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騎士蜂(3)


 ――(ハチ)ノ魔物が攻めてキタ!?

 ――それダけジャナイ。拠点近クまで魔物がうろついテるらしイ

 ――族長ト共ニ最後マデ戦うゾ

 ――弓部隊はこっちだっ。矢の用意を忘れるなよ


 拠点内はにわかに慌ただしい。獣牙種(オーク)と志願兵は(つたな)いながらも助け合い、拠点を守る準備を進めていた。

 璃音(りおん)は何かの準備があるとかで別行動である。


 「シチロウ、ココにいたか」

 「セギン。騎士蜂は?」

 「やや距離はアルが周囲の建物に取りついテ、こちらノ様子を伺って居ル。ダガすぐ来るゾ、青羽の騎士蜂が飛び回リ始めタ」

 「ダンの仇だ。向こうから近づいて来たことを後悔させてやる」

 「ダンは若いナガラモ、魔法ニ長けル優れた戦士だっタ。……次代の(オサ)ハ、彼にト……ソウ思っていた」


 握る大槍に決意を込め、セギンは集まった戦士を(ひき)い出撃する。鷲獅子(ワーギット)の足があれば攻めるも引くも自由自在。彼らはどこまでも頼りになる。


 「あ、あのねっ」


 防具を着込む途中で、今度は真理愛(まりあ)から声がかかった。こんな子供にこれ以上の重圧を掛けたくなかったが、やはり彼女の予知は必要だ。

 なにか話があるなら聞いておきたい。


 「この前は、ごめんなさい。真理愛がシクルナちゃんにお礼を伝えようって言ったから……愛魚(まな)ちゃん、すごく怒ってるよね」

 「……その、もし、愛魚ちゃんの居る部屋が“視える”ことがあったら……」


 愛魚の事をどう伝えるべきか。少女の不思議な“見る力“ならシクルナの時の様に、離れた場所を把握できてもおかしくない。今の愛魚の姿を見せたくは……。

 

 「……ううん、真理愛、愛魚ちゃんは視えない。それに……未来の事とかもだんだんぐちゃぐちゃに黒くなって、よく視えなってきて……」

 「いや、真理愛にはもう十分助けられた。無理しなくていいから、拠点で二葉(ふたば)先生と一緒にいるんだ。いいね?」

 「せんせい、ケガしちゃった人の手当てを手伝って、忙しそう」

 

 「あら、真理愛ちゃん。あぶないわよ、おばさんとおいで」

 「へへ、聖女様。おれらがどうなるか見てくれるか? へへ」

 「こら、およしっ」


 「う、うん。……気をつけてね、しちろうくん」

 「……ああ」


 そうして真理愛は数人の避難者に囲まれ広場へ帰った。彼女を聖女と崇める避難者は続々と増えているように感じる。

 あの子は(さと)い。彼らの心の支えとなるのは、重圧を感じるはずだ。戦う事しかできない事が歯がゆい。

 こんなとき、虎郎ならどうするだろう?


 「……とにかく、今は」


 鎧を着て剣を握るが、当てられない弓矢は置いて外に出る。騎士蜂の不快な羽音がすぐそこまで迫っていた。


 ・

 ・

 ・


 闇の上空に、無数の羽音が(うごめ)いている。爆音にも感じる振動音が四方八方に散るせいで、蜂の所在を掴みにくい。

 さらに地を這う由来不明の怪異が断続的に襲い来る。いま斬り殺したのは気色悪いネズミの体にコウモリの顔がついた魔物。溶けるように塵と化していった。


 璃音は拠点に残り、セギンは鷲獅子(ワーギット)スキルークと共に別の戦場で戦士達と戦う。獣牙種(オーク)の遠距離魔法は騎士蜂を攻撃できる貴重な攻撃力である。


 「はあっ!」


 空の羽音に向け斬波を放つ。蜂の(カラダ)にかすりはしたが()がした。思うように命中しないし、魔力の消費が激しくて効率が悪い。

 璃音もおらず、俺の周りに魔導隊の仲間はいない。だが決して1人ではない。


 ――魔導隊に続けっ

 ――自分の家族は自分で守んなきゃなぁ!

