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独経


 指先、爪の(あか)、そういった(あくた)な表現が最も近しい。役立たずの小坊主共。骨兵(こっぺい)の目を()(くぐ)り、精気を盗み得ることもままならぬのか。経を唱える価値も無い。

 肌をふやかす土の中、()えた臭いを臓腑一杯に満たして思う。


 目覚め直ぐには意気揚々(いきようよう)、息を吸うたびに力が(みなぎ)り、何処へなりともうろつけて。

 矮小(わいしょう)な畜生を踏み潰す、(おの)()はまさしく慈悲なるかな。


 しかして待つのは諸行無常(しょぎょうむじょう)、そうさ……人を落とし弄んだ少し後。(おの)躍進(やくしん)を地が(はば)む、内なる力が漏れい()て金剛力士の肉ぞ(たも)てん。

 ああ憎たらしや、あの不浄なる骨仏(ほねぼとけ)彼奴(きゃつ)らの恨みが線ぞ引く、(おの)が庭は盗まれたのだ。

 ならば(かす)(うば)うは自明(じめい)()、人の涅槃(ねはん)とはそれに尽きる。腹に精気を貯めに貯め、極楽法悦(ごくらくほうえつ)の時を待つ。


 よいではないか、よいではないか。悪徳こそがこの世の春ぞ。

 (おの)は若く、清貧(せいひん)だった。読経こそが救世(きゅうせ)の道とし、仏の教えを俗世(ぞくせ)()いた。それが如何(いか)なる因果であろうか、(おの)が兄弟子、よもやお師様に至るまで、金子(きんす)酒色(しゅしょく)(おぼ)れたもうた。

 夜な夜な床に小判(こばん)を並べ(よだれ)を垂らし、(うたげ)(もよお)女人(にょにん)(わらわ)を犯し尽くす。


 愚かしいかな、正道(せいどう)を説き邪見(じゃけん)とされて、埋められたこの身ぞ(あわ)れなり。(かね)の下にて(むくろ)が三年、(おの)が悟りは開眼せり。

 欲こそが真理、これこそ煩悩即菩提(ぼんのうそくぼだい)

 (おの)が腐肉の真上で(わら)い、鐘突く坊主ぞ正しき姿。ならばはじめに青い小坊主ば土より()()む、ア次に兄弟子、アそれお師様っ。

 美味なるかな、(かい)なるかな、血潮(ちしお)般若湯(はんにゃとう)(ごと)喉越(のどご)し。うむ、うまい。

 

 気づけば(おの)こそ、悪食寺(あくじきでら)大僧正(だいそうじょう)見下(みお)ろし嗤うこの身こそ、仏の(とうと)化身(けしん)なり。


 堕落せよ、阿鼻(あび)の地獄へ逆さに落ちよ。背に在る鐘ぞ打ち鳴らせっ、怯え狂うを(おの)は望む。


 つぶだみあむな つーぶーだみーあむーな


煩悩即菩提(ぼんのうそくぼだい)……煩悩がそのまま菩提に転ずるということ

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