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【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる現代暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
夜話ー後

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誤解

 

 「やだキモチワルイ! 近づかないでよっっ」

 「そうですぞ。獣牙種(オーク)など汚らわしい! 何をしてくるか知れたものじゃない」


 「Uum」


 「どうしたんだ」


 拠点の中では途方に暮れる獣牙種(オーク)と、床に散らばる食べ物の前で叫ぶシクルナ。ロームモンドが嫌悪を露わに怒鳴りつける。

 獣牙種(オーク)は良く知る顔、ダンだった。


 「……シチロウ。タベモノ、ELuRe-Ka(恵む、分け与える)、こわがル」

 「ああ、シクルナに渡そうとしたのか」


 散らばるのはビスケットだろうか、それに水の入ったコップ。何かのトレーも裏返しで床へ落ちていた。


 「獣牙種(オーク)のお兄さん達はお菓子を渡そうとしただけだよ。彼らはシクルナを守ってくれてるんだ」


 「うそよ! ロームモンドに聞いたわっ。オークは女の人を攫ってムリヤリ結婚するって! 魔物と一緒じゃないの」


 「それは誤解だ。彼らはそんなことはしない。ダン達は家族を何より大事にして――」

 

 「騙されてるんです。何を言ってるかもわからんのでしょう? ですがワタクシめは誤魔化されません。ウィレミニアの言語学者が調べたことですが……コヤツらが女性を『財産』と呼んでいるのをご存じですか? まさに蛮族。およそ理性のある種族ではない」


 「その話についてもセギン達から聞いた。律動言語の口頭だけを訳して、律動部分の解釈が抜けて間違えた意味になってる。『財産』じゃなくて……多分、『愛する宝物』と言ってるんだ獣牙種(オーク)は」


 「ウィレミニアが間違ってるとでも言うのか、無礼な」

 

 「ウィレミニアじゃなくてその言語学者が……」


 ああもう、なんでそうなる。

 (いわ)れ無く差別されてるのは、一緒に戦う友のひとりだ。誤った目で見てほしくない。

 

 シクルナの叫びで、他の避難者が獣牙種(オーク)へ向ける視線に不安が宿る。責める言葉は無くとも、目の色で不穏な空気は伝わるものだ。

 集団生活の場で、この流れはマズイ。


 「なんの騒ぎかと思えば。キミ達は脳味噌が要らないバ――」

 「はーい、ややこしくなるから璃音(りおん)はちょっと口にチャック」

 「もがもがもが」


 後ろで璃音(りおん)虎郎(ころう)に口を塞がれている。

 気持ち的には璃音に同調したい所だが、言い方がなぁ……。


 「(虎郎グッジョブ)」

 「(おほほ当然よぉ)」


 さて、異世界宗教組をどう(なだ)めたものか。


 「あっカツヤ! 来てくださったのね。こわいオークがわたしを襲おうとしたのよ」


 言葉を選んでいると、シクルナの表情が明るく変わった。鋼城が騒ぎを聞きつけたらしい。

 

 「オークがシクルナちゃんを襲った? どういうことだよ墨谷」

 「そんな事実は無い。この子の早とちりだ」

 「言葉の通じない獣人のせいでシクルナちゃんがこんなに怯えてる。オークは墨谷がしっかり監視しておくべきだよ。仲がいいんだろう?」

 「は? 監視?」

 

 「そうだ。今は生き残る為に、オレ達全員が力を合わせるべきだと思わないか。ロームモンドさんから聞いたけど、オークは危険な種族なんだろう。でもその力を使うんだよ、此処に居る人達やシクルナちゃん達の為に利用するんだ」

 

 「……鋼城……、そんなふうに思ってたのか? それは、ロームモンドの……誤解だ。話してみれば分かる。彼らに何も危険なんて」


 「ちょっと! カツヤをいじめないでっ、それでも仲間なの!?」


 険悪な空気が俺達を包む。

 一歩間違えば死ぬ魔物の地獄、外の脅威に比べれば些細な(いさか)いかもしれないが俺も引きたくない。

 たとえ獣牙種(オーク)達とは短い付き合いだったとしても、彼等の事を誤解されるのは許せなかった。

 俺と鋼城、双方にらみ合う形となる。


 「ケンカしてるの? めー! だよ。ほらっ、ダンさんもビックリしてる」

 「Huhm」


 「え、あ。真理愛(まりあ)……」


 少女の言葉が、緊張を一瞬で消していく。柔らかい笑みでダンの太い腕に抱きついている真理愛の声だ。

 不思議と、この淡髪(あわがみ)の少女の言葉は、陽だまりのように人の心を和ませる。

 なんの魔力も無いはずなのに、真理愛にはまるで魔法のように注目を集める華やかさがあった。


 それは俺だけが感じているわけじゃない。


 真理愛の友達を救い此処で過ごし始めてからというもの、彼女はよく笑い、同時によく人を励ますようになった。

 同じ養護院の男の子や、保護者である二葉幽香(ふたばゆうか)の存在が少女の心を支えるのだろうか? この状況であの年齢の子が、他人を励ますなんて早々出来ることじゃないだろう。


