ギロチンが落ちる3秒前の悪役令嬢に転生したけど、チェックメイトから始めなくてもいいと思わない?
昨日から読み始めた悪役令嬢モノの小説の続きが気になった私は、危ないと思いつつも歩きながら本を読むことをやめることが出来なかった。
ここが道路脇の歩道であることなどすっかり忘れた私は、すぐさまページをめくることに集中し、本の世界へと没頭してしまう。当然、そんな私に周りの音なんて聞こえるはずも無かった。
そして、物語が佳境へと迫った頃、全身に激しい痛みと衝撃を感じて私はそのまま気を失った。
……はっと目が覚めて、自分の首と両手首が木枠に固定されてる事に気が付いたのと、後頚部に凄まじい衝撃を感じたのはほぼ同時だった。
時間にして3秒? くらいだったと思う。あれっ? って思った時には視界が上下左右に移動して、最後に空を見上げたまま、私は再び意識を失った。
さて、普通ならここでお話はおしまい。稀代の悪役令嬢はギロチンにかけられ、めでたしめでたしとなるところだ。
――だけど、そうはならない。
「……っ!? なぜだ! なぜ首を落としたのに死なないっ!」
お決まりの台詞を吐いたのは私をギロチンにかけた張本人。昨日まで私の婚約者だった皇太子だ。声を震わせ、真っ青な顔で私の死体を指さした。
当時に、パチリと目を開けた私は勝ち誇った笑みを浮かべる。
「いいえ皇太子様。私は既に死んでおりますわ。この世を去る最後に、貴方へ永遠に消えない呪いを授けようと思い、未だ現世に留まっていますのよ」
ニタリと口角を歪ませ、やたら甲高い音で息を呑む皇太子へ、
「今後一切私の名を口にしないこと。当然、私に関することも一切喋ってはなりません。もし、その約束が破られたなら、貴方には死すら生ぬるい永遠の生き地獄を用意して差し上げますわ」
――ゆめゆめ、お忘れ無きよう。
その言葉を最期に私の体は霧のようにその場から跡形も無く消えた。
……ほどなくして、再びパチリと目を開けた私は豪華なベッドの上に寝かされていた。覚醒と同時にギロチン台にかけられて死んだ記憶がよみがえり、思わず飛び起きて自分の首をなでる。
「首も、手もちゃんとつながってる……」
一体どういうことだろう? 訳も分からないまま豪華なベッドを降りた私は、外を見ようと窓へ近寄る。すると、そこには見覚えのある一人の少女の姿が映っていた。そして、先ほどのギロチン台に自分がいたことの意味を瞬時に理解する。
「……この顔って悪役令嬢? まさかここって……!?」
――つまり、私は小説の世界に転生したのだった。