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【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる人外暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
3章ー運命集う魔法学島

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背中合わせの過去


 夜会で過ごす時間は、(とどこお)りなく過ぎていった。竜子(たつこ)さんもヴィトーラも、烈剣姫(れっけんき)も戻ってこないテーブルでは余計に会場の音楽が際立ち、雑踏や話し声も耳に入る。


 「周りの人間は七郎の事を遠巻きに見るだけ……。腫物扱いじゃないか、おめでとう」


 「祝う要素あった?」


 「君の目的には好都合じゃないか。(わずら)わしい接触が減る。七郎は抜けているし、会話からどんなボロを出すか心配なんだよ」


 「アリガトウゴザイマース。……第一、会話ぐらいでバレる様な隠蔽はしてない」


 「それは君の目的の事かい? それとも、君の見た目の事かい? どちらにせよボクのように、君達には到達しえない頭脳を持つ者にとって、会話の一端から隠しているつもりの秘密にたどり着くなんて造作もない。よく覚えておくんだね七郎」


 うーん……ダメだ。口げんかで璃音には勝てない。ここは素直に負けを認めておくとしよう。

 

 「自分の脳みそに負かされるとは情けない。ボクは楽しいからいいけどさ」


 璃音だって、自分を俺の頭が生み出した幻覚だと言い張るクセに、どう考えたって俺の思考以上の事を喋ってるだろう。

 魂になっても来てくれたと、素直に認めればいいのに。


 まあ、いいか。璃音と楽しく語れるうちに”暗い仕事”を終わらせよう。

 祝賀会の会場に来たのだって、竜子さんの姿を見に来ただけだ。他に用は無い。


 「(魔法学島の警備が魔戦大会でごたごたしている今夜中に、()()()()片付けてしまおうか。俺達白旗を探る監視の視線……やり方が用心深過ぎて正体を掴めないが、魔法学島内の協力者のお陰でおおよその居どころは察せた。なんのつもりか知らないが、俺達の邪魔をするなら消えてもらう)」


 「……所在を、わざと君に伝えたのだとしたら?」


 「相手の罠だと? まさか。……だとしても食い破ればいい。面倒ごとになっても後片付け(つじつま合わせ)が多少手間になるだけだ」


 「どうしてそう君は短絡的な――……む……七郎」


 立ち去ろうと腰を浮かしかけたところで、近づく足音に気づいた。反応したのは璃音が先なのか、それとも結局は俺の意識なのかは定かでない。

 

 「――ここ、いいか?」


 目線がかち合う。一瞬、瞳が気まずそうに逸らされるのを、頭の冷静な部分が‘無理もない’と評する。

 同情する気はないけれども。


 「……墨谷」


 「 ど う ぞ ?」


 鋼城(こうじょう)勝也(かつや)がテーブルの席に着く。歯が意識せず‘ぎりぎり’と鳴るのを自分の骨越しに聞ききながら、俺は再び椅子へもたれた。


 ・

 ・

 ・


 鎧を着ない素顔に傷は無い。殴り倒した跡は完治したらしい。


 「探したぞ。魔導外殻の一見以来どこにいたんだ?」

 「魔法学島」


 何も嘘は言ってない。見つけられないお前が悪い。

 

 「雨薬に何をした」

 「あま……?……知らないな」


 誰だったか……ああ、あの魔導隊もどきの。完全に忘れてた。


 「お前は……本当に墨谷なのか? ……生きて、いたのか……」


 「元気だよ。お前を殴り飛ばせるくらいには」


 「っ、アレは、効いたな…………い、いいさ。あれぐらい水に流してやる。オレが聞きたいのは、今さら現れた理由だ。生きていたなら何で誰にも知らせなかった? 10年だぞっ? 見た目だって、何で変わってない……?」


 「俺が変わらないのは、みんなが居ないからだよ鋼城ぉ」


 「は?」


 何を分かりきった事を聞くんだ。お前が俺を()()()んじゃないか。


 「俺()現在(いま)も未来も、全部過去(あの夜)に奪われた。お前だけが逃げれたフリをして、外側だけ歳をとってる。中身は10年前と何も変わらないのになぁ。鎧で覆い隠しても無駄だ」


 「何言ってる……黒牢は終わったんだ。頭がおかしくなったか? ――まさか、またオレを襲う気かっ? そこまでオレを、恨んで――」


 「……いいや、もういい。お前の事は、もういいんだ。璃音のお陰で優先順位を思い出せたから。ほら、璃音だって言いたいことがあるだろう?」


 「璃音、だって? 墨谷……おまえ……っ」


 俺が真横に目線をやれば、鋼城は本格的に恐れの籠った視線をよこす。鋼城なら、俺の隣にいる璃音が視えるかと思ったが……どうやらダメみたいだ。


 「七郎を置いて逃げたヤツに掛ける言葉はないね」


 璃音も不機嫌を決め込んでいるようで、鋼城を見ようともしない。

 初代魔導隊3人久々の集結にかつての空気はない。虎郎が居たら苦笑いしそうな光景だ。


 「――狂ってるのか。やっぱりお前をエキシビジョンマッチに出させるわけにはいかない。明日はオレの舞台だっ。オレと(しろがね)伽藍(から)だけでいい!」


 立ち上がり語気を荒げる鋼城に、周りの視線が集まる。“黒騎士”の素顔を知る人物も’ちらほら’居るらしく、会場に動揺が広がった。

 黒騎士の顔を知る人間とはつまり、義瑠土(ぎるど)や政府筋の権力者だ。俺の顔にも見覚えがあるのかもしれないが、10年前の魔導隊を知る者には【血盟契約】なる魔法で秘密を強制しているとも聞いた。

 だとしたら、俺達初代魔導隊の情報が外に漏れないのも納得だ。今の俺にとっては都合がいい。


 「――なんの騒ぎだ?」


 「鋼城さん!? 墨谷七郎……また何かしでかしたのっ?」


 視線を向ける人々の中に、竜子さんや烈剣姫も混じる。ちょうど戻ってきたようだ。

 

 しかし、鋼城と烈剣姫”だけ”だと?


 「俺はまだしも、ヴィトーラはどうする? 彼女は無効試合は【聖剣】のせいだ。それでも問答無用で失格か?」



 「 ヴィトーラにハ、もうニホンで遊ばせン! (ワレ)が連れて帰ルッ」



 俺の問いに答えるように、会場の外から声が響く。同時に暴風が入り口から入り込み会場を揺らし、ひとつの影を吹き飛ばして投げつけてきた。


 「ぐあっ!?」


 床にバウンドし転がったのは、スリットドレスを乱すヴィトーラ。(あらわ)にされた足の付け根や胸元が、乱暴な衝撃を物語りもはや痛々しい。

 次に、荒々しい魔力を纏う金の鱗が飛び込んでくる。

 

 「ッ、気に障る声だと思えバッ、またキサマか不快な(オス)メ」

 

 「ハァ……またお前かぁ」


 俺は望まない再会の連続に溜息をつくほかない。


 不快げに細まる縦長の瞳孔。夜会の混沌はさらに極まれり。

 会場に居る人間の多くは、金翼(きんよく)の不機嫌に自身の死を感じ硬直する。


 異世界の真竜ナーヴニルは苛立ちを込め翼を広げ、群れる人間達を一瞥するのだった。


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