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【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる人外暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
3章ー運命集う魔法学島

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向かい合わせの現在


 「浜辺で見た……金の、ドラゴン。あれが……」


 竜は気圧されている鋼城(こうじょう)を無視し、俺を害虫でも見るかのような眼で睨みながら床へ降り立つ。


 「城の煩わしイ人間どもノ次は、気色悪イ(オス)とハ……キサマ、名はナンダ? 真の竜たル(ワレ)が直々に問うてヤル」


 「教える義理は無い」


 「――潰されたいのカ?」


 殺意に塗れた視線が刺さる。遠巻きに見る人間の中には、竜の発する圧だけで気絶した者も数人いる。

 この竜の存在は、目下頭の痛い問題だ。俺達白旗は計画最大の障害……アイテールルを排除する準備を進めているが、この(ナーヴニル)には現状確実な対処法が無い。

 

 俺とシルヴィア2人がかりなら殺せそうだが、リィンカーネーションの前に大事は起こせないしなぁ。


 殺し合いに発展するか否かは、竜側の常識の有無によるが……。


 「不快なリ。この人間どモの巣ごと焼き払ってくれヨウ」


 「ッ、墨谷! なんで挑発するようなマネをっ」


 「(やる気満々だな。かといってシルヴィアの(アダ)同然の竜にへりくだる気も無い。……此処ごと焼く……竜子(たつこ)さんだけは何としても逃がそう……竜子……竜……前も同じような事思ったけど、やっぱり竜子さんの方が余程威厳あるなー)」


 「(ソレ、確実にいま考えることじゃないね。それと勝也(かつや)がうるさい)」


 「(脳内に直接ツッコむのはやめてくれ璃音(りおん)。あと鋼城(こうじょう)の事を俺に言われても困る)」


 「待てやっナーヴニル!!」


 明らかに張り詰める空気を破ったのは、ふらつきながら立ち上がるヴィトーラの怒声だ。


 「嬢ッッ」


 ようやく人垣をかき分けた獣牙種(オーク)レギラガも、焦った様子でヴィトーラに駆け寄る。彼の仕草は、心の底からヴィトーラを案じる情深いものであるにも関わらず、真竜の眼はいよいよ汚物でも見るかのように歪む。


 「い、痛ぅ……こりゃあアタシとアンタの話だろう? 素人巻き込んでまで騒ぐことはねぇよっ」


 「元はと言えバ、ヴィトーラがそこな獣牙種(オーク)の言葉に惑わさレっ(ワレ)の元を去ろうとしたのが悪イ! 不愉快だッ。(ワレ)の友としてやったのに、ニホンに来てからロクに(ワレ)と遊ぼうとせんッ。もうよい、さっさと城に連れ帰ればよかったのダ!」


 「ちょっと、待――」


 よろめくヴィトーラへ、(うろこ)逆立つ竜の爪が伸びた。


 「ナーヴニルッ?」


 しかし大股で近づく銀髪麗人の声がナーヴニルの手を止める。烈剣姫(れっけんき)と共に会場を離れていたメセルキュリアの声であった。


 「んゥ? メセルキュリアか」


 「これは何の騒ぎだ、何故ニホンに居るっ? アイテールル様の寝所に帰っていたのではなかったのか?」


 「――これは良い所にぃ。探す手間が省けましたよ【聖剣】」


 新たに割り込んできた声には、老いてなお粘つくような含みがある。

 ノルン神教の集団が入り口からぞろぞろと入ってきたのだ。大方、以前と同じように真竜について回りここへたどり着いたのだろう。


 これで俺と鋼城(こうじょう)の周りは、ヴィトーラと獣牙種(オーク)の男……ナーヴニルやメセルキュリア、ノルン神教の集団と、異世界人たちに囲まれた事になる。ともすれば会場にいる人間の比率は、異世界人に大きく傾いているのではなかろうか。


 「枢機卿ドイル・サプライ……ゲート使用を許可されたとは聞いていない。魔戦大会の始めといい、勝手なことをされては困る」


 「なぁぜ我らノルンの子が、かように窮屈な扱いを受けねばならぁん? 我らが至るはナーヴニル様の許可あってのこと。それに……個人的にニホンをこの目で見たいとも思っておりましてなぁ。我が愚息を奪った蛮地は如何様(いかよう)なモノかと……さて……どの腹に生ませた種だったか……?」


 「(ああ、あの男(ライル)の父親かぁ。どうりで、どこかで見た汚らしい()だと思った)」


 いつか霊園山で処理した男の記憶はさておき、ホテルの会場は既に騒然とした様相だ。

 【聖剣】とノルン神教が牽制の視線を交え、ナーヴニルがヴィトーラに苛立つ。


 「――喜べヒトの雄。(ワレ)はキサマを駆除する時間も惜しイ。ヴィトーラと遊びたいのダ。立てヴィトーラ、獣牙種(オーク)など捨てて我と来イ。(ワレ)が初めて選んでやった友なのだゾ? 従えッ」


 半ば呆気にとられ状況を眺めていたが、しびれを切らしたナーヴニルがヴィトーラのドレスを掴み、乱暴に持ち上げるのを見て体が動く。

 後先の事を考えず、竜の腕を掴んで力を込める。自然と俺の背でヴィトーラを庇う形となった。


 ・

 ・

 ・


 「し、七郎……」


 今回はナーヴニルを宥めるのにドジ踏んじまった。


 コイツに庇われるのは何度目だ?

