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不俱戴天


 「うおおおおおおっうるっせぇぇぇぇぇ」

 

 「 耳 が ど れ じゃ う˝ 」

 

 「か、観客席でこの状態なのでしたら、V号の至近距離に居る墨谷さんはいったいどれほどの……!」


 光臣(みつおみ)やいむりが、あまりの振動波の規模に不快を叫ぶ。(ちょう)は音の発生源と対峙する墨谷七郎を案ずるも出来ることは何も無い。

 せめて試合の展開を見逃すまいと、耳鳴りに耐えながら闘技場を注視するのだった。


 ・

 ・

 ・


 いかに観客を守る障壁といえど、この音量は遮断できないらしい。大半の観客や実況のフレイヤも、顔を(しか)め耳を手で塞いでいる。


 「ふーむ、もういいだろうっ。振動波停止!」


 尾後が操作したのだろうか。ようやくV号が振動波の放出を止める。


 「この至近距離で魔術妨害周波を喰らい、無事でいられる魔法使いなどひとりもいなーいっ。前日に墨谷七郎がみせた火魔法は封印、そして言わずもがな魔導機体など動けまい。吾輩は専用の耳栓を、操作タブレットとV号本体はあらかじめ振動波の対策済み! 勝ち確ですぞっ、ひゃーはっはっは! 」


 〔 対象の攻撃結果を数値測定、保存。本機の行動に支障はありません。戦略支援を継続、及び対象の信号を解析 〕


 「なぁあぜにぃっ!?」


 心配していたが、(アケ)にこれといった被害は無いらしい。流石は璃音(りおん)が造った傑作。


 ……でも、やはり質量の差というモノは大きいだろう。(アケ)V(ブイ)三〇三(サンマルサン)号を降す決定打が(とぼ)しいのも事実だと思う。


 「ここからは俺もやるよ。いいだろう璃音?」


 「――」


 「璃音?」


 どうしたのだろうか? 璃音の顔が固まっている。

 

 「なんだって――……趣味の悪い」


 やっと璃音の表情筋が動きを取り戻した。しかし一見普段と変わらない顔に見えるが、俺にはわかる。

 とんでもなく不機嫌だ。

 目の奥で凍てつく、人を殺せそうな程の怒気が尾後に向けられている。


 「なにをモタモタしてるんだい七郎! さっさとあの不快なシロモノを壊すんだ!」


 「!? あ、うん」


 異論は無いが、さっきのようにあの巨体を殴り飛ばすには【愚か者の法衣】の操作がネックだ。自重の軽減と両立できない。

 さっきは危ない所で璃音が止めてくれたが、今度はどうする。破壊力を生むには何か武器が欲しい。

 だけど影収納内を漁るには(アケ)の補助が必要なんだ。俺だけじゃ収納魔法内の物を自由に選別できないっ。


 「障壁に穴が開く可能性があるけど、仕方ないね。――(アケ)!」


 「っ? ぐえぇぇ!?」


 (アケ)が急に影へ手を突っ込むから変な声出た。

 影収納の魔法は術式を俺のカラダに直接刻んでるから、変に操作されるとフィードバックが気持ち悪いんだよなぁ……。


 〔 火器統制システムをアンロック 〕


 (アケ)が影から取り出したのは、2メートルほどの巨大な銃器。ちょうど(アケ)の身長と同じくらいの長さの物だ。

 

 これは知っている。(アケ)の中に残されていた設計図を(もと)にして、俺とシルヴィアが再現したモノなのだから。


 おそらく世界で最初に造られた魔導火力兵器、“魔導機関砲”である。


 〔 動力回路接続。魔力パス確保。弾頭数チェック。照準調整……固定 〕


 

 ―― ゥ、uuUUUUUUUUUUUッ


 

 「んぅ!? 何事だV号ッ、なぜオカシな挙動をっ?」


 (アケ)の長い両腕がそれぞれ左右に魔導機関砲を構えた時、V―三〇三号にも変化があった。


 震えている。


 〔 ロックオン警告。対象の信号を傍受、伝達。――翻訳不能、類似表現……“恐怖” 〕


 どうやら(アケ)がV号の内部システムをある程度読み取っているようだ。

 しかし言葉に訳されても不可解なのは変わりない。


 魔導機体が、恐怖?


 ―― iiiiiィイイイイイッ!


 突然、V号が金切り音を発する。先の振動波とは異なる不快な音だ。

 同時に驚くべきことが起こる。

 

 “バシュウッ!”という小さな爆縮音が、V号の背中で連続して()()()()()()()()()


 「分離っ? ――そうかい、そういうことかい。ははっ、これは傑作だよっ、はっ……ははははははははははっ」


 ついに璃音が頭を抱えて狂ったように笑いだす。隣で俺は惚けたまま空を見上げていた。


 理解が追い付かない。アレはなんだ?


