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偽る嘘はズルくない①


 ソラの部屋に残されたリラは、中央のテーブルの前に置かれた椅子に座り、対面のソラを不機嫌そうに見ている。フィオーレが去ってからずっとこの調子で睨まれているソラは、二杯目のワインをコップに注いだ。


「で、あなたは誰なの?」

 しびれを切らしたリラがテーブルの上に肘を置きながら言った。

「リラ、どうしてそんな……」

「一応、コレ持ってるけど。使わないけどさ」

 ソラ(?)の話の途中で、リラが上着の中に手をやると、取り出した双剣をテーブルの上に置く。

「…………」

 口を開けたまま苦笑いするソラ(?)が、コップを両手で持って、ワインを一口飲んだ。

「……いつから?」

「ここに来たときからだよ」

 

 そういえば、部屋に入るとき不思議そうな顔をしていた……


 警戒した様子で部屋に入ってきたリラを思い出しているソラ(?)は、不思議そうにリラを見つめている。

 双剣を見ていたリラは、ソラ(?)の視線に気づくと小さく溜息をついた。

「何でって? あなたはソラと違う匂いがするの。甘いけど……無機質? そんな匂いだったから」

 また苦笑いしたソラ(?)は、背もたれを使い大きく背伸びをする。

 ここで大きな声を出し、廊下で待機する騎士に知らせてもよい。しかし、リラはともかく自身に疑念が向けられるかもしれない。指示されたとはいえ賛同した手前、失敗すれば誰も庇ってくれないはず。かといって、リラに戦いを挑んでも勝ち目はない。


「匂いは……気づかなかったな」 

 ぽつりと呟いたソラ(?)に、今までとは違う声を聞いたリラが目を丸くすると、少し考えた様子を見せた。

 ……来たばかりで何も分からないし、これはフェアじゃないよね……

 大きく頷いたリラは、テーブルの上に置いていた双剣を上着の中に入れる。

「一応、ボクは影武者の先輩なんだけどね」

 少し怒ったように言ったリラが腕を組んだ。

「……そっか。……ちょっと待ってて!」

 そう言って笑顔を見せたソラ(?)は席を立つと、隣の部屋にある浴室に入って行った。


 返事をする間もなく行ってしまったソラ(?)の背中に頷いたリラは、両手を伸ばし背伸びをしながらアマティの言葉が頭に浮かぶ。


 * * *


『リラ……これから変わろうとしていたルチェーレは変わらないままだ。……影武者は変わったが、これからルチェーレは変わろうとしているのか分からない。……だからお前は、もう少しズルく生きろ。そして自分を守れ』


 リラは深刻そうに話すアマティの意図は分からなかったが、自身が襲われたこと、ソラと話をして、きっと多くのことを考えながらステーロに頼み、夕食を少し豪華にしてくれたのだろう。そんなことを考え、もぐもぐと口を動かしながら小さく頷いた。