 アタシが島から出たがった時もそうだ。手下も船もねぇアタシは、コッチじゃひとりで戦うモンだと覚悟してた。ニホンへ渡る為にナーヴニルを抱き込んだはいいが、ヤツはいつ爆発するかもわかんねぇ災害だ。安易にヘタは打てねぇ。


 認めてやらぁ……心細かったよ。向こうの海じゃ“悪徳嬢王”なんて呼ばれていい気になってたってのに、ざまぁ無ぇ。


 「(また……借りを作っちまった)」


 不安に飲まれそうになる時、コイツ(七郎)は欲しい”火”をくれる。寒くなった胸に、また風に乗れるだけの熱をくれるんだ。

 

 アンタに(すが)りっぱなしだ。居てくれると安心しちまうんだよ。来てくれねぇかって期待しちまうんだよ。


 「(なあ七郎……もしかしたらお前が鍵なのかもしれねぇ。アタシの……アタシだけの宝を奪い返して……できりゃあ、先までずっと連れ立ってよ……七郎もアタシの宝に加えてやる……あの日の宝物みてぇな光景を、お前と作ってみてぇって思うんだよ)」


 心に、遠い昔に置いてきたはずのまっさらな憧れが甦る。

 叶うはずがねぇと自分を嗤っても、弾みだした鼓動は止まらない。熱く、激しく、叫びで奏でる歌のように、心臓の音はうるさくなるばかりだった。


 ・

 ・

 ・


 「どう見ても友達に対する扱いじゃないな、真竜ナーヴニル。竜っていうのは誰もかれも、人間を籠で飼う虫だとでも思ってるのか」


 「キサマ……(ワレ)に触れたナ……?」


 掴んだ竜鱗から、空気が焼けただれる程の熱が漏れる。周りで固唾を飲んでいた観衆も、恐怖によって身動きが取れない様子だ。

  逃げ出したいのに動けない。そんな心情を推し量れる。


そして、意外にも俺の行動で焦りを強めたのは、メセルキュリアとノルン神教の連中であった。


 「て、手を離さぬかぁ無礼者ぉ! このお方を誰と心得るか!? ナーヴニル様はそこな女を所望しているだけである。素直に渡せっ、竜の怒りを恐れぬとは愚かなっ」


 「スミタニシチロウ……勇敢だが、今回は我らウィレミニア世界の問題だ。手を引け。ワタシもニホンに首都を失わせることは避けたい。……“悪徳嬢王”は、そもそもが許可らしい許可も無くニホンを訪れた異世界人。お前が命を懸ける理由はないだろう」


 皮肉にも同じ結論を促すドイルと【聖剣】を無視し、俺はまず安全確保を行う。


 「“(アケ)”ッ、竜子(たつこ)さんを保護して、いつでも離脱できるようにしておけ!」


 〔 指示確認 全機能解放 最大出力準備 〕


 「おおうっ? なんだってんだい」


 俺の影から飛び出した魔導機体“明”が、近くの竜子さんを優しく抱きかかえる。あとは自分でどうにか出来る人間と……どうでもいい人間。


 「“明”の使い方としては及第点。まあ、まずこの状況に導いた君の行動が落第もいいところだけど。って言っても、君は止まらないよね」


 そうだ。璃音の言う通り、今の俺の行動にはデメリットしかない。

 だが我慢ならない。共犯者(シルヴィア)を灼いた竜の横暴が、共に戦った大戦士の()()までもを害さんとするのだ。

 許せるものか。見て見ぬふりなど出来るものか。


 「ノルン神教に、真竜……ウィレミニアはまだ学ばないのか。いったい幾つの意思を踏みにじれば気づく。幾つの魂を焼けば(かえり)みる。お前達はいったい、どれだけの人間を奈落に追いやった? 黒牢も、10年前のクーデターも、全部お前達の膿が引き起こした!」


 「……む」


 異世界人の中でメセルキュリアだけが(ほぞ)を嚙む。心当たりが無いとは言わせない。

 後悔の念があるだけ、ノルン神教の連中よりはマシだが。


 「報いは必ず訪れる。運命なんかじゃなく、他でもない人間の手によってだ。過去に埋めたつもりの恨みは、罪は、お前達をずっと見ているぞ――ノルン神教」


 「ふぅ……どうやら気をやっているようですなぁこの男。さっさと我らの仕事を果たさねばぁ――“黒騎士”。新しい聖剣遣いを連れてこぉい」


 「え……」

 「なに? 何のつもりだドイル枢機卿」


 「……ああ、わかってる……。伽藍(から)ちゃん……いや(しろがね)伽藍(から)、魔導隊として要請する。明日のエキシビジョンマッチをオレと戦い、その後はオレと一緒にウィレミニアで任務に当たってほしい。君を聖剣遣いとして、新たな魔導隊員に任命したいんだ」


