あとの祭り
「お祭りに行こーーーー!」
「なによ急に」
満面の笑顔で叫ぶフレイヤに、伽藍は愛刀を清める手を止めた。
急に走ってきて、一言目にこれだ。伽藍は‘ワケがわからない’といった顔を浮かべる。
「くそー! ぜんぜん見えなかったっ」
「うえっ!? 急になにカルタっち? ビックリした」
「あなたがソレ言う?」
木陰に倒れながら悔しがるカルタを、フレイヤが心配する。
「藤堂っていう、伽藍の親父っ! 強すぎだろっ。消えたと思ったらひっくり返されてた。……日本って10年くらい前までは魔物もいない平和な国じゃなかったのか? んな国になんであんな強ぇのが」
「ふふん。養父さんが強いのは当然、一刀流を修めた日本最強の剣士だもの」
「伽藍っち嬉しそー」
場所は何時ぞや、七郎と少女2人が摸擬戦を行った訓練場。
藤堂領と伽藍が久々に揃って剣の修練を行い、見学していたカルタが藤堂に試合を申し込んだのだ。
結果はカルタの惨敗。
戦いにもならず、何をされたかも理解できないうちに背中が地面に着いていた。
「……クジャク様とリンカには、恥ずかしくて言えねぇなこりゃ」
此処に居ないクジャクは、義瑠土と提携した病院へ最後の検診へ行っている。
灯塚裕理とリンカはクジャクの付き添いだ。
「……で。じゃあなんであの人、魔導隊最強と斬り合えてるの?」
「あいつ結局、何者なんだ?」
「墨谷七郎……いつか絶対、伽藍が負かしてやる」
散る火花。刃を振るう腕が音を切る。
片や合理の剣術無双。無駄と情けが存在しない、剣のみが映る水面が如き一刀流。
片や悍ましき不死者の剣戟。2刀を携う死の円舞曲。
膂力と害意が溶け合う不合理、男が持つ戦い方に当てはまらない。
明らかにナニカの写し身。
ただしその真似事は、剣術無双の刃を受けうるに足る。
「興味深い。その剣は誰に倣った?」
「誰かは知らない、彼女と話したことは無い。でも俺が見た中で一番強い剣士だ」
正道の太刀筋と、一見奇怪な剣筋が数合重なった。
「流石は‘墓守’。伽藍に引き合わせた甲斐があった」
「その墓守って、あんたが勝手に言ってるだけだろう?」
「そうでもない。義瑠土の古参に、時折その名は挙がる。不死者を孕む霊園山を、守り続けてる男がいると…………まあ二つ名を与えるのは、嫌いじゃないがね」
藤堂は半身、刃は正眼に構える。
「一切皆苦、剣にこそ救いがあるのだ。……さあ共に極めようか」
「……! 剣の鬼め」
膨れ上がる剣気に思わず後退る。
俺が久しぶりに死の気配を感じている最中、木陰で少女らの会話は弾んでいた。
「でね、実家の目の前で大っきいお祭りが開かれるの! 何を隠そう家が主催っ。せっかくだから皆をそこに招待したいんだ」
「でも呪物が封印し直されたんでしょ? そんな状況でお祭りなんかしていいの?」
「逆だよ逆。呪物が戻ってきたからお祭りするんだよ。ずぅっと前から続く、“コトリバコ”を慰めるための神事だから」
「ああ、そういう」
「もちろん一般客の人達には、神事の内容は伏せられてるよ? 大勢の人が集まって、楽しく騒ぐのが大事だからね。出店もたくさん出るしー、おいしい物もわんさか」
「いいなぁ……クジャク様が帰ってきたら話してみようぜ」
「伽藍も今のところ義瑠土からの依頼は無いし、休学期間ももう少しあるし……行って、みようかな」
波乱の一幕は下り、穏やかな日常が心を癒す。
帰ったクジャクらも、話を聞き二つ返事で了承した。
宴で笑う、喧騒快活の邪気払い。
最後の騒動の場、地蔵堂家の封印祭が幕を開ける。
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