色華やぐ封印祭(1)
人の熱気と屋台の色。
それらが混ざった光が、大通りの賑わいを浮き上がらせる。
その祭りと地蔵堂家を覆う障壁の光を、上空から見定める者達が居た。
彼らが着込む白の鎧は、夜闇のなか目立ちそうなものだが、気づく人間は誰も居ない。
魔法によって一時的に姿を隠しているのだ。
「…………」
魔力噴射を増幅し飛行を可能にする鎧は、直立時とは形態を変え飛ぶに適した形となっている。
胸部装甲の一部を頭部へ移動、脚部は姿勢安定の為固定され、外套が翼の様に広がっていた。
まるで戦闘機を思わせるシルエット。
この鎧の機構制御によって、長距離を高速で、かつ効率的に飛行することが出来るのだ。
「殺すな、最短で終わらせる」
これから行うのは、大義も無い強襲。
――心に、僅かにわだかまるモノは在る
だが必要なのだ。我らの願いを果たす為には。
≪――……―……!≫
魔術通信から声が聞こえる。一拍子遅れて、轟音と共に咲く光の華。
彼らはこの合図を以て、青に輝く障壁へ突撃していった。
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地蔵堂家で一夜を過ごし、翌日。
フレイヤの家族は、俺達を盛大に持て成してくれていた。
灯塚裕理は“せっかくだから”と義瑠土の警備に同行し、時折登録員へ戦闘を指導。
クジャクは地蔵堂家の面々と酒を飲みかわし、既に何人か潰している。
主催の人間が酔いつぶれて大丈夫なのだろうか?
銀伽藍とリンカ、カルタは祭りの準備が進む街並みを散策。
途中ガラの悪いチンピラが少女らに絡むも、戦い慣れた彼女らは一瞬で制圧したそうだ。
周りからは拍手喝采、すでに街で話題になっている。
日が傾き、夕日が紅く街を照らす時刻。
封印祭がいよいよ始まる。
――これでよし。似合ってるよ
「あ、ありがとうございます」
上の階から聞こえる声。
すぐに階段を下りる小さな足が見えた。
「七郎様……どうでしょうか? 変じゃ、ないでしょうか?」
「ああ、よく似合ってる」
階段を下りてきたのは、明るい色の浴衣を着たリンカ。
浴衣には花の絵が散りばめられ、帯も可愛らしく結ばれている。
「えへ、えへへ」
「む……あんまりジロジロ見るな墨谷七郎」
嬉し気に笑うリンカ。
後に続いて、こちらも浴衣に身を包んだ伽藍も降りてくる。
2階の大部屋で、女性陣はフレイヤとその母親の手により浴衣を着つけていたようだ。
「裕理さんも来ればいいのに」
「大勢が集まる中警護の人間が足りないとのことでしたので……そちらを助けてきます。気にせず楽しんできなさい、伽藍」
「あたしの浴衣、ちょっと派手じゃないかねカルタ?」
「よく似合ってますよクジャク様!」
クジャクまでもが、少女の様に浮かれながら照れ笑う。
「(きっと祭りの色彩を全て集めても、此処に居る華たちには及ぶまい)」
そう感じ入る程に、艶やかな光景であった。
「花火までちょーっと時間あるしぃ、みんなで屋台巡ろー。レッツゴー!」
フレイヤは‘待ちきれない’といった様子で、小走りに駆けだしている。
玄関から外に出れば、汗ばむような気温と湿度。
坂道の下に提灯の明かりが並ぶ。
「んしょ」
履物が地面を蹴る音。
鮮やかな浴衣の袖が、目の前で翻る。
「行きましょうか、七郎様」
肌の闇色の中、楽し気に光る金の瞳。
リンカは振り返りながら、俺に満面の笑顔を向けた。