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嫌悪が芽生える下準備③

* * *


「おい止まれ! どうやってここに……オルトベラ王!? き、貴様!」

 本陣営のテントの前に立つ騎士の一人が怒鳴った。騒ぎを聞きつけた騎士たちが集まり、馬上のアマティに剣や槍を向ける。

「どうした、何の騒ぎだ……」

「セガノト様! オルトベラ王がこの者に!」

 テントの中から顔を出した紫色のローブを着た男をセガノトと呼ぶ騎士。

 ……オルトベラ王……。あれはルチェーレの王だったか。そして、このセガノトと言う男がここの参謀……

 アマティは、馬上から無言のまま様子をうかがっている。

 オルトベラ王に視線を移したセガノトは、一瞬、目を見開いたが、平静を装いアマティに話しかけた。

「……貴様の名と、状況を説明しろ。対応はそれからだ」

 それを聞いて馬から降りたアマティは、咥えていた炭をローブに入れ、レハールを馬から降ろしその場に寝かせると、口の炭を取りローブの中から取り出した二枚の銀板と薬をセガノトに見せる。

「オレはアマティ。まずはこれで王の治療を。すぐに足りなくなると思う。薬の作り方はこの銀板に書かれてある通り調合してくれ」

 セガノトは目を細めながら銀板を読んだ。「どちらも差異はない」そう付け加えたアマティの言葉に少し考えた後、その薬と銀板を受け取り、もう一枚の銀板を読んでから騎士に声をかけた。

「……この土地にいる全ての医術者を呼べ。まずは王の治療が先だ」

「はっ!」

 返事をした騎士たちは、すぐに王をテントの中に運んだ。数名の騎士たちは馬に乗ってどこかへ駆けて行った。

「それと、王と一緒にいた騎士を連れて戻りたい。今、オレの連れが診ている。黄葡萄の花粉のことは知っているだろう? 事態は一刻を争う。状況の説明はそれからしたいのだが?」

 ……武器を持っているわけでもなく……このみすぼらしい姿……

 赤く染まったボロボロのローブを着たアマティを、目を細めながら舐めるように見つめるセガノト。

「分かった。フィオーレの救助を依頼する。帰還の後、詳細を聞こう」

「あぁ……だが、お互い知らぬ者同士。できれば交渉、といこうぜ」

 そう言って笑みを浮かべたアマティは、すぐに馬に乗り炭を咥えると、黄葡萄の森へ入って行った。

 ……黄葡萄の扱いにも長けていそうだが医術者か? それにヤツが差し出した銀板は何だ? ……いずれにしても相当、頭が切れそうだな……

 アマティの姿を見送ったセガノトは、足元に落ちていた炭を拾い上げると、テントの中に入って行った。


「リラ! 大丈夫か?!」

 小川の前で止まったアマティが、咥えていた炭を投げ捨てリラに声をかけた。

 寝かせたフィオーレに膝枕をしながら口移しでワインを飲ませていたリラが頷く。

「お、お父さんは!?」

「あぁ……治療は頼んでいるが……」

 うつむくアマティを察し、寂しそうに微笑むリラ。

「うん。あのおじさんはダメだった。この人もダメかもしれないけど、解毒できるかなと思って……」

「そうか……。この人は、ルチェーレ国のオルトベラ王、らしい……」

 そう言いながらオルトベラ王がかぶっていた銀の兜を取るアマティ。

「……お父さんに似てるかも……」

 フィオーレをその場に寝かせ、側に来たリラが言った。

「あぁ。あちらさんたちもそう言っていた。だから、恐らくは大丈夫と思うが……?」

 そう話していたアマティは、兜上部の裏に貼りついていたものに気づく。

「リラ、ここから発つ。小屋の中の薬を持ってきてくれ」

「は、はいっ」

 真剣な目をしたアマティにつられ、力を入れて返事をしたリラが小屋に向かって駆けて行った。

 ……これは銀板?

《高貴族におけるファーストネームAの優遇を廃止 (アイ)・ルチェーレ・オルトベラ》

 国印も押されている。間違いないなくオルトベラ王が作ったものだ……

 兜の上部から取り出した銀板を見つめるアマティ。

 ……I……イセタリブの王として……

 ゆっくりと兜を置いたアマティは、オルトベラ王が着ていた銀の鎧を脱がせ、同じように鎧の裏を見る。

 ……やはり……

 銀糸をほどき、手にした十数枚の銀板に目を通すアマティ。

 自身が持っていた黄葡萄に関するもの、私記や伝承、様々な銀板があるなか、最後の一枚を見て脱力感を覚えた。

《八国の王は処刑し、残された王妃たちは我が子を宿し五国の王として建国す I・ルチェーレ・オルトベラ》


 * * *


 開戦のきっかけは不明。何かしらの原因があり、オルトベラ王は各国の王妃の身請けを条件に降伏を勧告した。それに従わない国を侵攻。権威を示すため敗戦国の王を処刑し、領地を拡大。残った王妃たちは自身の子を産ませるため妃にする。

 その間にも送っていた多くの使者が、帰還しないことに痺れを切らせたオルトベラ王は、クリアミニへ侵攻しようとした――。

 自身の記憶を整理しながら口を動かしていたアマティがパンを飲み込んだ。コップを掴み、王妃を見つめながらワインを口にする。

 ……銀板に書かれた黄葡萄、医術についてもそうだったように、戦記や私記についても事実だろう。自身の子だからとルチェーレに呼び育てた。……育てさせた、か。一応、筋は通る……が、ソラ王子がいる。万が一に備え(リラ)を準備したのは分かるが……

 オルトベラ王の代わりにレハールを立てるという国秘を知るものはここにいる三人。それから王子に対しても影を立てることを決めた。

 知識や技術の提供をしてきたのは、リラのことも含めレハールを助けようと必死だったから。

 アマティはそれで清算したと思っていたが、王妃とセガノトには何かしらの企みがあったのだろう、そう感じていた。

 あれから二度、レハールと会っていたが、話をすることはなく寝ている姿を見ていただけ。

「……銀板はどこに……」

 左手をこめかみに触れ、それらを考えていたアマティは、頭に引っかかっていたことを思い出し、セガノトを見つめながらぽつりと呟いた。

「あれから城内を探させましたが、銀板らしきものは見つかりませんでした。とすると、すでに城外、国外へ持ち出されたか……」

 王妃の話を聞き流していたアマティが腕を組む。

 ……そう、あのとき、二枚の銀板を渡したはず。

 先ほど呟いたのは、アマティがセガノトに渡した銀板のこと。

 一枚は延命の書。無くした銀板だ。そしてもう一枚は治癒の書。黄葡萄の効果について書かれていたもので、書簡にしたものを料理書と医術書として残してある。この銀板も無くなっていることに気づいたアマティだったが、それを聞けるような雰囲気ではない。


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