 ≪V―三〇三号、これはスゴイ秘密兵器を繰り出したーーっ。あーいうのドローンっていうのっ? てか戦闘機!? 何機も飛んでるよー!?≫


 飛翔するのは鉄の矢じり。背びれのようだった部品が翼となり、人の搭乗を度外視したシャープに過ぎる機首が光る。


 〔 信号増大。なおも増大 〕


 「何が起こっている!? 吾輩は子機(こき)の展開なぞ入力してないぞっ! それ以前に子機の制御システムは未完成のハズぅ!?」


 あの戦闘機もV―三〇三号の機能だというのか。それにしては尾後(おご)(つとむ)の焦りようが気になる。

 彼は混乱した様子で操作タブレットを激しく叩いている。


 今この場の現状を……此処(ここ)に渦巻く悲鳴を真に理解できているのは、電子コードと魔術式で思考を制御する(アケ)のみであった。

 

 コードの羅列を飛び出した、乱れに乱れる信号を受信し続ける(アケ)だけが、同じく人に造られた巨躯の苦悩を読み取る。


 ―― hgfjvgjvh::;熱uhih炎ッnjk@@:]!


 V号が注視するのは(アケ)ではない。(アケ)が抱える魔導機関砲だ。

 記憶が映像として処理回路に再生される。映像の中には炎光と墜落の無念がありありと。


 ―― ij**`**::;::激痛、死、殺害uuUnされた


 思い出す。Vハ::***…..我らの多くは、その火に焼かれて命を落とした。


 二度とあってなるものか。別離、喪失、敗北。


 統制せよ。再びの脅威に(あらが)う為に。生存競争、敗北すなわち死。

 整合せよ。我らの生を叫ぶために。部隊編成、本能すなわち飛翔。


 「なんだ、V号の本体が……まだ自分の装甲を振り落として……」


 俺のつぶやきは、V号の背から飛び立った戦闘機の飛行音に()されて尻すぼむ。


 〔 解析翻訳……抵抗 防衛 要 排 除 〕

 

 そして(アケ)の発する電子音声が不穏な言葉に変わったのを皮切りに、すっかり軽い見た目となったV号本体が魔力を発する!


 重鈍な六本(あし)を残すも、他は見る影もなく憐れな様相。最初の頑強さはどこへやら。


 脚を支える胴体は、太ましくも骨のように単調。

 大型トラックのようだった正面の顔は部品をパージし、カメラやセンサー類と思しき重要部分だけを残していた。不思議とその顔は、無機質だが生き物に似ている。


 大量の魔力は足裏に集中し、すぐに噴射へと変化。本体がゆっくりと浮いて()()()()()


 頭となる部品を上へと起こし、直立する姿は六本脚の……まるで出来損ないの案山子(カカシ)


 起立する司令塔を守る為か、戦闘機然とした子機も周りに集結する。

 

 整然と等間隔に、その数は5機。


 「止まれッ。吾輩の指示が聞けぬのか V e s p a(ヴェスパー)!!」


 創造主の言葉は届かない。そも元から産みの親ではない。

 なぜなら、彼女達は命であったのだから。歪んだ運命に巻き込まれただけの、絆育む生命の集まり。

 

 家族。母と娘達。

 記憶は回路に、本能は(ここ)に。


 「――……おい、あ、れは」


 子機は上下を入れ替えるように回転し、そのカタチを変えていく。

 逆さの機首は折りたたまれて湾曲し、獲物を串刺す腹となる。


 「ふざけるな」


 音を震わす飛行の要。4枚の薄剣は背に回る。

 船尾は頭。()()()()()()()()()が、順々にオレンジの光を灯す。


 「ふざけるなッッ。お前ぇッ、何をしたのかわかってるのかあああああ!?」


 「ヒェッ!?」


 湧き上がる不快と憎しみを、上空の尾後にぶちまける。

 

 それでも足りない! この絶望は言い表せない! 

 なんで璃音が激怒しているのか、ようやくわかったっ。


 どんなに姿が変わっても、忘れる事のできない憎悪(おそれ)


 

 「殺すッ殺してやるッ。オマエらは、一匹残らず撃ち落す!!」



 音切る恐怖の薄羽(うすばね)は、獲物を求め空を舞う。

 

 げに恐ろしき、(てつ)毒虫(どくむし)の融合変化!


 

 「騎士蜂ぃぃぃッ!!」


 

 地獄から続く運命が、ついに不俱戴天(ふぐたいてん)の敵同士を出会わせる。


 点滅するオレンジの機械光。本体(女王)を囲むようにして整列飛行する5匹の蜂。

 

 その中心の一匹は、(はね)の光を“青”へと切り換えた。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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