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【明けぬ獄夜に縋る糸】~少女の愛が届かない 異世界と繋がる現代暗躍復讐譚~  作者: 三十三太郎
夜話ー後

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地図と救出(2)


 ヒトとも動物とも言えない、濁った鳴き声が聞こえる。

 崩れた建物の影から様子を伺うと、そこに居たのは何かを引きずる小鬼(ゴブリン)


 小鬼(ゴブリン)が運んでいたのは、血に濡れた人間の死体だった。


 死んでいると分かるのは、頭部が欠けているから。消えかけの火災の火が、引きずられた血の跡を浮かび上がらせる。


 「……っ」


 歯を食いしばって耐えるほかない。あの遺体を取り戻す為に騒ぎを起こせば、他の小鬼(ゴブリン)共が集まってくる。

 迦楼羅(カルラ)製鋼の鉄工所を出てからというもの、付近の大通りには小鬼(ゴブリン)の群れが目立った。

 群れは例外無く、新鮮な肉に浮かれお祭り騒ぎ。

 もはや犠牲者の数なんて数えたくもない。


 「鉄工所に居る人達以外……全部……あんな」


 「生き残りが居ないなんてことは……ないはず。建物の中に閉じこもって、身を潜めている人もいると思う」


 惨状を再び目の当たりにして、俺も絶望感を感じていた。

 崩壊のない建物も窓が割られ、魔物が侵入した痕跡が多い。自分の言葉が慰めにもならないことは自覚している。


 「BuNou」


 「……先に進めるみたいだ」

 「う、うん」


 市街の影を縫うように進むが、いま俺は大きな背中に先導されている。出発時にひとりの獣牙種(オーク)がついてきたのだ。

 それは鉄工所内に避難後、まず声を掛けてきて、愛魚(まな)が感謝を伝えた獣牙種(オーク)の男である。

 言語は理解できないが、ジェスチャーと発音のタイミングを見るに、おそらく彼の名は “ダン”。

 微妙に発音が違うかもしれないが、名を呼ぶと振り向くので全く的外れではないようだ。


 「ダン。(――コッチ?)」


 愛魚が指で方向を刺すと、ダンはうなずき返し歩を進める。

 

 ダンは俺達なんかよりずっと優れた動きを見せた。魔物の存在を察知すると、あの巨体で信じられないほど素早く動く。


 今も目の前で、近づいてきたはぐれ小鬼(ゴブリン)を音もなく処理している。他の魔物は一切気づいていない。

 その手際の良さは間違いなく実力者のソレ。戦士と狩人、その両方の技巧(ぎこう)の高さを伺えた。

 

 願えばその技を教えてくれるだろうか。

 いや言葉の壁は厚い、今のままでは難しいだろう。俺にダンと同じことが出来れば、仲間の力になれるのに。


 「強くて、かっこいいね……ダン」

 「ほんとうに……」


 手元の地図に状況を書き加えながら、ダンの先導で商店街を目指す。大まかな方向をダンに伝えると、彼は最適な道を選び進んでくれる。

 もう目的地は近い。


 途中、もぬけの殻になったクリニックへ入り、持ってきたカバンに目についた医療品を詰め込んでいく。包帯、消毒液、抗生物質や痛み止めらしき薬剤を次々に放り込んだ。

 略奪まがいだが、背に腹は代えられない。


 「愛魚(まな)ちゃん、獣牙種(オーク)の人達の言葉がなんとなく分かったりする?」

 「え、どうして?」

 「気のせいかも知れないけど、愛魚ちゃんとダンの息が合ってるように見えて」

 「ううん、言葉は分からないけど……こーゆーのは身振りとか目線とかで、通じ合えたりするから……。わたし、競技弓(アーチェリー)の大会で出会った外国人の友達がひとりいるの。その娘とも最初はこんな感じだった、かな」

 「おお、グローバル」


 愛魚の交友関係は、俺なんかよりずっと広いのかもしれない。学校ではバイトに明け暮れ、ディフェンスウォーしか趣味の無かった俺なんかよりずっと。

 なんだか無意味に悲しくなってしまった。


 「それと七郎君。その“愛魚ちゃん”って呼び方、いつもちょっとだけ照れてるよね。無理してちゃん付けしなくてもいいよ?」

 「ええ? いや照れては…………実はちょっと思うところはあったりする。でも呼び捨てはどうかと思うし。ほら、ニーナ教官の戦闘試験で合格した時にみんな愛魚ちゃんって呼んでたから、なんとなく」

 「璃音(りおん)くんは“愛魚”って呼び捨てにするよ?」

 「(鋼城(こうじょう)の手前、気安い呼び方しにくいんです)……まあ、呼び方については、嫌じゃなければこのまま」


 「HoKre」


 「「!」」


 ダンの合図で、心休まる雑談の時間は終わった。小声で話していた愛魚の口元も引き結ばれる。

 ヘルメットで隠された目元も、鋭く変わっていることだろう。


 「辿り着いた……動く車は……?」


 安全な小路(こみち)から辺りを見回せば、今までの道のりと漂う空気が違う事を感じ取る。

 あんなに多かった小鬼(ゴブリン)が居ない。濃い死臭が(よど)む。


 真理愛(まりあ)達を連れ、逃げている間は気づく(ひま)が無かったが、市街にオカシな土地が混じっている。


 「なんだ……? 立ち枯れた森と……気持ちの悪い土だな」


 すぐ傍にあった、不気味に立ち枯れた木。その根元からアスファルトを割るように黒土が広がる。

 試しに土を手に取れば、不快感を残して煙のように散っていった。


 「あ! アレっ」

 「っ、やっぱり、ホントに車が来た」


 道路の奥からワゴン車だろうか、壊れて消えかけのライトの光が見える。瓦礫(ガレキ)を避けながら、蛇行運転で走っていた。


 「おおい!」


 前に出れば、車は途端に急ブレーキ。手を振りながら近づく。


 「大丈夫か」

 「よかったっ怪物じゃない! 助けてっ、3人で逃げてきたんだっ」


 割れた窓から中を覗けば、運転席に乗っているのは明らかに子供。アクセルにギリギリ足が届くぐらいの背丈だ。

 真理愛より少し大きいか……、他に少し小さな子が2人。大人は誰も乗っていない。


 「君達だけで運転してきたの!? 大人の人は?」

 「他のヤツ連れて逃げた……おれたち、逃げ遅れて隠れてたんだっ。そこら中に怪物が居てっ――それで、だけどおれがイチバンねんちょうだから守らなくちゃって……う、ええ」

 「GUmuu」

 「おわぁ! オバケ!?」


 運転席の男の子は、ダンを見て涙が引っ込んだようだ。

 そうだ、泣いている場合ではない。


 「来たぞ」


 予想はしていたが、外れてほしかった。不死者という特性上、倒したところでまた立ち上がる。彼らはいったい、何を恨んで彷徨(さまよ)うのだろう。


 錆びた鎧を着る、不死者の歩兵が再び立ち塞がった。


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