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疑惑に触れる下準備④

「なるほど。自分を見つけた者がリラと結婚できる、というわけですね。……しかし、愛し合う者同士、一緒になる邪魔をすることに何のメリットがあるんでしょう?」

 アマティの話を聞き終わり、食器を銀のカートに片づけているリラを見ながら話すアバド。

「そんなの知らないよー。ボクはアマティと結婚するって言ってるのにさー。……でも、最初にアバド見つけたし……」

 ぶしつけにアバドに話していたリラが、また不敵な笑みを浮かべてアマティを見つめた。

「……アバドの方から来たからなぁ。他のヤツらと話をしなきゃ揉めるだろう、これは」

「ちぇーっ」

 悔しがるリラを見つめていたアバドは、リラの手にしていた黒い鏡に視線をやり、アマティに話しかける。

「それについてはすみませんでした。それで……自分がここに来た用件ですが……マンナリ様が、今後のことで是非アマティと話を、と……」

 そう言いながらアマティに鋭い視線を向けるアバド。

 ……今後……式が終わってからの……

 リラに視線を向けながら考えるアマティは、アバドの言うことを理解したように口を開く。

「王妃は……新たな銀板を見つけられたのか?」

「いえ、……自分からは渡していませんので恐らくは……」

 一瞬、目を逸らしながら話すアバドに違和感を覚えたが、アマティは話を続ける。

「……そうか。王とソラ王子はご一緒に?」

「……アマティと二人で会う、とのことです」

 ……オレと二人。猶予はもう無い、か……

 王宮に入って八年あまり。出国できなくなったのもあるが、王妃からの交換条件ともいえる銀板を手にしていなかったアマティは肩を落とした。

 少し考えるアマティを見ていたアバドは、食器を片付けているリラがテーブルの上に置いた黒い鏡に気づく。

 それをしばらく見ていると、食器を片付け終わり、椅子に座ったリラと目が合い、目を逸らしてアマティの方を向いて話しかける。

「……自分は建国する気もなく、このままルチェーレに仕えようと思っています。土地の整備ができない以上、聖品があってもまた同じことを繰り返すと思いますから」

 アバドは王妃やセガノトの指示で国外を回り、ある程度のことを知っている。で、あればその話を聞いてのことだろう。

 その上で王妃は会いたいと言い、アバドは進んで建国する気は無くなった。

 そう考えていたアマティは顎を触りながら笑みを浮かべる。

「……土地については早い者勝ち、もしくは、リラと結婚したらアマティが何かしら優遇してくれるのなら、自分も求婚させてもらいますが」

 笑みを浮かべるアマティに、そう付け加えたアバドが申し訳なさそうに笑う。

「アバドもとりあえず、って言うんでしょ。私よりいい人なんてたくさんいるのにさー」

 そう言って黒い鏡を手にすると、自身の顔を眺めるリラ。

「……オレはお前らの国もルチェーレも二の次だ。王とリラがいるからここにいる。それすらもオレの都合だが……イセタリブ大陸に住む人々を思うのなら、それは使命だ。もちろん王になるための手助けはするが……」

 結婚の手伝いとなると、そんな目でリラを見つめるアマティの考えることが、何となく分かったアバドは笑みを浮かべた。


『王子のことも心配だが、王が望む世になってからだ』

 

 昔に聞いたアマティの言葉を思い出していたアバドは、その考えに賛同し、貴重な情報を話し合うほどの仲。

 女性がソラの影武者だったことも、その結婚の約束なども、何か事情があってのことだとすぐに理解した。

「……王は変わらず、か?」

考えを見抜かれているのだろうと苦笑いするアマティは、リラを横目で見るとアバドの耳元で囁く。

「……未だに生死については分かりません。指示は王妃ではなく、全てセガノト様からですが……」

 アバドはリラに背を向けながら小さな声で答えた。

 分かってる、そう口にすることはなく、小さく頷いて手を出し、アバドの話を止めるアマティ。

二人のやり取りを見つめ、溜息をついたリラはテーブルに肘をついて目を閉じる。

「……王妃には、ここでお待ちすると伝えてくれ。あぁ、あとついでにこのカートをステーロに。食堂にいると思うからよろしく頼む」

「……分かりました。……ところで、ここにいるのはアマティひとり、ですか?」

 銀色のカートの上に乗った食器を直し、リラを見ながら話すアバド。

「……誰かが寝てても気づかなきゃ、ひとりだろ?」

「……分かりました。自分は、聞いていませんので……」

 笑みを浮かべながら話すアマティに、溜息をついたアバドは、銀色のカートを押して部屋を出て行った。



 しばらくの間、食堂で黒い板について考えを巡らせていたが、見当がつかずぼんやりと背もたれに寄りかかり天井を眺めるフィオーレ。ステーロは片肘をつき、リヴェールは腕を組んで黒い板を眺めている。

 頭をかきながらテーブルの上に置かれたワイン樽に手を伸ばしたフィオーレは空になっていたことに気づく。

「……もう一つ追加するか?」

 このまま話が進まないし、今日のところは解散するか? そんな面倒そうな目をしたフィオーレが言った。

 リヴェールの顔を見てからフィオーレを見たステーロが何かに気づき目を見開くと、すぐに立ち上がって手を伸ばす。

「つ、捕まえた! 俺が一番にアバドを捕まえたぞ!」

「「えっ!?」」

 大きな声を出したステーロに驚いて振り返るリヴェールと、顔を上げるフィオーレ。

「……それについてはすみません。自分、先ほど王妃の使いでアマティのところに行ったのですが、先にリラに捕まりました……」

 ワイン樽をテーブルに置きながら苦笑いするアバド。

「えぇ~……何だよ……。アバド! お前はどこに行ってたんだよ!」

 力なく座ったステーロが、目を細めてアバドを見る。

「危っぶねぇなぁ、おい。まぁ、こうしてワインも追加したんなら、話をしてもらわなきゃぁな。……その、アマティと王妃は何を話したのか、をな」

 アバドと肩を組んで話していたフィオーレは、強引に座らせコップにワインを注いだ。それを手にしたアバドはワインを一口飲むと、ステーロとリヴェールの顔も見ながらテーブルの上にコップを置いた。


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