 ――弓を引け! ……今だ撃てぇぇ


 俺の背には、戦うことを選ぶ避難者が何十人も居た。みな自分の命を守る為に、自分の家族を守る為にあえて戦いに身を投じている。

 多くは弓を持ち、生き残った陸軍兵士の合図で騎士蜂を狙う。不思議と、魔力の身体強化を扱い始める者もいた。魔法適性のある者が命の危機に(さら)され、生存本能が目覚めた結果であろうか。

 何はともあれ、頼もしい。


 「この先に守りやすい大通りがある。そこに防衛線を引いて安全区域を犯す魔物を食い止めるぞ!」


 ――やってやらぁ!

 ――弓を持ってる者は並べっ、一斉射で魔物を確実に仕留めるっ

 ――上から羽音がするぞ


 剣で地上の魔物を斬り伏せ、矢が上空の騎士蜂を狙う。蜂も矢を搔い潜り、またはものともせず急降下し戦う避難者を襲った。数人が犠牲になっている。

 お返しとばかりに蜂の一匹を斬波で殺した。


 「(何人死んだ!? 騎士蜂が狂ったように安全圏を超えてくるっ。地上の魔物も増えてきて、境界線を押し込まれてるように感じる!)」


 不意に視界の端で、青い光がチラついた。

 危険を叫ぶ暇も無く、辺りの地面が爆ぜる。青羽の突撃でアスファルトが抉れるように飛び散ったのだ。


 ――うああああっ、ダメだ怖えよおおお

 ――こ、これ、隣に居たやつの足っ? どうすりゃいいんだ!?


 既に数人の犠牲者が発生し、混乱していたところでの青羽の一撃。志願兵は完全に恐怖に飲まれている。

 無理もない、彼らは多少戦い方を覚えただけの一般人。彼らのおかげで魔物の侵攻を遅らせていたが、ここらが限界だろう。

 いまだ地上の魔物が入り込まない、拠点付近の安全区域まで下がるしかない。


 「撤退だっっ、全員鉄工所拠点まで下がれ! 俺が魔物を引き付けるうちに走れっ」


 避難者が逃げられるよう、魔力の消費も度外視して斬波を乱用する。両腕だけでなく両足も黒化変異させ、コンクリートを思い切り殴り破片で騎士蜂を落とした。

 しかし焼け石に水、尚も魔物の侵入は止まらず、退(さが)るを余儀なくされる。地上の魔物は拠点目の前まで流石に追ってこない。そこまで俺達人間の領地である安全区域は削れていないようだ。


 「(せめて不死軍と騎士蜂が上手く敵対してくれれば……無理だったけど)」


 実は少し前、璃音の案で騎士蜂と不死軍を殺し合わせられないかと試みた事がある。バッテリーと繋げたライトと発煙筒で、騎士蜂を不死軍の領地におびき寄せたのだが、結果は不発。

 蜂と骨兵は互いに興味が薄いらしい。特に騎士蜂は肉の無い不死者に見向きもしなかった。あくまで騎士蜂が襲う理由は捕食にあることがはっきりと分かる。

 殺戮姫は姿を現す条件に不明な点が多く、ダンが殺された時以来消息を絶っている。


 「(幸い、不死者の領地に動きがあったという報告は無い。ここで不死軍の相手をするなんて冗談じゃない、空の蜂で手いっぱいだ)」


 騎士蜂は、どうやら本当に“いままで拠点を襲わなかった理由”を無視せざるを得ない状況らしい。変わらず拠点近く、一定の距離に入るのを躊躇(ちゅうちょ)するが結局入り込む。

 それは本能を抑え込むような、(むし)らくない姿に見える。


 「(限界だ。後は璃音の策とやらが頼り……っ)」


 何度か青羽の刺突突撃を剣で受け、傷を負う。体を引きづりながら帰還し、いよいよ拠点に立てこもるしかなくなった。セギンらも拠点周りに戦線を下げ戦っているようだ。

 ついに青羽は、かつてないほど拠点に近づき飛んでいる。俺は避難者に交じり慣れない弓を掴み矢を放つも、当然青羽はひらりと躱した。

 青羽のほか、通常個体の騎士蜂も徐々に拠点との距離を詰める。焦りと恐怖が、拠点すべてを覆いつくすまであとわずか……。


 「ふん、少し準備に手間取ったけどようやくだ。射程内にノコノコ現れてくれて礼を言おう。試作っ“魔導機関砲”撃てっっ」


 火薬の銃声とは異なる高音の射撃音が木霊する。夜空に赤く断続的な熱線が連射され、騎士蜂の一匹に命中!

 蟲の体は粉砕炎上。それを皮切りに、恐怖を拭い去るべく、紅く赤熱した弾幕が展開されていくのだった。

読んでいただき、ありがとうございます。

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