 ……ボクを守ることが、アマティやみんなのためになるんなら……

リラはアマティに何かを聞く雰囲気ではないと感じ、平静を装い食事を続けた。


 * * *


 ……ってアマティが言うから双剣持ってるけど、フィオーレと出かけてずるいなー。せっかくソラも帰って来たのに、また新しい影武者って。意外と似てるけどさ……


 自身が狙われている確証はない。アマティからは、当日ソラから聞いたセガノトについての話はあったが、出かけることは聞かされていなかったリラ。

 ……何か隠してるんだろうけど、このソラ(?)のこと知ってるのかな……

 椅子に座ったリラは、テーブルの上に置かれた黄葡萄をちょこちょこと食べながら考えている。

 ……何が分かればアマティは喜ぶのかなぁ……

 口を動かしながら腕を組むリラ。


「おまたせー。あ、ワタシも食べよーっと」

「……だ、誰っ?」

 聞覚えのない声に視線を向けたリラは、目を見開くと、呟くように聞いた。

「……ん? どしたの?」

 少し濡れた髪から落ちる水滴を気にする様子もなく、黄葡萄を口にしたソラ(?)が不思議そうにリラを見つめる。

 綿性の下着に負けないくらい柔らかそうな体つきは、誰が見ても女性そのものだ。

「…………」

 顔を赤くしたリラが自身の胸を見つめていることに気づき、意地悪そうな笑みを浮かべたソラ(?)は、リラの胸に触りながら口を開いた。

「ワタシはオスタ。リラと同じ、十六歳の女の子だよ」

「……えっ、ちょっと胸! って、えっ!」

 自身の胸を触られていること、同じ女性で同じ歳だったこと、それなのに体つきが違うこと、様々な思いが交錯し混乱した様子を見せるリラ。

「……よしよし」

 黄葡萄をつまみ口に入れたオスタは、その手でリラの頭を撫でる。

「もう!」

 立ち上がって大きな声を出したリラが、オスタの手を払おうとして、自身の口をふさぐ。その姿を見て笑みを浮かべるオスタ。

「……ボクは子どもじゃないの! 同い歳でしょ!」

 小さな声で言ってからオスタの手を取るリラ。その手を握り返すと笑顔を向けるオスタ。

「うん。だからよろしくね、リラ」

 調子が狂う、そんな不審な表情を浮かべながら「うん」と頷くリラが椅子に座った。

 笑顔のまま二つのコップにジュースを注いだオスタが隣に座りコップを手にする。

「じゃぁ、乾杯しよっか?」

 妙に馴れ馴れしいオスタに引きながらも、悪い子ではなさそうだと、溜息をついたリラがコップを持って「乾杯」と小さく言ってからオスタのコップに当てた。


 すぐにジュースを飲み干したオスタを見ながらジュースを飲むリラ。


 ゆっくりとジュースを飲み干したリラがコップを置くのを待ったように、オスタが口を開く。

「マンナリ様には会って無いけど、セガノト様は似てるって。さっきの男も気づかなかったし、いけると思ったんだけどなぁ」

「……ねぇ、さっきのソラの姿は化粧なの?」

「そうよ。匂いが無ければ分からなかった?」

「遠目で見ると分からないかもだけど……やっぱり背とか、体格でね……」


 影武者の先輩として、どうやってソラになり切っていたかオスタに説明するリラは、化粧の技術にも驚いていた。


「でも、化粧って肌とか、体に悪いって聞いたよ?」

「町で売ってるのはそうかもしれないけど、これは昔からの製法で作ってるものなの。ワタシも何年か使ってるけど肌はすべすべでしょ?」

 オスタの顔をまじまじと見ていたリラがオスタの頬を撫でて「うん」と言った。嬉しそうに目を閉じるオスタ。

「じゃぁ、見せてあげるね!」

 そう言ったオスタはベッドの側に行くと、ベッドの下から大きな革の袋を引っ張り出した。

 中から数本の瓶を手に持ち、リラの前のテーブルの上に並べる。

「これが下地のハチミツ。お湯で伸ばしてから肌に塗るの。で、これが染料ね。植物を煮だして乾燥させた粉。これに乾燥させた白金の粉を混ぜて塗るの」

 化粧をしたときは飲み物を飲まなければ、肌から毒などが吸収されることもない。瓶を手に取りながら説明するオスタの話を、リラは目を丸くして聞き入っている。

 ……ボクがもっと綺麗になればアマティも……

 何か言いたそうにオスタを見つめるリラ。その視線に気づいたオスタは、笑みを浮かべながらリラを見つめ返す。

「リラのことは聞いてるけど、もっとお互いのことを知るためには……」

 そう言いながら妖艶な笑みを浮かべるオスタを見て不思議そうに首を傾げるリラ。

「マンナリ様に会いに行こう!」

「……………………えええっ!……っ……っ!」

「だって、まだ会って無いし、本当にソラ王子と似てるか分からないでしょ? あぁ、ワタシはまだ王宮のこと分からないから、方法はリラが考えてね?」

 大きな声を出して自身の口を押えるリラを見つめながらオスタが言った。


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