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魔物との乱戦


 ――撃てっ! 頭を狙えっ

   2、3発ぶち込んだぐらいじゃ死なないぞっ


 ――ぎ、ぎゃああああああ


 暗闇の空、崩壊する街、単眼の怪物……ここまでに起こった出来事に感情が追い付かない。

 それでも足は動いてた。自分に何が出来るかを考えて、冷静であろうと努力していた。

 だがついに足が止まる。


 「(こんなの、どうすればいいんだ?)」


 軍の兵士が、走り牙をむく魔犬へ自動小銃の連射を浴びせる。

 兵士は屍を踏みつけ前に出るも、横から襲い掛かる魔犬の牙に倒れた。

 首に噛みつかれもがいている。


 「考えないように……してたのに」


 ――GeGyaガガガガッ


 棍棒や石くれを掴んだ小さな影が、走り回りながら汚らしい声を上げた。

 緑がかった肌が血によって薄汚れている。子供ほどの背丈の、2足歩行で武器を持つ人型。尖った耳に醜悪な顔つき。

 ニーナ教官の授業で絵を見た事がある。アレは小鬼ゴブリン

 

 転んだ兵士の頭に何度も棍棒を振り下ろしていた。


 「(死んでる。人間がこんなに大勢、訳が分からないうちに殺されて)」


 息が苦しい。防具の中で荒い息の音が耳障りに響く。

 単眼の魔物に落下死させられた兵士の死にざまを思い出す。肉袋が叩きつけられ、中身が砕ける音の記憶に蓋を出来ない。


 恐怖が溢れて止まらない。


 ――Gyaンっ!


 「しまっ――」


 気づけば目の前に、大きく開いた口が在る。

 防御する暇も無く、魔犬の口が喉元へ迫っていた。


 「そぉぉれっつ!」


 ――ギッ!?


 風圧を感じたと思った瞬間、真っ二つになる魔犬の体。


 「ぼーっとないでっ! コイツら次から次へキリが無いのよ。……ともかく無事でよかったわ」


 虎郎(ころう)が愛用の剣で魔犬を切り裂く。既にヘルメットを脱ぎ捨てた彼女は、返り血に濡れながらも安心したように笑う。

 虎郎の剣は教導を卒業すると同時に贈られた異世界製の品。多少魔力を帯びる程度で特別な力は持たないが、頑強で扱いやすい。


 その剣でいったい何匹の魔物を(ほふ)ったのだろうか。刃はこびり付く血でドス黒く染まっている。

 

 「ありがとう虎郎。ちょっと、動揺してた」


 「いいのよ。それにしても、どこから溢れて来てるのよっ? コイツら――はっ!」


 言葉を言い終える暇もない。俺と話しながらも虎郎は休む暇なく剣を振るう。

 俺も気を取り直し、軍車両に積まれていた暴徒鎮圧用の盾と1m程の重警棒を構えた。

 盾と警棒は鉄製。魔力強化された筋力で振るえば、小型の魔物なら難なく倒せる。

 事実、過去の魔犬討伐ではこの警棒を振るい魔犬を殺しているのだ。


 「とにかく此処から移動した方がよさそうだね……! このままじゃ囲まれてジリ貧だ」

 

 「来た道使って逃げるしかないのかしら」


 「いやダメだ。道は塞がれてたんだ。黒い壁があって通れない」


 「なによそれ……ホントなの七郎」


 「ああ璃音と確認した。道だけじゃなく、一帯(いったい)を囲むように……」


 「! 群れがまた来るよっ」


 車両の上から矢を撃っていたいた愛魚(まな)が、新たに迫る魔物の一団を視界に捕らえた。


 これ以上此処に留まれば犠牲が増える一方……とにかく動くしかない。


 「……動く車両に生存者を乗せて脱出しよう。確か待機所に置いてあった大型トラックがまだ生きてたはず」

 「でも七郎、どこに行くっていうんだい?」

 「魔物の包囲が薄い所を突破する。――市街地の方角へ」

 「う、うん。確かに街の方からは魔物はまだ来てない」


 俺が魔物の数が少ないと感じた方角。愛魚の目でも確認し、璃音も“仕方がない”といった表情。


 「俺と虎郎、愛魚ちゃんで生きてる兵士と合流しながら魔物の群れを突破していくしかない。虎郎は陸軍の指揮官に脱出を提案してほしい。居るのは……待機所があった方だろ」


 銃の発火炎(マズルフラッシュ)が激しい箇所を指す。おそらくあそこが指揮の(かなめ)

 俺を含めた壁の確認組は乱戦の(はし)に居るのだ。中心では車両を盾に陸軍が纏まって交戦していると当たりを付ける。

 まずはともかく合流だ。


 「いいわ。シクルナちゃんと勝也(かつや)も多分ソコね。行きましょっ」

 「ボクは怪我人を車に乗せてく」

 「頼んだ」


 璃音が早速、肩から血を流す兵士をジープに乗せた。


 俺が見据えるのは正面。唸る魔犬と、初めて相対する小鬼(ゴブリン)

 

 「覚悟しろっっ」


 盾と警棒の重さは感じない。全力の身体強化で魔物との距離を詰め、振るう警棒は肉ごと骨を砕く凶器と化した。


 小鬼は手に持つ棍棒や石、果ては拾った銃で殴ろうとしてくる。その武器の上から鉄製の棒を叩き下ろして頭を割った。

 

 人間に似た小鬼を殺すのは、魔犬を相手にする時とは違った嫌悪感がある。だがその感情に向き合う余裕すら無い。


 血しぶきを上げ吹き飛んでいく魔物。手に伝わる生々しい暴力の感触。

 とにかく本部と思しき中心へ合流を果たす為に進む。


 「それにしても、どうして魔物はお互いを攻撃しないのかしらね? 別にナカヨシってふうには見えないけどっ」

 「美味い餌は早い者勝ちってことだろう」

 「――ハッ。笑えないわね……美味しくいただかれてやるもんですかっ」


 死体に群がる犬を横目に俺達は進む。動かない兵士の腹から内臓がこぼれ、犬共はソレを貪るのに夢中。

 負傷者を回収しながら付いてくるジープから、愛魚の援護射撃が飛んでくる。

 場を俯瞰して見る彼女の援護が、俺と虎郎の命を幾度も救った。


 ついに魔物の声より、銃声と人の声が多く聞こえる位置まで到達。

 目的の場所はもうすぐだ。 


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