表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
301/320

魔導機大戦(1)


 きりもみしながら宙へ飛ばされたV号が、背中側から地面へ墜落する。

 轟音。足場のコンクリートが砕けた砂埃が舞う。


 「ぐおわああっ!? V―三〇三号ぉぉぉ!?」


 衝撃で吹き飛ばされた尾後(おご)(つとむ)の悲鳴が聞こえた。彼自慢の機体は、裏側を観客に晒してひっくり返っている。


 「頑丈だな。あれだけ力を入れても壊れないのか」


 あくまで【愚か者の法衣】展開時の全力だが。

 どちらにせよ、あとは操縦者を倒せばカタがつく。


 「おぐぅっ!? 吾輩を狙ってきますかっ――しかぁし!」


 尾後は前回の試合同様、背負ったバックパックから魔力を噴射させ空を飛ぶ。

 こちらを見下ろす彼は、“どうだ”と言わんばかりの顔。


 それじゃ、そこへ行こうか。


 「ひゃーはっはっはっ。これなら届くま……いっ?」

 

 膝を曲げ、足に力を貯めながら彼を見上げれば、一瞬前の余裕の表情は見る影もない。恐れが手に取るようにわかる引きつった顔だ。

 

 あの程度の高さなら、一足で跳べる。


 「待つんだ七郎」


 だが俺の跳躍を、友の声が止めたのだった。


 ・

 ・

 ・


 魔力噴射を背にして飛ぶ尾後の心中は、墨谷七郎が思う通り“嫌な予感”に染まっていた。


 「(あ、届く。あやつは吾輩の(たかさ)まで跳んでくる)」


 尾後に戦闘の経験は皆無。ルールのある魔戦大会ですら、V―三〇三号が無ければ出場する気など毛頭無かっただろう。

 

 しかし魔法戦闘素人の尾後ですら、直後の展開を容易に想像できてしまう程の寒気は如何(いか)なる事か。


 「(障壁のせいで、もう上には行けないですぞっ。金冠クラスの小娘らはここまで跳べなかったのに……!)」


 だが尾後の予感は現実とはならなかった。対戦相手の墨谷七郎が跳躍を止め、きょとんとした顔で動きを止めたのである。


 「(な、なんだ? なんにせよ助かった……いいやっあやつは最初から届かなかったのだ! 吾輩ともあろうものが、根拠のない予感などに怯えるとはっ)」


 吾輩は優勝しなければならない。再び出世ルートに返り咲く為には、エキシビジョンマッチでV―三〇三号の性能を世に知らしめねばならないのだ。

 

 「(黒騎士を相手に圧倒する様を見せつければ、吾輩のV号はまた日の目を見れるに違いない! 吾輩は主任補佐で終わる男ではなぁぁぁいッ)」


 ()()()()()よって実現した自律魔導機体という技術。その可能性は、こんな程度の状況など簡単にひっくり返すことができる。

 

 尾後は余裕を取り戻し、操作タブレットで横転したV号に復帰指示を送った。


 ・

 ・

 ・


 「璃音(りおん)、なんで」


 急にかかったストップに首を傾げる。もう決着をつけられるのに。


 「また(はばか)らずに暴れるつもりかい。苦労して隠してる()()が漏れているんだが?」


 (うなが)されて足を見る。思ったよりも【愚か者の法衣】が乱れていた。

 

 これでは遠目からとはいえ観客にも気づかれてしまうかも……欺瞞継続への意識をおざなりにし過ぎてしまった。


 「これ以上キミを調子に乗らせると、ロクな事になる気がしない。ここはボクに任せたまえよ」


 「任せろったって……」


 そうこうしている間にV号が六本の足を規律正しく蠢かせ、関節を180度反転させたかと思えば、“ズドンッ”と地面を強打。

 衝撃が生む勢いで巨体を押し上げ、元の姿勢に復帰する。


 「やはりっ、吾輩の魔導機体は世界一ィィィ!」


 「既に死んだボクに出来ることは少ない……確かにね。でも、だからこそアレの出番というわけさ」


 ―― くく。魔導機体と聞いて黙っているわけにはいかないとも


 璃音が悪だくみしている顔で笑う。あれぇ、もしや……。


 「さあっ、派手にお披露目といこうか!」


 「いやいや!? 持ってることバレたらマズいんですけど!?」


 「なにを先ほどから1人でブツクサとっ! V号ッ、今度はもっと出力を上げて突撃ですぞぉーーッ」


 尾後に従い、V号は足や機体全体に高濃度の魔力を溢れさせる。

 

 機械が相性の悪い魔力をあれほど纏うなんて……確かに凄まじい技術だ。


 「今度こそ七郎を驚かせてやるんだ。黒牢で見せられなかった、完全な性能でね! 自律起動したまえっ “(アケ)” ッ」


 音なきハズの璃音の声で、影中の機体が反応する。 

 射出されたかのような速度で影が頭上を越えていく。畳まれたカラダを広げ、人間と変わらない動作で俺達の前に着地した。


 ≪墨谷選手の影から誰か出てきたっっ≫


 ―― V、Nッ


 振り上げられるV号の前足。

 こちらを潰そうとする象を想わせる巨大な足を、“明”の腕が掴んで押し返す。


 「なあ!? 魔導機体ですとおおおおおおっっ」


 ≪こ、こっちもロボットぉーーーー!?≫


 観衆の驚きを一心に浴びるのは、人の骨格を模す無骨な機体。

 逆関節の2足歩行、直方体に近い頭部に並ぶ六つの視覚センサー。


 巨大なV号と比べれば、どこか頼りない印象を受けるかもしれない。


 だが知っている。痩躯に詰まった、友が組み上げた極限の性能を。


 10年の間俺を手助けしてくれた、璃音最後の隠し玉。


 〔 0100111011110……戦略支援を開始 〕


 世界最初の魔導機体がいま、その存在を露にする。


★★★★★評価とブックマークは作者が喜びますので、お気軽にどうぞ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