表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

188/320

殺戮姫(1)


 夢を見ている。

 違う。これは過去の記憶。ひかり輝く栄光の時、厄災へ挑む試練の時、そして……すべてを投げうつに()る恋。

 (むな)しさと憎悪のなか想う。運命の女神よ、なにが御身(おんみ)の怒りに触れたのですか?

 

 かつて争う、魔王たる巨獣の十字瞳(じゅうじどう)。おまえの憤怒が、我らの魂を引きずりこんだ。

 冷え切る骨の(から)み合う音こそ、乙女の様に願った輪舞曲(ロンド)


 死してなお共にある(つわもの)たちよ、永遠に師たる(ごう)の忠臣よ。すまない、そして感謝しよう。

 我らが怨念を晴らせと、我が未練を叫ぶが正しいと、声なき死声(しごえ)が世界へ(あだ)なす()を示す。

  

 人の為、ただ世界の為に、(はし)(ささ)げたこの命。

 その結末が、人による裏切りだというのなら。

 その運命が、愛は不要だと断じるのなら。

 

 愛しい男と骨を()み、世界の果てまで斬り踊る。勇者の剣にて裏切り者に死の(あがな)いを。


 かわいいワタシの■セ■。その憧れを(けが)すことをどうか許して。


 ・

 ・

 ・


 「第1部隊は西側で陽動(ようどう)を頼んだ! 第2部隊は突破口を開く援護をしてくれっ、俺とセギンの一団がジープを守る!」

 「()くぞ戦士タチよ!」

 ――オオ!

 ――精霊の加護は我らにアリ!


 戦意と緊張が高まっていく。虎郎剣の(みね)を肩に置き、鷲獅子(ワーギット)の速度に並走できるよう四肢へ魔力を通す。


 「物資のありそうな地点は粗方(あらかた)調べつくしたし、戦える人間も少ない。……おそらく、これが最後の物資探索になるだろう。ここで水と食料を得られなければ、いよいよボクらは死ぬしかない……頼んだよ七郎」

 「真理愛(まりあ)の予言があるんだ。物資は必ず手に入る」

 「……やっぱりボクもジープに乗って同行を」

 「さっき話し合ったろう? 物資を乗せられるスペースを少しでも多く確保するためだ」

 「は~あ。キミに気を使われるなんて、屈辱の極みだよ」


 わかってるなら、そう厭味(いやみ)ったらしく(にら)まないでほしいものだ。今回向かうのは不死軍領地を(また)いだ先。いや、すでに探索地点も不死軍の領地にすげ代わっているかもしれない。

 長時間の戦略指揮で疲労しきった璃音(りおん)を連れてはいけない。今回の作戦は、四肢の変異のおかげか、体力が有り余ってる俺が適任なのだ。

 俺に璃音のような戦略は練れないが、現場の戦術レベルなら指揮できる。


 「なんとかしてみせる」

 「安全区域からの援護はするよ。まったく、キミが愚かしい判断ミスをしないかが心配だ」

 「ひどい」


 軽口を叩いたおかげで肩の力が抜ける。あとは命を燃やして、俺の出来ることをするのみ。


 「行くぞっ」

 「共ニ駆けるゾ、シチロウ」


 拠点の正面からジープと、それを囲むようにして獣牙種(オーク)の騎兵が走り出す。俺も先頭で走れば、陽動地点で作戦開始を告げる発煙筒の光が見えた。

 すこし走れば黒土(くろつち)の境界線。超えた途端に数体の骨兵(こっぺい)が還り立つも、獣牙種(オーク)の槍が砕く。

 

 「(! 運がいいっ)」


 続いて正面に現れたのは奇形の魔獣。これも(おとり)に使える。

 「はあっ」

 ――Gyaうッ!?


