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アタシの居場所


 楽しい事よりは、そうね……辛い思い出のほうが多い人生だったわ。


 アタシはいつもはみ出し者。当然よね、体と心がちぐはぐなんだもの。

 周りに理解してくれるヒトは居なかった、親でさえアタシを気味悪がって遠ざけた。


 どこにも居場所なんて無かったわ。

 

 どうしてアタシは‘こう’なのかしら? 神様も失礼しちゃうわよね、アタシがちょっと他人(ひと)よりキレイだからって、わざわざカコクな運命を与えるなんて、もうっ。


 自分を隠さなきゃいけない窮屈な世界とか、なんの悩みも無さそうに生きてる人間とか勝手に恨んで、()れて(あば)れた時期もあったわー。絡んでくる不良なんて敵じゃ無かったし。

 喧嘩も強かったのよアタシ。いつのまにか舎弟(しゃてい)が山程できてたのよね。


 でもいつからか……気づいたわ。お山の大将やっても、結局はテッペンで独りぼっちだって。

 アタシを理解してくれてるヒトなんて居ないってこと。だって自分で世界を嫌って遠ざけてるんだもの。当り前じゃない。


 そんな簡単な事に気づいてからアタシは変わった。目一杯オシャレを楽しんで、自分の心を誤魔化さなくなった。


 そうしてやって来た運命の日。魔法をもらった流星の夜。


 まーたアタシは特別になった。でも今度はいままでと違う、仲間が居たのよ。

 一緒に悩んで、笑い合ってくれる仲間。

 間違いだらけのアタシを屈託も無く囲んでくれた仲間。


 ――此処(ここ)に居ていいんだって、初めて言ってもらえた気がした


 ……最近になってね、思うの。アタシは理解してほしいんじゃなくて、ただ認めて欲しかっただけ。ただ“アタシは此処に居ていい”って受け入れて欲しかっただけなのよ。


 素直じゃない璃音(りおん)も、すっごくカワイイ愛魚(まな)ちゃんも、世話を焼きたくなっちゃう勝也(かつや)も……そして……最初にアタシを信じてくれた七郎も。全部大事なアタシの仲間……いいえ、家族だと思ってる。

 

 やっと手に入れたアタシの居場所を壊すなんて許さないっ。

 アタシ達は生きて帰るの! 夜なんて突き破って、全員でね。

 これからもずっと5人笑って戦う為に。

 

 真理愛(まりあ)ちゃんを泣かせる予言なんて、覆してやるわ!


 ・

 ・

 ・


 荒々しい力を(まと)った虎郎は爆縮(ばくしゅく)の勢いで駆けだす。


 「覚悟なさい怪物共!!」


 彼女が消えたように見え、次の瞬間には鐘背負いの肉を(えぐ)っていた。かと思えば手下の胴を切り裂いている。

 音速の早業。(むご)い爪跡が怪物どもに刻まれていく。


 「虎郎……!」


 生きていてくれた。そうさ、虎郎が死ぬわけない。

 だけど、あの手足の黒い変異は……覚えがある。俺が不死者の将と戦った時、不意に得た黒い肉体。重さと痛み、それを補って余りある膂力(りょりょく)を得たのだ。

 魔導隊の皆に話すも、同じ現象は誰にも表れない。ある時セギンに話すと、険しい顔で彼は俺へ詰め寄った。


 ――ソのチカラに身ヲゆだねテはならナイ


 それは獣牙種(オーク)が語り継ぐ言い伝え。

 魂を(うら)みに捧げ、獣へ()したある獣牙種(オーク)の男の話。復讐をくべる巨獣に変じ、怒れるまま空へ慟哭(どうこく)する。

 (ただ)れた炎を星の(ひとみ)(くすぶ)らせ、ただ失ったモノを求め()く。

 星の瞳、怒れる獣。


 ――彼ハ妻を奪われたのダ。自らノ運命から永遠ニ

   獣ニ墜ちたくないのナラ、ゆめ油断セヌことダ


 セギンは二度と力に頼らぬよう俺に約束させた。俺も腕がどうして黒に変異したのかが分からない。以来、過度に警戒することも無く……通常身体強化の強度を高めた。度重なる魔物との戦いによって。


 ―― い˝ ア A AAaaa !?


 「ちょっとやだわっ、おててとあんよが超痛――い」


 だが今は、あの力のお陰で活路が見えた。悩む暇はない!

 魔力によって肉体と剣を強く、重くっ。虎郎を少しでも援護する。


 「っ、はあ˝っ」


 「いいわね七郎! このまま化け物を(わら)えなくしてやろうじゃないっ」


 手下の一匹を切り裂けば、虎郎は鐘背負いの足首を断ち切ったところ。

 大怪異は膝を着き顔を(しか)める。反対に虎郎の顔は恐ろしいほど(たの)し気だ。はたから見たらちょっと引く。


 「(うわなんだかセギンが止めるのもわかる)」

 「なによーう変な顔しちゃって」

 「その目どうしたの」

 「? なに? 変?」


 何も自覚はないようだ。心配だが、話すのは生き残った後。


 「やっぱり虎郎(ころう)さんカッコイイ……!」

 「……その姿の見解は後にしようか。みんな、ボクに少し時間をくれ」


 璃音が傷を押さえながら立ち上がる。なにか考えがあるようだ。

 足を繋ぎ再び見下ろす鐘背負い。魔導隊の刃は、怪物の喉元に届きうる。その確信が俺達に活力をもたらしている。


読んでいただき、ありがとうございます。

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