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【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる人外暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
3章ー運命集う魔法学島

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因果集結(3)


 ――あれ? アイツってV―三〇三号と戦った……

 ――てか何のつもりで黒騎士の隣に並んでんの?


 会場は歓声から一転、徐々にざわめきが支配する異様な空気に変わっていった。

 準決勝での活躍もあり遅れてきた男に見覚えはあるものの、英雄の隣に立つ意図が読めない。

 エキシビジョンマッチに参加するのか?

 そのみすぼらしい鎧はいったい何なのか?

 直接問うには観客席と闘技場は遠すぎる。そして困惑は同じく、観客席から(へだ)たれた特別観覧室にも生じていた。


 「あら、旦那ですね。てっきり呼ばれてないのかと思いましたけど」

 「なんだなんだ、いっつもヤツぁ騒ぎの渦中に居んなぁ? オモシロくなってきそうじゃねぇか!」


 「……嬢……」


 観覧室にはミスルムやクジャク、そして‘知った顔だから’とクジャクに招かれた獣牙種(オーク)レギラガも居る。

 流石に今日は彼らの手に酒は無く、純粋に魔戦大会の大一番を観戦……もとい、日本の英雄“黒騎士”の品定めをせんとする腹積もりだ。


 「この一室……品は及第点ですが、少々狭苦しい。メセル殿に新しい聖剣の遣い手について所見を聞こうと思っていたが、やはり(わらわ)は日を改めるか。ニーナラギアールも(せわ)しないこと……」


 だが室内の人影は、先ほど述べた3人だけに留まらなかった。

 なんと“星譚至天【(すべ)羅美針(らびしん)】ミスルム”が姿を現したのだ。ゴルドスやレギラガなどは、普段通りを装いつつも若干の緊張が見て取れる。それほどに()のエルフの高名は、あらゆる世代と身分のヒト種に轟く名であるのだろう。


 「(なぁ獣牙種(オーク)の戦士よぉ)」

 「(ンム?)」

 「(あの大公サマは、何だってこんなトコに来たんだかなぁ?)」

 「(【聖剣】ニ急ぎの用だろう……当の戦乙女は、窓から観客席に降りて行ったニーナラギアールを見送っタ途端……)」

 「(ああ、なーんか怖ぇ顔してらぁ。触らぬ神になんとやらだぜ)」


 「なんだい、せっかくここに来たんだ。黒騎士とやらを拝んでいったらどうです? ミスルム公」


 そんな威厳にも臆せずミスルムを呼び止めるクジャク。

 

 思えば豪勢な事だ。この一室に集まるのは、誰もかれも絶世と表現しても過言でない美女ばかり。

 赤炎(せきえん)の髪に紅い着物、どこか妖しい色香を漂わせる、華やかな美を具現化したようなクジャク。

 ニーナラギアールよりも深い翡翠色の髪と透明感のある肌、豊満な肉体を薄絹で惜しげもなく晒すミスルム。

 鋭く陽光を跳ね返す銀髪、筋肉質でありつつメリハリのある女性らしい肉体に、凛々しさと高貴を併せ持つ美貌を乗せるメセルキュリア。


 世の男にとって垂涎(すいぜん)モノの光景だろう。ただし彼女達の肩書に怖気づかなければの話であるが……。


 「其方(そなた)が“紅天女”……その魔力量、噂に違わぬ傑物に相違ない。して、なにゆえ妾に殺気を飛ばす?」


 「参ったね……あんたの雰囲気が喧嘩別れした(あね)に似ていて、つい身構えちまっただけですよ。気を悪くさせたなら申し訳ないことで」


 「ふっ……さぞかし優秀な姉君だったと見える。……ではさらば、妾も暇では無いゆえ」


 ミスルムは背を向けて去り、刺々しい空気は消え去った。

 クジャクは、どうしてかミスルムを‘好かない’と感じる。実際に近くで見て、やはり絡新婦(じょろうぐも)レンメイと同じ“毒”を無意識のうちに嗅ぎ取っているのかもしれない。肉欲を用いた手練手管、男を絡めとる陰湿な毒を。


 「……ニーナ」


 しかし、窓際に立つメセルキュリアに背後の喧騒は届かなかった。それほどに (ニーナ) を案じていたのだ。


 “ああ……そうなのね。なんだか、こうなる気がしたのよ”


 メセルキュリアはニーナの瞳に、悲しくも晴れやかな決意が宿るのを見た。幾多の兵の先達として戦い続けたエルフが、痛みに耐えるかのように胸を押さえ、闘技場の()()()を慈しむように笑うのだ。

 彼女の笑顔がメセルキュリアに一抹の不安を与える。


 “もう顔を背けるのはやめなくちゃ……メセル……後で迷惑かけるけど、頼んだわよ。これが私の責任だから”


