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婚姻への下準備②

「それは、僕たちに話せることかい?」

 ソラの言葉を聞いて、全員がアマティの方を向いた。

「……これは再建についての取り決め、オルトベラ王が関わっている国秘です。ソラ王子は皇太子になられたときであればともかく……」

 ……マンナリ王妃の意向もある……

 表情を悟られないように視線を落とすアマティ。

「あぁ、オレは別にいいぜ。アバドのヤツを見つければいいんだろ? 乗るぜ、その話」

「そうですね。自分の領地ができるのであれば、民の見本となる女性がいいですから」

「……ぼくは父と相談はしますが、参加はします」

 手を出していたフィオーレの後にステーロが手を重ね、続いてリヴェールも手を重ねた。

「……僕も参加するよ」

 そう言って三人の手を両手で握るソラ。


「……ボクが最初に見つけたらどうすんのさ」

 無言のまま笑顔を向ける四人を見て、口を尖らせたリラが、アマティと視線を合わさずに小さな声で言った。

「そのときは、オレがお前の手伝いをする、ってだけだろ?」

 アマティの言葉を聞いて満面の笑みを浮かべると、すぐに四人の側に行きソラの上から両手を置くリラ。

 ……ん? この匂いは……

 フィオーレがリラを見つめた。側に寄ったリラの髪から先ほどの匂いがしたからだ。すぐにリラの頭を両手で掴み匂いを嗅ぐ。

「ふえっ!? な、何! ……あっ、ボク……臭い……?」

 驚いたリラが髪に顔を近づけたフィオーレに気づき、恥ずかしそうに顔を赤らめた。

「あぁ、いや……。臭くはない……」

 そう言いながらゆっくりとアマティに目をやるフィオーレ。

「……別に臭くないというか……匂い、しないけど?」

「そうですね……」

 ステーロの後にリヴェーとソラもリラの髪の匂いを嗅いだ。

「何の匂いがするんだい、フィオーレ?」

「……ソラ王子、オレの勘違いかもしれないので……」

 視線に気づいたアマティは、テーブルに置かれたリラの髪を手にすると、笑みを浮かべながらローブの中に入れた。

 ……やはりフィオーレは気づいたか。まぁ、クリアミニの遠征のことは脳に刻まれているだろうが、前線のことは憶えていないはず。リラにしても、事情を知らないヤツが接触してきたら面倒になる。そのときは……オレも真実を知ることになるんだろうが……

 五人の様子を見ながらぼんやりと考えるアマティ。

「……この話は口外するな。罰則は決めないがお互いの信頼の上に成り立ってることを理解してくれ。

 まずアバドを見つけたら、木の盾を銀の盾と交換すると声をかけ連れてきてくれ。オレは中庭の礼拝堂と祈祷場の間の部屋にいる。

 あと、リラとソラ王子は城の外へ行くことは禁止させていただきます。もちろん諜報官へ命令することも同じです。……かなり不利になると思いますが……」

「うん、まぁ、仕方ないよね。何か別の方法を考えるよ。アマティに相談するのは禁止しないよね?」

「あーっ、ずるい! じゃぁボクも!」

 ソラの言葉を聞いて、すぐにアマティに抱き着くリラ。

「……ソラ王子とは、後で……」

 そう言って頭を下げるアマティ。

「……とりあえず俺は昼食の準備があるので先に失礼します。えっと、これは持ち帰ってもいいんですよね?」

 銀の小刀を手にしたステーロがアマティに聞いた。

「あぁ、みんなも持ち帰ってくれ。それらは王子である証だ。大事にな。まぁ、ゆっくり昼飯を食いながら、作戦でも練ってくれ」

 そう言ってリラの頭に手をやってから、ソラに笑みを向けるアマティ。

 遺品を手にしたフィオーレたちは先に部屋を後にした。


「……結局、詳しいことは分かりませんでした。……フィオーレのせいでうまく乗せられたような気もしますが……」

 そう言って前を歩く二人に視線を向けるリヴェール。

「あぁ? お前は年下のくせしていつも偉そうに……」

 長剣を眺めながら話すフィオーレの横を歩いていたステーロが立ち止まる。

「でも、親の推挙があったにせよ、十六歳で内務官になれた者はいないぜ。多分、もう何かを考えているんだろうから、俺はリヴェールにも乗ろうかと思うけど……」

 長剣を眺めながら話すフィオーレの顔色をうかがうステーロ。

「……そもそも、ぼくの理想の女性はマンナリ王妃です。同じ歳のリラとは比べものになりません」

 ぽつりと呟いたリヴェールは、二人の言葉を気にすることなく途中の階段を降りて行き、無言で補佐室へと向かった。

「それはまぁ、否定しないけど……」

 そう言ってリヴェールの姿を見送ったステーロは、小走りで前を歩くフィオーレに並ぶ。


「フィオーレは……今までのこと、これからのこと、どう思う?」

「ガキのオレらを保護してくれたオルトベラ王には感謝してるぜ。遠征にも連れて行ってくれて鍛えてくれたしな。まぁ、四次まで手こずったクリアミニ遠征は結局、失敗に終わったが……」

「えっ、失敗? クリアミニからの要請で休戦したんじゃ……」

 驚いたステーロが大きな声を上げた。あっ、と口を開けたまま天井を眺めるフィオーレは、少し考えてからそのままステーロと肩を組んだ。

「あー、今の話は無しだ。忘れてくれ」

 イセタリブ大陸を平定したオルトベラ王は、クリアミニ侵攻のため、ドレストに新たな砦を作らせ、勢いに乗っていたルチェーレ騎士団を移した。しかし、黄葡萄の森に阻まれ失敗に終わったのが一次遠征。

 それまで、争いごとは侵攻と呼ばれていたが、クリアミニからは自国の被害を隠すために遠征と呼ぶようになる。

 セガノトたちの助言通り、まずは黄葡萄の森の調査を始めるため、イセタリブ大陸の医術者や研究者たちがドレストに集まり、様々な方法が試された。

 そこから新たに発見された黄葡萄の効果もあったが、森の概要が分かるまでには至らず騎士たちの士気は下がって行く。

 国として銘打った遠征は四次だったが、しびれを切らした指揮官たちの暴走もあり、実際はそれ以上クリアミニへと侵攻していた。にもかかわらず、黄葡萄の森すら抜けることができず、それどころか帰還する者は誰一人としていなかったことから、死の森と呼ばれるようになる。

 ただ被害を増やすだけの遠征を喜ぶのは研究者だけ。帯同者や騎士団の士気を下げ続け、これ以上は国の威信に関わると判断したセガノトは、侵攻を終わらせるための策略を考えていた。

 その結果、クリアミニとルチェーレの補佐官会談によって、銀貨の価値を見直すことで政治的にルチェーレは勝利した、国中の者たちは、そう書簡に書かれてあることを知っているのだ。


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