活路
――Gi、イ、イ、イッッ!!
十字の光を宿す影に苛まれ、苦しみながら遠ざかる怪物の一頭。
瞬く間に水平線の向こう、視界を海沿いの陸地に阻まれた彼方の距離へ消えていった。
「……」
呆然とする裕理の隣で、銀伽藍は目を細め無言。
伽藍の憧れ、初代魔導隊の背中を幻視させる男。
霊園山で出会った墨谷七郎、その瞳に見た十字の光。
「(見間違い……きっと、そう。似ているけど全然違う)」
犬神と魚のバケモノを襲った光に、伽藍を助けてくれた強さは無い。
あれはただ怖いだけの――。
「しっかりしなっ」
「っ!」
声のお陰で我に返ると、牙が近くまで迫っていた。
瞬時に足へ魔力を流す。
伽藍は裕理を支えて跳び退った。
怪物の咢が誰も居ないビルをかみ砕く。同時に赤熱する炎糸が、“玉眼”の刃鱗に絡みついていく。
「一頭消えたからって、あたし等が不味い状況には変わらないね……」
「爆炎符も尽きちまった」
戦い慣れたクジャクとカルタは、海底の大隆起という状況からの復帰が早い。
再度“玉眼”の拘束を試みるが、効果は芳しくない。
「――周りを全部焼いちまうんで、押さえてましたが……こうなったら、あたしの最大火力で」
「クジャク様……それは」
「待って。その前に、考えがある」
「伽藍?」
伽藍の言葉に首を傾げる裕理。
竜を押さえる糸に力を込めるクジャクや、万策尽きた様子のカルタも概ね同じ反応である。
「あの怪物、たぶん片目が殆ど見えてない。……あの色の違う方の目。そっち側の側面からなら、頭を狙って一斉に攻撃できるかも」
「しかし伽藍。攻撃と言っても、あの鱗と頭蓋を貫くことは……」
「伽藍が斬る!」
「……できるのかい?」
「やってみせる。でも間合いの中で集中したい、その為に――」
「そのためにヤツの死角から一斉に攻めて気を引くってワケだ。いいさ、乗ったよ」
「クジャク様が言うんじゃ仕様がないな。頼むぜ伽藍」
「――っ、わかりました。信じますよ伽藍」
「ん」
短く答え、伽藍は刃を鞘に納め集中する。
瞑目、深呼吸。
「休んでてもいいんですよ?」
「伽藍が頑張ってる手前、寝てるわけにはいかない」
炎糸を操り、“玉眼”が暴れる力を巧みに逸らすクジャク。
魔力を滾らせる裕理を尻目に、カルタは持ち前の身体能力で竜をかく乱している。
「そらっ!」
タイミングを見極め、クジャクは手繰る糸へ一斉に魔力を流す。
強度と力を増した糸により、態勢を崩す竜の巨体!
“玉眼”の視界は衝撃に揺れるが、それでも明瞭。
大昔に透明さを失った片眼は、相変わらず霧がかった世界を映す。
そう思っていた矢先。片側のぼやけた世界が色づき始めた。
鮮やかな紅色。“玉眼”がそれを認識した時、魔力を込めた3人の女傑は竜の懐に。
魔力を纏うカルタの爪が宝石色の目を切り裂き
「喰らえぇっ!」
裕理の足底が首に食い込み
「ハアアア!」
2人が離れたと同時に、傷を負った竜の頭部にクジャクの業炎が刺しこまれる。
「ユイロウ流操炎糸術:絢火槍!」
―― A˝ A˝ A˝
首を打たれ、目を抉られ、傷を焼かれるなど、たまったものではない。
苦悶を叫ぶ“玉眼”。
その眼前で、今まさに白刃が解き放たれようとしていた。
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