君の亡き後 璃音より
拠点の空気は暗い……どん底さ。みんな終わりの見えない生活に追い詰められてる。
水と食料に余裕が無いからなるべく切り詰めるほかない。モールで手に入った物資が予想より少なかったからね。
どうやらモールに巣くっていた小鬼共は、存外美食家だったらしい。死体より菓子類がお好みだったとは。中は酷い荒らされようだった。
獣牙種のコミュニティでも女子供のすすり泣く声が聞こえる。不死軍との戦闘で、戦士が合わせて3人死んだ。
彼等には妻や子も居たろうに……、“獣牙種ノ戦士タルハ、戦いデ死すノモ覚悟のウエ。マドウタイは共に戦う仲間、そしテ妻子ヲ守リ死ねたのダ”……だってさ。
ボクらのせいじゃないと言いたいらしい。ボクらを恨んだ方が結束を高めるには合理的だろうに……まったく彼らは、つくづく善良だ。
だからこそ虎郎はボクらと、獣牙種の彼らの為に自分を犠牲にした。
……君を失って、改めて君の存在がどれだけボクらの助けになっていたかが分かる。無論、聡明なボクは気づいていたがねっ。…………思ったより、君の存在が大きかったと改めて認識しただけさ。
愛魚はずっと泣いてたよ。いや今も泣いてる。ダンが支えになってくれているみたいだけど、しばらく引きずるだろう。ちなみに“しばらく”っていうのは大分楽観的に表現してるからね。
鋼城は相当落ち込んで、真理愛も随分泣いていた。宥めるのに苦労したよ。
真理愛と言えば、そう……妙な流れになっててね。鉄工所内で彼女を“救いの聖女”と崇める人間が出てきたんだ。
彼女の言う通りにしてれば死なないっていう、分かり易く宗教じみた話が広がってる。それがシクルナには面白くないみたいで……まあ、この話はいいか。
とにかく、この狂信的な動きが、真理愛に悪い影響を与えないよう願うよ。彼女の預言に頼ったボクらの責任でもあるからね。
いま、鉄工所の一部設備を稼働させてる。ガソリンで動くバッテリーをつなげて改造したりいろいろ工夫して。
武器を造ってるんだ。剣に、槍に、弓矢。虎郎が死んでから避難者の何十人かが、外での活動に協力すると申し出てくれてね。
これも虎郎……君の人徳さ。君の死を無駄にしまいと、鹿波虎郎を見ていた人々が立ち上がってくれたんだよ。
ボクとしては足手まといはごめん被る。でも人手が足りないのも事実だから我慢しよう。ボクがオトナになろうじゃないか。
少し話が変わるけど……魔力を流した鉄は材質が少しづつ変わるらしい。魔物の血や魔力を浴びたものは特に。
君が愛用していた剣、虎郎が使っていたから“虎郎剣”って七郎が呼んでるアレ。あの場所から回収した時に改めて見たけど、大幅に変質が進んでいたよ。
鉄工所の鍛造機械にかけたら聞いたことのない、悲鳴みたいな音がするんだ。ほら、七郎が機械にかけてるから今も鳴ってる。
…………あの後、一番問題だったのは七郎だった。手当もさせず泣き叫んで、君の所に行くって聞かなかったんだ。
意識も途切れ途切れだったから監視をセギンに任せて、隙を見て獣牙種の戦士数人と偵察に出た。不死軍の出現範囲がどう変わっていたのかも知りたかったし。
それで虎郎剣を見つけた。不死軍もちょうど居ないところで剣と……君だったモノを。運搬の都合で体は運べなくてね、その場で埋めた。まあ寛大な心で許してほしい。
第一、愛魚や七郎には見せられない。
形見として持ち帰った君の剣を見るなり、七郎はまた泣いた。で、傷も治りきらないうちに鉄工所の設備を動かそうって言いだしたんだ。
そう設備の再稼働は七郎の案なんだよ。
今まで魔物の襲撃を恐れて、なるべく音を出さないようにしてたからね。でも鉄工所が魔物の近寄らない安全区域なのは理解したし、それで魔物が引き寄せられる程度の縛りなら、どのみちボクらが殺されるまで長くないって開き直ったのもある。愛魚の矢の補充も必要だし。
七郎は殺す準備を進めてる。武器を磨いて、君の仇を取る気なんだ。恐ろしい顔で鉄を打って、獣牙種の忠告も聞かず黒い変異を訓練してる。
おかげでディフェンスウォーをする時間もありはしない。つれないなぁ。
……ボクもね、考えたんだ。ボクに何が出来るかとね。
当 然 ボクは 天 才 。
必要なのはボクの頭脳、戦略、つまりボクは居るだけでいい!
でも生命の危機にあって能力を余らせるのは非効率的だ。そこで、ボクは新しい選択肢を造ろう。戦略に幅を持たせ、戦術に革新をもたらす技術。
さしあたって、一番欲しいのは命を持たない兵士。命令をよく理解して、頑丈で、誰かが傷つく代わりに戦って、――……壊れたところで誰も泣き喚かない、無機物の兵士がいい。
造ってやろう、ボクなら可能さ。ボクが仲間1人助けられないぐらい弱くても、きっとこれ以上失わせないことは出来るから。
でないと虎郎に救ってもらった意味がない!
これがボクのやり方だ。泣いているヒマがあるなら頭を動かせっ。
見ていろ、必ずこの状況を攻略してやるんだ!
ボクは仲間と一緒に生き残る。
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