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運命の出会い


学園復帰一日目、私はひとのやさしさを知りました。



というわけで皆さま、ごきげんいかが?

私はとても元気でございます。

久々に登校した私をクラスメイトのみんなは暖かく迎え入れてくれた。おそらく、噂のせいで私が落ち込んでいると思っていたからだろう。


ちなみに、私に手紙で学園の様子を知らせてくれた友人は、みんなに優しくされて戸惑う私をみて笑っていました。本当に趣味がお悪いことで。


「ごめんごめん!だってあんな困った顔のイヴみるの初めてだったもん」


「だからって、あんなに声をあげて笑うことはないでしょう?はしたないわ」


彼女はミモザ・アクリム。我が家御用達の商人の娘で、幼い頃からの私の友人でもある。口は悪いが服やメイクのセンスはピカイチだったりする。

私は今、そんな彼女と一緒に昼食を食べている。


「いやー、イヴはお上品になったものだねえ。昔はよくダリアさんに言葉が汚いって怒られてたっていうのに。今じゃ叱る側だよ」


「私がダリアに叱られていたのは、あなたが私に汚い言葉を教えたからでしょう?私は生まれつき淑女よ」


そう。彼女のせいで、幼い私は散々ダリアに叱られたのだ。今じゃ上手いこと誤魔化せるようになったけど、それでも頭の中で考え事をするときはどうしても令嬢らしくない言葉遣いになってしまうのだ。


「えー、それはないよ!イヴは私がいなくてもお淑やかとはほど遠い女の子だったよ」


彼女は私の抗議を笑い飛ばした。自身の言動を省みる気は全くないらしい。



「にしても災難だったねえ。あの坊ちゃんがここまでおバカだったとは」


「ここでする話じゃないわ。それに、馬鹿なんて言っては失礼よ」


学園の食堂にはたくさんの人がいるのだ。万に一つ、元婚約者の耳に入ってしまえば面倒くさいことになるのは確実だ。


「失礼って、ただの事実じゃん。まぁワタクシは淑女なので口を慎みますわよ」


「馬鹿にしているのかしら?」


「違う違う!睨まないでよ、美人に睨まれるのは怖いんだから。ってそうだ、イヴってば次のお相手探してるんでしょ?あそこにイヴ好みの美人さんがいるよ」


「次の婚約者は絶対に顔では選ばないわ。顔が良いだけじゃ何の役にも立たないって前回で学んだもの」


本当に、顔が良いだけじゃクソの役にも立たない。次のお相手はできればもっとこう、性格重視でいきたいと思う。能力は私が補うので。お金を持ってるのが第一条件だけど。


「それってイヴもやっぱり前の人は顔だけの馬鹿だって思ってたってことじゃないの?それに比べて、あの人は結構良いと思うけどなあ。容姿端麗、文武両道。家柄まで良いときた!欠点らしい欠点といえば」


「女遊びが激しい、とか?」


「なーんだ、知ってたの?」


そりゃ、聞いたことぐらいはある。

先ほどから彼女が言っているあの人、というのはナーバン公爵家の次男坊のことだろう。直接話したことも、顔を見たこともないけれど、噂は嫌になる程流れてくる。たしか、


「貴族から庶民まで、国内から国外まで、ありとあらゆる女性と経験があるとお噂のお方でしょう?」


「そうそう!いや、まさかイヴが知ってるなんてね。あなたの元婚約者、すぐ浮気を疑うもんだから、イヴってばここ数年まともに異性と会話してなかったじゃん?」


そう。あの人は自分は浮気するくせに婚約者のことははちゃめちゃに束縛するクソ野郎だったのだ。やっぱり別れてよかったかもしれない。


「ええ。だから話したことはないわよ?それでも噂は流れてくるものだから。というか、あまりこういう話をするべきではないと思うわ。失礼だもの」


所詮、噂は噂だ。私が婚約破棄騒動後仕方なく学園を休んでいたのはショックを受けていたからだ、なんて言われていたように、根も葉もないものである可能性も高い。


「それはそうだけどねえ。あれは絶対経験豊富だって」


「いい加減にしなさいな」


「はいはい」


















ってな感じで時は流れ、放課後の今。

私は忘れ物を取りに教室へ向かっている。ちなみに一人だ。

元婚約者様みたいに、護衛はいない。

というか、いる方がおかしいんだけど。この学園内で大きな事件が起こることはほぼないため、基本、護衛をつけているのは王族か見栄っ張りのみだ。



「にしても、よりにもよって寮に帰ってから気づくとか……」


誰もいない教室までの道は、いくら淑女らしくない言葉で独り言を呟こうと、咎められることがないので気楽だ。


無駄に長い廊下を歩いていると、前方から人が歩いてくるのが見えた。


「って、ナーバン公爵家の次男様じゃん」


彼と目が合った。

もしかして、ぼそっと呟いたのが聞こえてしまったのだろうか。ペコリと頭を下げれば、彼も会釈を返してきた。

どうやら、私の呟きを咎めるつもりは特にないらしく、彼はそのまま私の隣を素通りしていった。







って、何あれ。

容姿端麗、というのは噂で聞いていたけれど、あれは見目が良いとかいう問題じゃないと思う。なんでナーバン公爵家の人間はあれを自由に歩かせてるの?大事なものはちゃんとしまっとかなきゃいけないでしょ!?


少し癖のある黒髪は艶めき、長いまつ毛に縁取られた猫のようなネオンピンクの瞳は美しく煌めいて、あれはもう至高の芸術品である。

お人形さんみたいっていうのは、ああいうもののことを言うのだろう。それに顔だけじゃなくスタイルまで完璧だった。

あれで勉強も運動もできるとなれば、さぞモテるだろう。そりゃあ女遊びの一つやふたつ、したくなるかもしれない。そうじゃなきゃあんな美貌を持った人に婚約者がいないなんておかしい。



ああいう人間のことを、世の中ではなんと言うのだったか。

そうだ、魔性だ。一目見ただけの人間をここまで惹きつける、あれは魔性の美貌だ。



もしもあの人と、一夏、いや、一晩だけでいいから過ごすことができたら。きっと一生の思い出になるだろう。その思い出があれば、私は誰に嫁いでも、何をすることになっても幸せに生きていける気がする。


どうせ私は元々婚約者がいた身。過去の人が一人増えたところで、そんなことを気にする人は何もなくても私と婚約してくれないだろう。

私は生涯の思い出づくりを決意した。

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