 そう言い残し、ニーナは颯爽と窓から落ちるように解説席の方へ飛び出したのだ。

 メセルキュリアは永く支え合った友の決意を、何も言わずに見守る事にした。


 ・

 ・

 ・


 「(昨日の事は忘れろ。いつもどおりにやればいい)」


 時刻は(しろがね)伽藍(から)たちが入場する直前に巻き戻る。

 鋼城(こうじょう)勝也(かつや)は自身の為に開発された鎧を着こみ、己の心を懸命に奮い立たせていた。


 「(ドイル枢機卿もシクルナちゃんの事も、もうオレには関係ない! オレに恥ばかりかかせて……くそっ、最近周りのオレを見る目が変わってきてる気がするっ。魔導隊にも妙な空気が流れて……オレが騎士蜂と戦わなかった事を、藤堂さんと“あかいくつ”に見られたからだ。あの2人が喋ったに違いない。どうすればいい? どうすれば――【聖剣】だ……銀伽藍を使って、オレの立場を盤石にするっ。オレの事はオレが決めるんだっ。誰でもない、オレ自身が――っ)」



 ―― 消えろッオレの邪魔をするな!

 

 ―― 俺の中身を一番理解しているのはお前だろうに!

    この胸に大穴を開けてなぁ!


 

   ……そうだ。

 


 「オレが選んだ……オレが、戦わないことを……選んだ」


 黒騎士の心は焦りに苦しんだ末、痛みの根源に立ち還る。忘れたかった過去の罪が、癒えないままにずっと痛むのだ。

 結局は、自分が自分を許せないだけの、とても簡単な話。


 「(オレは、いつからこんな人間になった?)」


 決まってる。10年前だ。逢禍暮市(おうまがくれし)でオレだけが生き残った時。

 あの事件から、自身の胸に刺さる後悔の自問自答が常に繰り返されている。


 初代魔導隊みんなで戦っていた時も恐ろしい事はあった。辛い時はあった。

 でも苦しくはなかった。

 自分で自分の首を絞める様な息苦しさ。悪夢にうなされた日は数え切れない。

 

 ……死んだと思っていた墨谷が還ってきた日から、苦しさは増すばかり。


 「(オレは……此処で賞賛を浴びるに足る人間か?)」


 気づけば驚くほど素直に、プライドを捨てた言葉が頭に浮かぶ。

 

 「……違う」


 笑ってしまいたくなる程、あっさり口にのぼせたのは否定の言葉。心の重みが消え失せる。


 「(こんな簡単な事だったのか……こんな簡単な事だってのに)」


 もうオレに、この言葉を吐き出せる場所が無い。オレは義瑠土と魔導隊の象徴なんだ。


 オレはこの期待に応えなきゃならない。強い“黒騎士”じゃなきゃならない。皆を安心させる為にッ。

 でなければどうしてあの時――シクルナちゃんに言われるまま逃げた? 生きようとした?


 あの時、助けられなかった命より多くの人を助けて…安心させて……。


 「言い訳だ」


 自分を嗤う独り言も、兜の中では嫌に響く。

 

 いつのまにか闘技場の搭乗口を(くぐ)っていた。幾度も身に浴びた歓声を、今日も全身で受け止める。


 ―― いつか墨谷に 許してもらえる日が来るまで


 鋼城の内にこぼれる願いが、声として彼の耳に届くには、少しだけ降り注ぐ声援が大きすぎた。


 ・

 ・

 ・


 戦意、もしくは意志の圧力とでも表現すべきか……肌を刻むようなヒリつきが石畳の大円を満たしていく。

 超満員の観客の視線は中でも2つの黒鎧と清純なセーラー服、そして品を(なめ)暗緑(あんりょく)のスリットドレスに集中していた。

 当の4名はひとりを除いて心を乱す真っ最中。


 「なん……の、つもり……墨谷七郎……ふざけるにしては、度が過ぎてる……!」


 軽蔑。     憧れ。

 信念への誇り。 恋慕への恐れ。

 

 剣姫の思考は乖離(かいり)する感情を同時に(はじ)く。しかしそれは、少女本人があずかり知らない胸の奥底で、だ。考えとして整理できているかも怪しい。

 観衆も彼女ほどではないにせよ、湧き上がる疑問の答えを求め、それはおおむね静かに登場した場違いな男への不信感といった形に着地する。

 動揺が広がる様子に危機感を感じたのは、この紆余曲折を経て実現した異常事態に巻き込まれる哀れな実況解説者フレイヤであった。


 ≪お˝、オゥ、オォっとーぉ? 飛び入り参加は聞いてないぞーッ。墨谷選手、エキシビジョンマッチにどーしても出たかったのかー!? 今までの試合とは違う(よそお)いに本気度が……(うん? なんかあの装備見覚えが……黒騎士にちょっと似てるからかな?)≫