 「か、伽藍が、魔導隊に?」


 「君をオレの相棒にしてあげよう。聖剣を使えるのなら、オレと並び立つにふさわしいよ。オレ達はこの世界に押し込められる器じゃないっ。ウィレミニアでこそ活躍すべきだ」


 「鋼城(こうじょう)さんの隣で……ウィレミニアで……」


 鋼城(こうじょう)はドイルに言われるがまま銀伽藍に歩み寄り、自分と……おそらくノルン神教への同行を求めた。

 伽藍も急な注目に驚きながら、黒騎士の手を取るべきか迷っている。


 鋼城(こうじょう)……黒牢の後も、ノルン神教との関りを保っていたのか。


 「伽藍(カラ)はまだチカラに目覚めたばかりだっ、聖剣保持者であるワタシが導く!」


 メセルキュリアも、鋼城(こうじょう)の要請の真意が、ノルン神教による実質的な拘束に繋がる事は理解している。


 「勘違いしないでいただきたぁい。【現在聖剣】はあくまでノルン神教管理の聖遺物。メセルキュリア……適合者である其方の意思がまかり通るは、決して聖剣がお前のモノだからではなぁい」


 ドイル・サプライは、メセルキュリアの地位は現王の血筋であることでしかないのだと皮肉っているのだ。


 「さらに、ナーヴニル様はアイテールル様を継ぐ存在。すなわちナーヴニル様の御言葉はアイテールル様の御言葉にも等しい。重ねて言おう……ナーヴニル様はそこな女をご所望だ。我らも新しき聖剣遣いが共に来ればウィレミニアへ帰るぅ……さあ、2人をこちらによこせ」


 「ヴィトーラには……いや、俺は()()に返さなければならない恩がある。誰が竜とノルン神教などに渡すか。ついでに烈剣姫(れっけんき)も連れて行かせないぞ鋼城(こうじょう)


 「七郎……ありがとな」

 「恩……イッタイ、ナンの事を……?」


 「つ、ついでってなによ墨谷七郎!? ……鋼城(こうじょう)さんも、ごめんなさい。答えはエキシビジョンマッチが終わるまで考えさせてほしい」


 「っ――伽藍ちゃん?」


 銀伽藍は鋼城(こうじょう)の手を取らずメセルキュリアの隣へ下がった。拒否されたことがショックだったのか、鋼城(こうじょう)もややうしろに後ずさり、双方の立ち位置は俺とナーヴニルを中心として2つに分かれる。

 ノルン神教と鋼城(こうじょう)、そしてメセルキュリアと烈剣姫(れっけんき)、さらにヴィトーラ達が割れて相向かう。


 「いつまで(ワレ)の腕をつかんでおる? ――……調子 に 乗 り お ってェ」


 何気に静かであったナーヴニルが俺の手を振りほどく。竜がノルン神教側に浮かび、俺がヴィトーラの傍まで数歩後ずされば、完全に陣営同士の睨み合いの形。


 「――(ワレ)を褒めヨ、メセルキュリア……(ワレ)は我慢していたのダ……キサマらの事情とやらヲ聞き入れ、我慢ばカりしてやったのダ! ダトいうに虫共が調子に乗りおっテっっ、ウィレミニアでない世界など知ったことカっ。今こそ(ワレ)の怒りデ、ココを焼き付くさン!!」


 「やめろナーヴニルっ。アイテールル様の名を汚す気かっ」


 「墨谷いぃ、どうしてオレの邪魔ばかりするッ。何を考えてるか知らないが、もう黙って消えろッ。オレの邪魔をするな! ……どうしてだ。何で今更……」


 「俺の事が分からない……? 心外だな鋼城(こうじょう)。俺の中身を一番理解しているのはお前だろうに!」


 「な、なんだと」


 「お前は俺の胸の内をよく知ってる。……覗いただろう、俺の胸に大穴を空けてなぁ!」


 「ぐ、う!?」


 銀伽藍やレギラガなど状況についていけない者もいるが、両陣営は間違いなく一触即発の空気を醸す。

 もはや後に引けない両者の対立。自らの運命が風前の灯だと悟る、無関係のパーティー参加者。


 獣の瞳に憎炎がちらつき、金色の竜熱が苛立ちに坂巻き、聖剣の極彩色が闘争に備える。


 そんな収拾のつかない混沌を生む広間に――……。



       きゅくく



 美しさを(もっ)てこの上ない、妖精の如き銀月が舞った。


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