷宮攻略のカギになるんですー」


 魔を超越した存在が持つ、複雑な規則性と無限の不死性についてクレルトギスタは大まかに理解した。

 すべては手に入れた紙束に記される情報のお陰であるが、故に【王立図書館】は別の懐疑心も抱く。


 「(情報には違いないんですけどー……視点を変えるとコレ、“設計図”にも見えるんですよー。まさか、あの呪い、ヒトが造ったなんて事無いですよねー……?)」


 ウィレミニアならいず知らず、魔法歴史の浅い日本で起こり得るハズの無い人為魔法災害の可能性に、クレルトギスタは不安を抱えながらも言及は控えた。

 今は原因よりも対処を急がねば、黒牢事件と同等の被害が出る恐れがある。迷宮の調査は後回しでよいとクレルトギスタは判断する。


 「まあ丁度いい。ここからは専門家に説明願うというのはどうだい? 霊園山を誰より知っていそうな人間がここに居るだろう?」


 論亜の言葉に反応したのは、テントの隅で半ば傍観者と化していた(つじ)京弥(きょうや)櫻井(さくらい)(さくら)


 「え˝……そ、そりゃ霊園山で何年か働いてたケドよ、あんなの……イヤ……ちょいちょい視界の端に見てたような……」

 「あんな手のオバケ、見たこと無いし知らないっス」

 「大狂行(スタンピート)のトキに同じ魔力ヲ感じたガ、ここマデ強クは無かっタ」


 ガドランも2人に追従し、役に立つような心当たりは無いと語った。そんな3人の言葉を論亜は“何を見当違い”をと一蹴する。


 「君たちに期待なんてしてないよ。僕が言ってるのは、迷宮を10年抑えてた初代魔導隊の事だ」


 「ああ、なーんだ七郎さんの事かよ」

 「期待してないなんてヒドくないっスかー!?」

 「運悪ク霊園山を離れてイタガ、ソウカ、帰ってキテいたのカ! また、彼と戦エルのダナ」

 

 「そういやテントに来ねぇな七郎。外に居んだろ?」


 「なんだか外がすごく明るくありませんか?」


 「さあ呼ぼうじゃないか、この謎に満ちた迷宮を知る男を。知っている事を語ってもらおう」


 「おーい何してん――」


 都度(つど)仰々しい論亜を無視しながら、ヴィトーラがテントの幕をめくり外を見た。

 途端に昼間のような光量が網膜を焼く。


 「 ゴ オオ ォォォォ―― ! ! 」


 「――だー……????」


 光源となる火の山が、炎を噴水のように口から吐き出す男の影を伸ばしている。

 振り向く視線は十字に燃えて、熱放射によって浮き彫りになる牙の並び。魔戦大会での記憶が思い起こされるも、あの時とは焼却範囲と火力のケタが違う。


 ヴィトーラはこめかみを(ほぐ)し、一旦テントの幕を閉じて落ち着くことにした。


 「なにかいま、トンデモない光景が見えた気がするんですけどー」

 「ヴィトーラさん? 七郎様をお呼びするのでは?」


 ドカリと椅子へ座り直し、芸術作品‘考えるひと’と同じポーズで静止するヴィトーラを尻目に、今度はリンカがテントの幕を捲る。


 「呼んだ?」

 

 そこには、何事も無いように墨谷七郎が立っていた。


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