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魔導機大戦(2)


 宙返りからの着地。V(ブイ)三〇三(サンマルサン)号を押し返す強度と出力。

 人型であるが、明らかにヒトで無いシルエットが放つ存在感に、観客はV号の初登場時のような衝撃を受ける。

 そして驚いているのは、上層特別室にいる面々も同じであった。


 「魔法人形(ゴーレム)っ? 一瞬視えた、影から伸びる腕の正体がアレという訳ね。いったい、いくつの秘密を隠し持ってるの墨谷七郎」


 「……ゼナの元で高度な魔法人形(ゴーレム)を見た事はあるが……あれほどに人間らしく動くモノは無かったハズだ」


 「デカブツと並ぶと小せぇなぁ。あれじゃスミタニの魔法人形(ゴーレム)は負けちまうんじゃねぇか?」


 「アレは、魔法人形(ゴーレム)じゃないわ」


 「ってぇと、なんだってんだニーナラギアール?」


 「たぶん同じよ。アレは、あの大きなモノと同じ魔導機体」


 「旦那が造ったってことですかね? 失礼ですが、そこまで器用なお人には……」


 「“彼には造れない”。グっ……ぅ、でも……ああ、そうなの?……じゃあ、だとしたらアレを造ったのは」


 「(造れない? ハッキリ断言する……?)」


 胸を押さえるニーナラギアールの言葉に伽藍が疑問を感じていた頃、別の特別観覧室でも混乱に苛まれる男がいた。


 「魔導機体ッ? なんで墨谷があんなモノをっ」


 試合の行く末を見下ろしていた鋼城(こうじょう)勝也(かつや)だ。


 「(あんなモノ、日本政府や義瑠土(ぎるど)が開発してたなんて聞いてないぞっ。じゃあ誰が造って墨谷に渡した?……墨谷が造った……いいや違う……あんなモノを……作るかもしれない、のは)」


 墨谷の隣で、他人(ひと)を馬鹿にしたように高笑う蜃気楼。

 一瞬、ほんの一瞬だけ、鋼城の視界で懐かしい姿が揺れる。


 「よいですかな?」


 「 ! ……ああ、はい」


 鋼城はいま1人では無い。仰々しい白ローブを(まと)う老人を部屋に迎えている。

 老人の名はドイル・サプライ。聖女シクルナ・サタナクロンを擁する、ノルン神教枢機卿であった。


 「驚くべきことが起きた。シクルナがあの有様で困っていたのだがぁ……ノルンの威光を取り戻す好機が湧いた。まさに女神の啓示」


 「好機?」


 「わからぬかぁ。【聖剣】よ」


 ドイルの口調は、魔戦大会の開会式で見せた姿とはまったく異なるふてぶてしいもの。無論この姿が本性であり、(おおやけ)の場は太り垂れ下がった腹肉を必死に持ち上げて、神聖なる者を演じている。


 「ニホンの小娘に【聖剣】が顕現したぁ。由々しき事。誠に遺憾だ。【聖剣】は、ノルン神教が女神を(ほう)ずるからこそ世界に与えられた奇跡。メセルキュリアなぞによって私物化されて良いモノでは断じてなぁい!」


 「……はあ」


 「であるからして、かの小娘はノルン神教の預かりとしたい。面倒な手続きは省く」


 なんとドイル・サプライは、(しろがね)伽藍(から)の身柄の引き渡しを鋼城へ求めたのである。それも正規の出国手続きを省略し、早急にウィレミニアへ迎えたいと言うのだ。

 ノルン神教がいかに力を持つ組織と言えど、他国の人間を連れ去るようなマネが許されるはずもない。


 「ましてやオレに、そんな事を相談されても」


 「10年前の話を、シクルナに話させてもよいがぁ? 聞いているぞぉ、其方(そなた)()()を。知っているぞぉ、謳われる栄光にずいぶんと虚飾が多いことを」


 「な、なんだと」


 「いやなに、なにも連れ去れなどとは言わん。そこまで期待しとらん。たぁだ小娘の背中を押すだけでいいのだ。我らがノルン神教の教えを受けよと。これも小耳に挟んだことだが……かの娘は其方を慕っているらしいな。簡単、簡単」


 鋼城は我が身の命運を握られているような心地だ。10年前の黒牢の事を暴露されると言われ、少女と自身の栄光を天秤に掛ける。


 「説得するくらいは……できる」


 ……答えは決まり切っていたが。


 「そぉか協力していただけるか! 10年前、其方はシクルナを守った。それつまり我らがノルン神教の騎士を拝命したと同じ。我らが剣となる栄誉を与えること……ま、やぶさかではない。近日中に小娘をウィレミニアへ連れて行くでな、そのつもりで」


 ドイル・サプライのノロノロとした足取りは見送らず、鋼城は逃避するように部屋付きのバルコニーへ出た。

 手すりから下を見下ろせば、闘技場の機械大戦が目に映る。


 「墨谷が……笑ってる」

 

 雲行きの怪しい自分の未来の、きっかけとなった男を睨む。しかしその顔は嘘の無かった青春を思い起こさせる顔で。


 大勢の歓声。浴びる脚光。


 「くそっ――どうしてアイツの方が目立って! ――っ?」


 拳を手すりにぶつけたところで、鋼城は不意に笑い声を聞く。

 観客の声と混じり何処からともなく、皮肉気な嘲笑を確かに聞いた。


 それは、かつて魔導隊の頭脳を気取る、少女のような少年の声。


 幻聴と断じるにはあまりにも痛烈に過ぎる……今の自分に刺さる嘲笑であった。


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