 真理愛の言葉で救われ、希望を取り戻した避難者も多い。

 さらに彼女の、“予知”と呼べる能力にはあの(あと)何度も助けられている。今では寝なくても、頭に未来の風景が浮かぶのだそう。


 拠点付近にある食料の位置を言い当てたり、外へ出る際には魔物の襲撃タイミングを伝えてきたりする。例えば、「食べ物が描いてある赤い看板を見たら、建物の中から魔物が飛び出してくる」なんて見てきたかの様に具体的な予言をするのだ。


 その予知が外れたことは、今の所一度も無い。


 「争うこと、イケ……u、ナイ」

 「ね? ダンさんがこう言ってるんだもん。ケンカは良くないのでーす」

 「あらー、また真理愛ちゃんに一本取られちゃったわねー」

 「ねーカナちゃん」

 「あら嬉しい。ウチの男どもはカナちゃんって呼んでくれないのよ」


 虎郎と真理愛は楽し気にじゃれ合う。面倒見のいい彼女は、すぐに真理愛と仲良くなった。

 気づけば遠巻きに様子を伺っていた避難民の顔も(なご)んでいる。獣牙種(オーク)への不穏な空気も消え去り、皆の力が抜けていた。


 俺もいつの間にか(りき)んでいた体が解れている。正直、助かった。


 「な、なによ。ま、まりあ? でしたっけ? 出しゃばらないでちょうだい」

 「実はね、クッキー貰ったからシクルナちゃんを誘いに来たの。前、クッキー食べたいって言ってたから……」

 「なっ……い、言ってないわ、そんな子供っぽいこと。レディに対して失礼ではなくって? わたし……カツヤと向こうでお話したいの。失礼するわ!」

 「お、お待ちくださいシクルナ様っ」

 「あっ……いっちゃった」


 鋼城を引っ張り離れていくシクルナを、残念そうに見送る真理愛。

 俺はしゅんとする少女に礼を言うべく、隣に(ひざまづ)く。そうすると丁度目線が合うのだ。


 「ありがとう真理愛。また助けられたよ」

 「? わかんないけど、褒めてくれたならヨシ」


 本当に、見違えて明るくなった。この天真爛漫な姿が、本来の彼女なのだろう。

 ……無論、無理に明るく振舞っている、というのも考えられるが……。


 「まどうたいの(みんな)はね? 真理愛にとって先生と友達を助けてくれたヒーローだもん。ケンカしてほしくない。今日もなかよく、がんばっろー!」


 「いつ日付が変わったのか不明だけどね」

 「まあいいじゃない璃音、野暮なことは。じゃ真理愛ちゃん、二葉先生とクッキー食べてくれば?」

 「うん!」


 花柄のワンピースを翻し、灯りを辿って走っていく。工場内の非常発電機で多少灯りは確保出来ているが、転ばないか心配である。


 ――いデッ


 「あ転んだ」

 「もう真理愛ちゃんったら……、……あの子にはいつも助けられるわね。鋼城は奥に行っちゃったケド」

 「鋼城はシクルナに付きっきりだなぁ」

 「ボクは気に食わないね」

 「まあシクルナちゃんの方が、あの年齢(トシ)の子らしいっちゃらしいわね。真理愛ちゃんがしっかりしすぎてるのよ。アタシらを頼って落ち着けるならそれでいいじゃない」


 確かに虎郎の言う通りだ。余裕のない状況で、俺達まで追い詰められたらあの子達も不安だろう。

 頼られて、安心してくれるなら……良いことか。


 「そういえばダン。愛魚ちゃん見なかった?」

 「マナ、オーKU、集まるトコ。ヨンデ、クル」

 「ありがとダン」


 虎郎の願いを聞き、ダンが歩いていく。その足取りは楽し気。


 「むふふ」

 「うわ子供に見せられない顔。どしたの?」

 「七郎に同じ」

 「鈍いわねぇ……ま、いいわ。愛魚ちゃんとダンが連れ添って戻ってきたら改めて話すケド……相談があるのよ」

 「相談?」


 「まあちょっとしたトラブルよ。食料が尽きたわ」


 …………。

 

 「……ちょっと?」


 大問題だろそれぇ?


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