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魔力の斬撃


 鐘背負(かねぜお)い、その前触れの怪異。ぼろ袈裟(けさ)に痩せぎすの単眼単足。

 逢禍暮市(おうまがくれし)が夜に変わった直後、陸軍兵士を落下死させたのが最初の接触だった。

 重力を操り、ヒトを落とし殺して嗤うバケモノは、騎士蜂と同等に最も印象深い魔物である。


 「どうして一つ目が居るのかしら。ココは小鬼の巣でしょ?」

 「……小鬼の見張りが(ざわ)めいたのは、俺のバイクじゃなくてあの鐘背負いの手下のせいか」


 虎郎と目が合う。

 言いたいことはわかってる、理由なんてどうでもいいんだ。


 「アンタ達からは逃げるしかなかったけど」

 「今は違うぞ。お前らの殺し方は分かってる」


 ――穢非(えひ)


 この瞬間、俺と虎郎(ころう)は以心伝心。

 魔力は肉体に止まらず、握る武器にも(まと)わせる。俺は撲殺を目的とした鉄塊、虎郎は()()るを自慢とした愛剣。

 共に魔力が染み、血と黒を混ぜた色へ変異する。


 ――ヒ、ぃ!?


 声も無く、殺意だけを全力で込め怪異の前へ(おど)り出る。怪物は一転、笑みを驚愕に変え後ろへ跳んだ。

 地面を(えぐ)る2人の振り下ろし。破裂音と破砕音、砕けた石が飛び散り土煙が舞う。


 ――ぃ、ぃ、きぃ?


 「俺達はいいようにやられてから考えたんだ。オマエらがどんな存在なのか……魔物だ、それは間違いない。でも璃音と、それに新しい仲間(オーク)と分析してひとつの予想を立てた」


 大きな目玉を睨み続け、歯をむき出しに首を傾げる怪異に語りかける。正体を得た、つまり“俺達はもうオマエを殺せる”と態度で伝える為に。


 「オマエらは生き物が変異した魔獣の類じゃなく、魔力で体を構成する魔物なんだ。日本で言えば妖怪の(たぐい)だろう? 存在強度のレベルは高いが、一定以上の魔力攻撃にはすこぶる弱い。オマエらにとって魔力による攻撃は、防御の無い素肌を直に削られるのと同じだ」


 俺は自然と口角が上がり笑顔となる。それも非常に悪い顔、鏡を見なくてもわかる。

 嬉しいのだ、残虐を楽しむ魔物が無様に焦る様が。


 「立場が逆になったわね♪」


 口調は軽い虎郎だが、こめかみに青筋が浮かんでいる。剣に渦巻く魔力は、纏うというより液状に凝固し(したた)っていた。

 襲いくる鉄塊にとって、自らの細腕が見た目通りの枯れ枝に等しいことを察した怪異。しかし怪異は再びの笑み、一本足をバネにして高く飛び下がった。


 足を着いたのはモール建物の前、そうすると似た姿の怪異がどこからともなく次々と現れる。

 以前と同じく集団で行動し、隠れてこちらを見ていたのだろう。


 ――穢……、穢っ穢っ穢っ穢っ穢っ穢っ穢


 横一列に並び、同時に笑い出す先ぶれの怪異。

 すると体に浮遊感を感じる、ヤツら得意の重力操作だ。身体強化を自重にまわしても姿勢が保てない。

 

 姿を現し集まったのは、同時詠唱によって術効果を強化するためか。

 

 「なら俺達もそうしよう」


 「ココよ! お願い!」


 ――ぃッ、?


 虎郎の手から投げられたのは赤い筒、火花が噴き出る音が閃光と共に強まった。

 これは目印、そこを狙えと示す死の光。

 

 「地ノ精霊ヨ、(ナガレ)逆巻(サカマ)花弁(カベン)()き止め、再ビ空へ捧げ給エ【石礫散花(セキレキサンガ)】」


 「――つらぬけ」


 鉄をも抉る石の散弾と、魔力が籠る矢の雨が(くう)を裂く。獣牙種(オーク)戦士ダンと愛魚の面攻撃である。


 「おお……すご。獣牙種(オーク)の詠唱ってなんというか……キレイな()みたいだなぁ」

 「聞き取れるのがうらやましいわ、アタシまだあんまりわかんないのよねぇ」


 蹂躙される怪異を前に、オークの地属性魔法へ場違いな感想を抱く。


 ――イ、()ぃぃぃぃ!?


 「おもしろいぐらいダメージ喰らってるわよアイツら」

 「はは、穴だらけだ」


 炎が弱まり闇を取り戻した暗がり。俺と虎郎の後ろから、無数の眼光が浮かび上がる。

 

 魔力の(こも)る石の刃、岩石の薙刀を掲げる獣牙種(オーク)族長セギン。

 大槍を持ち、魔法の石礫(いしつぶて)を携えるダン。彼の(そば)には、桃色の弓に魔力の染みた黒矢をつがえる愛魚(まな)

 続々と続く、鷲獅子(ワーギット)に跨る獣牙種(オーク)の戦士達。


 鋭く、しかし燃えるように全ての瞳は強く輝く。その視線はやはり(まが)い物の血を流す怪異共へと。

 流れ出る血も、傷から漏れ出る魔力がそう見せているだけだろうに。


 「さあ、あの巨人はどこだ。鐘を背負ってるお前たちの主」


 ――穢非ィィィィッツ


 一つ目怪異の数匹が往生際も悪く逆さに合掌、同時に一抱えの岩が無数に宙へ浮く。

 こちらに()()()()()()気か。


 「よねぇ。アンタ達は最後までそうでなくっちゃ」


 だがもう遅い。浮いた岩石、そのさらに高い位置へ虎郎が跳んでいた。

 女豹のようにしなやかに、空間が震えるほどの魔力が手に持つ愛剣へと注がれていく。


 「じゃないと気持ちよく吹き飛ばせないもの」


 ヤツらから逃げ惑った敗北の記憶。俺達は次こそ負けるものかと決意し、技を(みが)いていた。

 鉄工所を拠点としながら、探索の度に魑魅魍魎との対峙を修行とし、身体強化の向上を図る。魔導隊はみな魔力を武器に纏わせ戦うことが出来るようになった。


 そして、さらにその先も。

 最たる技の一つは、虎郎が編み出した広範囲攻撃。魔導隊(身体強化術者)には本来成しえない、まさしく魔法と喝采すべき必殺の一撃。


 「死になさい。斬波(ざんぱ)っ」


 黒の閃光が刃から放たれ、怪異の群れは悲鳴すら許されず吹き飛んでいった。


 ・

 ・

 ・


 一つ目怪異の全滅を確認し、俺達は商業施設内から物資を回収した。運搬経路の安全を確保しつつ、ジープでモールと拠点を往復する。


 水や食料の補給を全員で喜んだ。


 問題は2つ。

 回収できた食料品が予想以上に少なかった事。

 そして市街地から離れた山の麓、人が居ないはずの廃寺から精神をかき乱す鐘の音が大音量で鳴らされ始めたことだ。


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