 「――少し、場を貸してくれる? フレイヤ」


 ≪ ニーナ! 上から降りてきたの!? いいよー、魔法に詳しい解説者は超歓迎ーっ……どしたの? 胸痛い? 苦しそうだよ?≫


 ニーナラギアールは【血盟契約】によってもたらされる警告痛を無理やり押さえつけ司会席へ上がる。

 悲し気であり晴れやかな気もする彼女の表情を見て、フレイヤは自然と背筋が伸びる気持ちになり、むりやり冷静さを取り戻し 仕事(司会進行) に(いそ)しむ。


―― あの彼が着てる装備……初代魔導隊のレプリカですかね?

―― 魔導隊の熱狂的なファン?


 すると観客のざわめきも良く耳に届くというもの。中でもフレイヤの聞いた“初代魔導隊”なる単語は、自身の記憶に生じる引っかかりを解く答えになる。


 ≪ あっ、そーか!! 墨谷選手が着てる鎧みたいなの、アレ前にテレビの特集でみたヤツっ。いやーでも初代魔導隊の装備レプリカにしてはボロボロだよ? なんで…………あれ?……あの傷、まるでホントに使われたみたいな……≫


 鎧への憶測が飛び交う最中、好奇の的である当人は片手に持ったヘルメットを万感の思いを込め眺めている。

 反対の手には別の()()を持つため、片手の指で器用に傷を撫でているのだ。

 思い起こすかのように、ともすれば詫びているかのように、男の指遣いは途方もなく優しい。



 ≪ 伽 藍 ≫


 ニーナラギアールの声がマイクにより拡張される。彼女の声は、人で満ちる空間に静寂を呼び込むほどの存在感があった。


 名を呼ばれた剣姫は言葉の続きを待つ。


 「(そんな――嘘よ……)」


 弱く震えて、思い至った答えが誤りであることを願いながら。


 ≪ 聖剣に選ばれた子……私の生徒。お前は、ついに彼等と並ぶのだな ≫


 男は、かつての師の嘆きを受け入れて静かに兜を被る。鎧に空く傷跡から、ほのかに血の臭いを滴らせて。


 ≪ ずっと悔やんでいた。私のしたことは正しかったのかと……子供だった()()()()を酷い事件に巻き込ませて、名前すら残せず、この子達が救い上げた憧れからも遠ざける≫


 ‘ガチリ’と、在るべきモノが在るべき場所に。

 彼の鎧は記憶と違う。傷つき壊れ、だけど確かに己の原点。


 「あの姿は――じゃあ、あの背中は……伽藍は今までずっと……!」


 霊園山で出会い、絡新婦(じょろうぐも)を追い、亜水竜との死闘を繰り広げ、学園で憧れを追憶する。

 友達との衝突も、聖剣を握る数奇な運命も……全て夢を追う道すがら。

 正しさを胸に強く在り続けた。強さを支えに10年前の景色を想い続けた。弱かった少女はもういない、あなたと一緒に戦えるんだと伝えたくて。


 「なによ……! ずっと隣に居たんじゃない……っ」


 守るべき顔半分が、裂け割れた亀裂の影に浮かぶ。

 なのに涙でよく見えない。本当の彼を知ろうとしなかった自分が、あまりにも情けなくて仕方ない。


 ≪ こんな現在(いま)が‘正しい’はず無い。だから、せめて少しでも償いたいの。……そして見せて欲しい。運命神の慈悲宿す聖剣が あなた(現在) と 彼ら(過去) を繋ぐ(さま)を! さあっ、準備はいいっ?≫


 いよいよ契約で縛られるエルフの胸に、罰を与えんとする魔力が焼き付いた。

 彼らの名は封じられている。決して忘れ得ない、彼女にとってニホンで初めての生徒達。


 契約を違える代償はカラダを巡る魔力の封殺。体内を滅茶苦茶に傷つける痛みは、彼らが味わった苦しみなのだと受け入れる。

 

 例え苦痛に声が震えても、あの子達の名は、他でもない私が叫ぶべきだからっ。



 ≪ 初代魔導隊、鋼城勝也。そして……同じく初代魔導隊、墨谷七郎! 私の自慢の生徒達ッッ ≫



 構える腕は勇気を携え、踏みしめる足は強く重い。


 少女の憧れは堂々と、聖剣を恐れず勇壮に立つ。

 亀裂に浮かぶ暗い瞳が十字の光を宿し燃えていた。


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