 わざと力を抑えて、異形の魔物に傷を与えた。のたうち回る魔獣にトドメをささず、物資探索部隊は前に進む。

 すると()いた骨兵が魔獣を相手取り足が止まる。

 なんの理由かは知らないが、奇形魔獣と不死軍は敵対関係にあった。魔獣は肉のある人間を優先して喰いに来るが、骨兵は意外なほど積極的に奇形魔獣を殺しにかかる。

 通常の魔犬小鬼にには、領域を(おか)されない限り興味を示さなかった不死軍が、なぜ奇形の魔物にはあんなに……。

 

 どちらにしても、俺達にとっては利用しない手はない。

 領地は広く、出現も地面から湧くように一瞬だが、不死軍が一斉に現れる総数には限りがある。無限ではないのだ。


 蘇るのは黒土の地に繋がる特定の不死者(アンデッド)だけ、というのが璃音の仮説。


 「予想以上ニ陽動が上手くいっていル。不死軍の兵力が散っタ」

 「ああ! これなら物資を探す時間が多く確保できる」


 ついに黒土の線を再び(また)ぎ、真理愛の予言にあった地域に入った。素早く各々(おのおの)が数人ずつに分かれ、物資を探し始める。

 俺とセギンはジープを見張りながら、2人だけで周辺の捜索を行う。すると多くの缶詰や保存食が見つかった。


 「よし大量っ」

 「ウム。これでマタ少しの間、子らが飢えずに済ム」


 魔物の気配も無い。予想以上の成果に叫びたい気分だ。

 食料品の確保がまず成功したことで、ふいに思考が別に向く。目下最大の脅威となっている不死者(アンデッド)について気になることがあった。


 「セギン、聞きたいことがあるんだ」

 「ナンダ?」

 「元居た世界……エイン=ガガンでもああいう不死者(アンデッド)は、多い?」

 「フウム……。そう珍しくハない。往々にして、未練ヲ残す魂は多い。……ダガ……」

 「だが?」

 

 「アのようニ統率された不死軍となれバ、話は別ダ。よほど優れタ術師が居なければ、不死者(アンデッド)は軍を成さないハズ。ソレニ死者の蘇生は、ウィレミニア三国同盟においテ重罪。不死者(アンデッド)ノ軍勢など(たくら)めバ、ギルドと国、その両方から討たれるダロウ」

 

 「……日本では、骨の体で甦った人を“歩く白骨”と呼んでる。……何度か“処理”した。でもこの市街に現れる不死者(アンデッド)は、それとは次元が違う。軍として動いてるし、なにより虎郎を殺した“殺戮姫(さつりくひめ)”っ……」


 美女の頭を白骨の上に乗せた不死者(アンデッド)相対(あいたい)した魔物のなかで最も強く、一度見れば二度と忘れられない悪夢のような姿形(すがたかたち)

 俺の手で倒すべき、憎い仇である。


 「アレも異常ダ。強さの話ではナイ。見たところサツリクヒメは、魔術ヲ用いズ不死者(アンデッド)を統率スル。それは操るのでなく、兵こそが自らサツリクヒメに仕えているというコト。肉体の有無に関わらズ、魂ソノモノを魅了するという“吸血女帝(ドラキュリア)”でもあるまいニ。生前、よほど強い力を持っていたのダロウ」


 「生きていた頃は関係ない。アイツは虎郎(ころう)を……獣牙種(オーク)の仲間も殺した。絶対に仇はとる」


 今度こそ倒してみせる。愛魚のように命を燃やすことになっても構わない。


 「……ダガ覚えておケ。不死者(アンデッド)は終わらなイ苦痛ニ苦しム。我らト同じく過去を持ち、トキにその過去こそガ、彼の者らに強大な(チカラ)を与えル」


 ―― ……、不死者(アンデッド)トいえば


 そこでセギンは、逢禍暮市(おうまがくれし)における不死者(アンデッド)について、別の疑問を語る。


 「ナゼ、こんな濃イ魔力の中“幽霊(ゴースト)”を見なイ? 濃い魔力の只中(ただなか)で多くの死が積み重なれば、まず現れるのが“幽霊(ゴースト)”。それどころか、軍勢以外の不死者(アンデッド)ハ皆無。……七郎ト世界を同じくスル人間の魂は何処へ消えタ? ココで何が起こっていル?」


 答えは誰も知りえない。夜空に光る無数の星が、燃えるような輝きを増すだけであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