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偽る嘘はズルくない②


 オスタの勢いに押されたリラは、寝室に行きベッドの下を覗き込んでいる。椅子をどかし、テーブルの下に敷かれた赤いカーペットをめくり、大理石の床をぽんぽんと叩くオスタ。

 物音を立てないよう、静かに部屋の中を動き回る二人は、何かを探しているように見える。


 ☆ ☆ ☆


 まず、オスタは普通に二人で部屋を出て、廊下で待機する騎士に、王妃の部屋まで案内を頼もうと考えた。


「用件を聞かれると思うけど……」

 そう言ってオスタを見つめるリラ。

「影武者に就任? したから王妃に挨拶とかは?」


 影武者になるよう王妃から直々に命令があった。セガノトからの指示はあったが、八年間で王妃に面会したのはほんの数回。オスタに関しては、登用されたいきさつは不明だが、セガノトから通達があっただけらしい。自身のことをぼんやりと考えるリラ。

「……セガノトに頼むんならまだしも、王妃に直接ってのは、無理なんじゃないかな……」

 騎士にお願いをしたところで、連絡が行くのはセガノト。直接この部屋に連れてこられたのであれば、王妃に面会は無理だろう。


 リラの言葉に腕を組んで考えるオスタが、何かに気づいた様子で満面の笑みを浮かべた。

「あっ! ほら、さっきリラが入って来た秘密の通路は?」

「うーん……開けるのは外からだったんだよね。でも部屋へ入るときは内側から開けたし……とりあえず行ってみようか」

 オスタの提案に難しい顔をしたままのリラが書棚の方へ目をやると、オスタは嬉しそうに歩き、壁の下にある、出っ張った石を押す。

 ――カチャッ

 小さな音がしてから壁が少し開いた。ゆっくりと扉を開け中に入るリラとオスタ。


「えっと、さっきの男は何て名前だっけ?」

「ん? フィオーレのこと?」

「そう、フィオーレ。後は、アメティ? だっけ?」

「アマティだよ」

「アマティね。リラとセガノト様は覚えてるから、フィオーレとアマティ。うん、覚えた」

 小さな声で話しながら薄暗い通路を進む二人。


「……やっぱり目印の出っ張った石が無いから、ここは外からしか開かないようね」

「えぇ……」

 壁を調べるリラの言葉にがっかりした様子のオスタは、リラに押されて部屋へと戻って行った。


 部屋に戻ったリラは椅子に座ると、どうしてあの隠し通路があるのかを、書棚の方を見つめながら考えている。

 単純に考えれば、この部屋にいる人に会いに来るため。

 ――隠し通路を作ってまで?

 なかなか会えない、とか、人目をはばかってまで会いたい人。

「忙しい、とか、会うところを見られたくないとかバレたくない、とか?」

 口に手を当てながらオスタが言った。

「廊下に騎士が立ってるとか、いつも警備されてるから……手を出せない、とか……」

「手を出すって、逢引とか?」

「愛っ! ……まぁ、そうだろうけど……」

 顔を赤くしたリラに意地悪そうな視線を向けるオスタ。リラは少し勘違いされてるな、と「んんっ」と小さく咳払いをしてから話を続ける。

「……相手がいるなら、この部屋にもう一つ通路があると思うの。お互いが行き来できるように」

「あーっ、なるほど。……じゃぁ、どこかにあの石みたいな目印があるかも……」

「うん。で、それが見つからなかったら諦める、ってことでいい?」

「しょうがないよね。でも、そうなったら……フィオーレ? が迎えに来るまで、何か話をしてね!」


 ☆ ☆ ☆


 リラと話もしたかったが、やはり王妃とも話がしたい。そんなやりとりの後、くまなく部屋を探しているオスタ。

 中央にある、テーブルやソファ、書棚などが置かれた一番広い部屋。その奥に寝室があり、右側に浴室があった。

 

 中央の部屋を探すオスタと、寝室を探すリラ。


 寝室を調べ終えたリラは、壁を触りながら調べているオスタを見ている。

 寝ているときに何かがあれば、通路が寝室にある方が便利だが、見る限り目印になる様なものは無かった。ここは普通の屋敷を改装、増築して作った城。用心のため、隠し通路はいくらあっても不思議ではない。

 しかし、八年前から使っていたこの部屋。それより前は不明だが、特に改装工事は無かったはず。

 ぼんやりと考えていたリラは、ゆっくりと浴室に視線を移す。

「離れと、この部屋にだけ、お風呂があるのは偶然かなぁ……」

 そう呟いたリラは、腕を組んだまま浴室に向かうと、その様子を見たオスタも、リラの後について行った。


 扉を開けてすぐの小さな脱衣所。その横にある階段を見ながら慣れた手つきで中の扉を開けるリラ。

 大理石の上に置かれた銀製の浴槽。ごつごつとした壁の二階部分には小さな窓がいくつもあった。

「あっ……」

 先ほどオスタが使った浴室が、湯気でこもっているのを見て、少し口を尖らせたリラが脱衣所に戻り、横にある階段を上る。

 二階の扉を開け浴室に出ると、換気するための小さな窓を開け、浴槽の側に立つオスタに怒った表情を見せるリラ。

 怒ったリラを見て苦笑いするオスタ。


 毎日ではなかったが、八年もの間この浴槽を使っていた。勝手を知っている。

もちろん壁に仕掛けがあるとは考えたことは無かった。しかし、今は何かがあると分かっている。

 ……?

 左の奥の壁の下に平坦な面を見つけた。ゆっくりと歩いて行ったリラが、その面に触る。

 ――カタン

 手のひらほどの黒い板が落ち、穴が開いた。

 笑みを浮かべたリラが、後ろで様子をうかがっていたオスタと目を合わせる。

 その穴に手を入れたリラは壁を引いたが動かない。ならばと、ゆっくりと右側に押すと、ゆっくりと壁が動いた。

「……やった!」

 小さく喜ぶリラ。

「じゃぁ……」

「えっ、ちょっと待った!」

 リラは中に入ろうとするオスタを止めると、考える素振りを見せた。


 ☆ ☆ ☆


「ワタシが化粧してるところ、見たいだけじゃないの~?」

 テーブルの上に置いた銀の鏡に映るリラを見ながらオスタが言った。

「そ、それもあるけど……こういうことはキチンと準備してから始めないと」

 ……アマティの受け売りだけど……

 笑みを浮かべたリラが、オスタに早く化粧をするように急かす。

 溜息をついたオスタは、手際よく化粧を始めた。リラは目を丸くしてその様子を見ている。


 時折解説を入れるオスタの言葉に、リラは大きく頷きながら、十分足らずでオスタの化粧は終わった。リラは目を輝かせてオスタを見ている。

 そんなリラを横目に見ながら微笑むと、寝室まで行ったオスタは、窮屈そうに胸にコルセットを付け、白いシャツを着た。白いひらひらが胸元を隠す。

 ゆっくりとボタンを留めたオスタは、ゆったりとした黒いズボンを履くと、少し底が厚い茶色のブーツを履く。

 オスタは大きな姿見を見ながら背筋を伸ばすと、側で見ていたリラに「行ってくるよ」と小さく言った。

「うん、ボクはここに隠れてるから!」

 そう言って笑顔を向けるリラに微笑んだオスタは、ゆっくりと歩き、入口の扉を開ける。


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