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聖炎式の下準備④


「……六年前はソラ王子と同じくらいだったが、やはり成長を隠すことはできない。この通り……あぁ、ソラ王子、言うのを忘れていましたが、あと六日の聖炎式まで他言してはなりません」

 ぽんぽんとリラの頭に手を乗せるアマティが、気づいたように言った。ゆっくり顔を上げるリラを見ながら頷くソラ。それを見て笑みを浮かべたアマティが話を続ける。

「……ソラ王子は事情を知る一部の者たちと一緒に、ジェルード近郊に身を隠されていた。……幸い、六国の再建を希望する者たちとの取り決め通り争いごとも起こらず、リラはルチェーレで王子の代わりをしていたわけだ」

「あ、いや……アマティ。こうして並んで見ると……明らかに別人なんだが……その、リラが髪を切ったからというのもあるんだろうが……」

 フィオーレが困惑しながら話すと、全員の顔色をうかがいながらアマティがリラに視線を向けた。


「……気づいての通り、リラは女だ」

「いや、こんなちんちくりんが女なわけねぇだろ!」

 アマティの言葉を聞いてフィオーレが怒鳴った。

「何ですって! まだ十六なんだから仕方ないでしょ! これからなんだから!」

 立ち上がって怒鳴ったリラが、胸に手を当ててから腕を組んでフィオーレに顎を向ける。

「あ、いや、ちげぇ。女に影武者が務まるのかって……いや、務まったが……ああっ!」

 話の途中で何かを思い出したように頭を抱えるフィオーレをにやにやと見つめるアマティ。

「……それは……父たち補佐官も知っていたことなんですか?」

「もちろんセガノトは知っている。が、ソラ王子の影武者……リラが女、ということは知らない……」

 アマティは静かに聞いたリヴェールに嘘をついた。他にも気がかりなことがある。それに、聖炎式も終わっていないし、今言うことではない。そう思ったからだ。


「六年前のクリアミニ遠征時、ソラ王子に似ている子が見つかった。近隣六国の統一に、一番近かったルチェーレ王国の王子の代わりを用意しておこう。そして……」

「いや、分かんねぇよ。オレもクリアミニ遠征には同行していた。だが、身代わりとか聖炎式……この長剣もそうだ。オレたちが呼ばれたことも含めて、全然、分からねぇ」

 アマティの話の途中でソラがいることも忘れ、機嫌悪そうにテーブルをバンバンと叩くフィオーレ。

「……ぼくらの契約という命令も、あと六日で終わるのであれば、六年前……それ以前から考えられていたことが、その聖炎式から何かが変わる、ってことですよね?」

 腕を組んで考えていたリヴェールが、そう言ってアマティに視線を向けた。

「まぁ……聖炎式に意味はない。俺が勝手に作った儀式だ。リヴェールの言う通り義務は終わるが……ここイセタリブ大陸に存在した国の末裔……お前たちを含めた六人の者たちが、それぞれ村、ないし国を作るという新たな役割がある……」

「……次から次に訳の分からない話をしてるが、オレにはさっぱり分からねぇよ。リラって女がソラ王子の影武者をしてるって話が、どうして国を作れ、って話になるんだよ」

 そう言うと、両手を頭の後ろで組み、足を組んでだらしない格好をしたフィオーレがリラを見つめた。

「おい、フィオーレ、ソラ王子の前で……」

「あぁ、いいよステーロ。君たちも僕と同じ王子なんだからね」

 フィオーレの組んだ足に肘打ちをしたステーロに笑顔で話すソラ。


「……元々、このイセタリブ大陸には八つの国があったと記憶しています。どうして今更、それをまた六つの国に分けるんでしょうか?」

 リヴェールの言葉にやれやれと苦笑いしたアマティは、箱の中身を全て取り出すと、銀の鞘に収められた双剣をリラに、銀色の胸当てをソラの前に置く。

 王妃の補佐官をしている父セガノトの子であるリヴェールは、幼い頃から内務に関する英才教育を受けながら、自身も多くの古書を読み知識を得ていた。

 そんなリヴェールから疑問というよりは好奇な目を向けられていたアマティは、面倒そうに笑みを浮かべながら話を続ける。

「これらは六国の聖品だ。ルチェーレ国ソラ王子は銀の胸当て、ドレスト国フィオーレ王子は銀の長剣、スタナ国ステーロ王子は銀の小刀、リレ国リヴェール王子は銀のペン……ここに来ていないが、セルモド国アドバ王子は銀の盾。そしてクリアミニ王女リラは銀板……と双剣だ」

「建国するため、この計画を偽装……正当化するために、聖炎式をでっちあげる……」

 それらを見つめながら、口元に手を当てて考えていたリヴェールがぽつりと呟く。

「……?」

 静かに話を聞いていたが、何かに気づいた様子でリラの顔を見つめるソラ。

「このテーブルの上にある物は、それぞれ建国に必要な証、ということだよね?」

 ソラの視線に気づき、笑顔を向けたリラがアマティに話しかける。

「あぁ。一般的には国宝、みんなには遺品ということになる。最も、フィオーレとアバド以外は生まれてないだろうが……」

 面倒そうに話を聞いていたフィオーレが、アマティの話を聞きながら手にした長剣を見て首を傾げた。

 ……この匂いは……憶えがある……

 微かな甘い匂いが脳に響き、剣の匂いを嗅いでから部屋を見回すフィオーレ。


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