王族の血統の意味を知る下準備②
何となく食事をする手を止めアマティを見つめる一同。リラだけは不思議そうに全員の顔を見ながら口を動かしている。
「……どうして王やオレが、お前らに建国しろと言うのか。それは、単純にイセタリブ大陸の繁栄を願っているだけだ。民がそれなりにでも幸せを持って生き、それが未来永劫、続く国を目指している」
いつもとは違い、真剣に話すアマティに驚きながらステーロが口を開く。
「そんなことをしなくても、ルチェーレにはこれだけの民がいる。それが全てでしょう。今更、六国に分ける意味は無いと思いますが?」
ルチェーレの王宮に仕える者たちは増え続けていた。数万人の騎士、内務官や料理人、メイドたちを合わせれば千人近く。加えて、ドレストにいる精鋭騎士団は十数万規模。
ジェルードで研究を重ねる技術者たちにも援助を行い、その結果を求め各地から商人が集まりそれを広めて行く。
そんな国策を続けていても、減り続ける人口と、頭打ちの技術力。加えて、三人の王家のための莫大な費用。表面上には潤っているように見えたが、国の予算はひっ迫していた。
そういった一連の国策の打開などを考えていたアマティは、ステーロの最もな話に何も言い返せず徐々にうつむくと、腕を組んで固まった。
「それに建国したところで、何をどうやって分けるんだよ。均等にできないだろ?」
追い打ちをかけるように言ったフィオーレが手を頭の後ろで組んで背伸びをすると、笑いながら足を組んだ。
やはり、若いコイツ等には今しか見えていない。
そんな事を考えながら、
ルチェーレが無くなったら――
そんな最悪の事態を想定した話をすることもできない。
王と王妃の対立であろう事柄から話し、それを過去に遡ってからそれぞれの出生のことも話さなければならないからだ。
様々な事実を知っていたアマティだったが、それを証明する銀板を持っておらず、それを真実のように語ることに抵抗を持っていた。王家に対する恩義もある。その他の者たちのことも考えなければならない。
アバドに言った手前もあったが、それらを隠すなら、自身の考えたことを一から説明しなければ話が進まないだろう。そう限界を感じて来たアマティは、フィオーレの言葉にも苦笑いするしかなかった。
そんな考えるアマティを見ながら頬杖をついたステーロが、アバドに視線を移す。
「アバドは住み慣れたルチェーレからセルモドに行って暮らせ、そう言われる民の気持ちを考えてるの?」
「考えてないわけではないですが……」
苦笑いするアバドを横目で見てから大きく溜息をついたアマティは、リヴェールを見て苦笑いすると、その視線に気づいたリヴェールが席を立った。
「……ぼくの見解ですが……。例えば、王が……そうでなくとも、王族や高貴族の方々が辺境に移り住めばどうでしょう? そして、ドレストに駐留してる騎士団をそれぞれ配分し、国の守りに就かせる」
リヴェールの言葉を聞いて、アマティは安心したように笑みを浮かべた。
笑みが消えたフィオーレとステーロは姿勢を正し、次の言葉を待っているかのようにリヴェールを見つめる。
「あ……さも可能なように話しましたが、もちろん実現は難しいと思います。……命令があれば別でしょうが、ルチェーレに離反されも困りますし……双方にとってメリットがありません。……今のところ、ですが」
そう言ってリヴェールはアマティの言葉を待った。期待して損をした、そんな笑みを浮かべながらワインを一口飲むフィオーレ。
リヴェールの視線に気づいたアマティはゆっくりと席を立つと、リヴェールは静かに椅子に座った。
「まぁ、その辺はオレが六年前に考えてたことだ。要は建国、民ないし、高貴族を移住させる大義、ないしシンボルを作るわけだが……ひとつがお前ら王子。そしてもうひとつが魔気を払い、加護を受けた聖品。それをでっちあげるための聖炎式なわけだ」
その様子を見ることなく考えていたフィオーレが、小さな声でリヴェールに聞く。
「その、高貴族ってのが国にいることで、何か得があるのか?」
「そうですね……。まず、高貴族は国に税金を納める必要がありません」
「だったら……」
鼻で笑うフィオーレに、手を差し出して話を止めたリヴェールが話を続ける。
「法に関しても多くの優遇される特権を持っています。だから国に縛られることなく自由に商売もできる。それらは全て王族の後ろ盾があるからこそ。
要は、寄付や献上という形で国にお金を入れなければ、一族廃止になりかねないってことですね。それに名を上げれば、という言い方は変ですが……集落、村もそうですが、国を作ることも可能ですから……」
リヴェールの話を聞いて、リラと話をしているアマティの顔を見つめるフィオーレ。ステーロも感心したように頷いていると、側に来たアバドも話に加わった。
「もともと王貴族と呼んでいたそうですが、反発もあったため、転じて高位の貴族から高貴族と呼ぶようになったそうです。
……アドレスト・フィオーレ、アスタナージ・ステーロ、アリレ・リヴェール……そして、アンセルモ・アバド。高貴族の自分たちが、聖品を使い建国する。……土地を捨てルチェーレに来た者たちは、自国の王がいたと分かれば戻ってくるかもしれませんね……」
「それを六年以上前から……」
そう言ってアマティを見つめたステーロは、リラに視線をやりワインを飲んだ。少し考えた様子を見せたフィオーレは、アバドの耳に口を近づけて話をしている。
笑みを浮かべながらリラの話を聞くアマティ。
「ねーねー、アマティ。その、高貴族って何なの?」
お腹がいっぱいになり目が覚めて来たリラが、そう言ってジュースを飲んだ。
この地域では昔から、ファーストネームに《A》がついていれば、誰よりも優れているから王家に入りやすい。と名前に固執する者たちがいた。
もともと王家は血統が第一であり、ファーストネームは国名、ないし近しい名前が使われていた。その遠縁にあたる者たちのうち、偶然にファーストネームが《A》がついた貴族が発端らしいが定かではない。
「つまり、大人の事情ってヤツだよ」
「また、大人の事情……」
アマティの話を聞いて不満そうな顔を見せていたリラは、昨日の王妃と会ったときのことを思い出した様子で扉の方を見つめた。