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プロローグ1


この世に生まれ落ちてから16年と8ヶ月。私は今日、人生の終わりを迎えそうです。


私はイベリス・イーヴィ・アルメリア。ローズマリア学園一年生。由緒正しきアルメリア伯爵家の長女であり、お父様がどこからか持ってきた縁談によって結ばれた、幼い頃からの婚約者がいる。

そしていま、私の目の前で足を組んで偉そうにしているお方はアルディア・ギムレット・オルドース。私と同じくローズマリア学園一年生。お察しの通り、私の婚約者だ。



「イベリス嬢。私はいまここで、あなたに婚約破棄を申し入れる!」


「はい?」


「私は、今、あなたに!婚約破棄を申し入れる!」




まぁなんて聞き取りやすい発音なのかしら。


いやいやいや、ちょっと待ってほしい。

私は今日、いつも通り学園に行き、授業を受け、カップルがいちゃついてるのを横目に見ながら友人と昼食を食べ、寮に帰ってきたはず。何もおかしなことはない。悪いこともしていない。

ならなんで、私は婚約者の部屋に呼び出され、婚約破棄の申し入れをされているのかしら。ワタクシ、よくわからないわ。


「あなたの言動は将来のオルドース伯爵夫人として目に余るものばかり。見目の良さだけで生きていけるほど、世の中は甘くない!」


「はぁ……」


「なんだその心当たりがないとでも言うような顔は!お前は散々ロベリアをいじめただろう!時には階段から突き落とし、時には足を引っ掛けて転ばせ、時には昼食のスープに生きたカエルを混ぜた。私は全て知っているんだ、今更とぼけても無駄だぞ」



え、怖。スープにカエルって、えぇ。私はそんなことしていないので、他の誰かがやったか、デマかの二択だけど。どちらにせよ、スープに生きたカエルを入れることを思いつく人間、怖すぎる。怖いっていうか気持ち悪い。カエルはナマで食べられるものじゃないですよね。せめて加熱処理を。


「申し訳ありませんが、本当に心当たりが」


「嘘をつくな!ロベリアは泣きながら私に相談してきたんだ」



多分嘘泣きですよ。とは流石に言えない。

我が婚約者様が先ほどから何度も口に出しているロベリアというのは、ミルタル子爵家のご令嬢だと思われる。彼女はちょーっと性格がよろしくなくて、いろんな婚約者持ちの殿方を引っ掛けていると聞いたことがある。

その時はまさか、自分が被害に遭うなんて思わなかったけど。


「とにかくそれで、えーと、婚約破棄をなさりたいんですよね?考え直したりなんてことは……」


「絶対にない」



まずい、とてもまずい。

もちろんこのお馬鹿さんとお別れできるのはこれ以上ないくらいの幸せだけれど、この婚約が破棄されたら私は別の殿方に嫁がなければならない。



こういう感じの馬鹿な男と結婚するぐらいならもう一生結婚しないで済ましたいところだけれど、そんなわけにはいかない。

我が家は先代当主がお金を無駄遣いしまくったせいで、余裕がないのだ。没落も現実的なレベルで。

私がお金をたくさん持っている人と結婚して、家にたくさんのお金を流さなければ。

この婚約だって、結婚後お相手が我が家に多額の支援をすることを前提としたものなのだ。



もしこの婚約が破棄された場合、私の次のお相手の条件はお金持ちであること、ただそれだけを考えなくちゃいけないだろう。

お相手の性格に難がある程度ならやさしいもので、実は法律スレスレの悪どい商売をしているなんてのも全然ありえる。

そんなのと結婚して、犯罪の片棒を担ぐなんてごめんこうむりたい。

それよりは、このちょっとお馬鹿な人と形式上だけでも夫婦でいる方がよっぽどいいはず。



とにかく私は私の将来を守るために、ここで婚約破棄されるわけにはいかないのだ。もし婚約が破棄されれば、私の人生は終わったも同然なのである。



「アルディア様。お伺いしたいことがございます」


「なんだ。今更言い訳しても無駄だぞ!」


「ミルタル子爵令嬢の告発以外に、私が彼女をいじめたという証拠はあるのですか?もし彼女の言葉だけを鵜呑みしているのであれば、この婚約破棄は到底受け入れられるものではありません」


「お前はロベリアの言うことを疑えと言うのか?他に証拠などいらない。彼女の証言だけで十分だ」



どうやら他に証拠はないらしい。

それなのにこんなに信じ込んで、なんて馬鹿な人なのだろうか。いや、私があまりにも信頼されていないだけかもしれない。


「なりません。一人の言うことだけを鵜呑みにするのは危険です。せめて彼女の周りのものに調査を入れるべきです」



というか、さっきからなんでこの人は令嬢を呼び捨てにしているのだろう。もしかして、もしかするのかな。だとしたら本気で婚約破棄したい。いやしたら困るんだけど。



「私の愛しいロベリアを傷つけておいて、よくもまぁそのような口が利けるものだ。もういい、話し合いの余地はない。第一、たとえお前がこのことに関与していなかったとしても婚約破棄は時間の問題だったのだからな」



私は耳を疑った。

この人はいま、私の、っておっしゃいました。愛しい、って言いました。なるほど、なるほど。

今まで私がどれだけ嫌味を言われても、庇ってくれたことなんて一度もないのに。それを彼女の場合はねえ。てことはもしかしちゃったわけですか。ふーん。

っていやいや、それより気にするべきことがある。

婚約破棄は時間の問題だったというのはどういうことだろう。


私が質問するより先に、彼は口を開いた。


「お前には学がない。お前には将来、領地の仕事どころか、家のことすら任せることができない」


家のことはともかく領地の仕事は自分でするべきなのではないですか。

ほら、部屋の扉近くに佇むあなたの護衛騎士もなんとも言えない顔をしていますよ。

というか、学がないというのは、私のクラスについておっしゃっているのかしら?



私たちが通っている王国立ローズマリア学園には、大きく分けてクラスが二種類ある。一学年に二クラスだけしかない特進クラスと、そうでないクラスだ。

そして私と今目の前にいる彼は後者で、件の彼女は前者に所属している。


「私には学がないとおっしゃいますが、特進クラスでなくとも一般的な教養は学べます」


「だが、お前は特進クラスではないことを言い訳に、勉学に身を入れていないだろう。私が言いたいのは単純な学力の話だけではない。お前は勉学との向き合い方にも問題がある」


「それはアルディア様の勘違いです。私は確かに勉学のみに励んでいるわけではございません。しかしそれは勉学よりも未来の伯爵夫人としての教養を身につけることを優先するようにと、あなたのお母様がおっしゃったからです。私は決して、勉学に対して怠けた気持ちで向き合っているわけではありません」


伯爵夫人としては、何も学があるだけではいけない。領地のこと、使用人のこと。気品ある振る舞い。学園で机に座るだけで学べること以外で、学ぶべきことがたくさんある。だから、勉強に割ける時間が削られただけのこと。幼い頃からの婚約者がいる令嬢にはよくある話だ。


「相変わらず、言い訳だけは得意なんだな」


「言い訳ではありません。事実です」


「お前は本当に可愛げがないな!それに比べてロベリアは良い。彼女こそ未来の伯爵夫人に相応しい」


先ほどから自分の耳を疑ってばかりで、耳が可哀想に思えてきた。



「もしかしてアルディア様は、私と婚約を破棄した後、彼女を新しい婚約者にするおつもりですか」


「あぁそうだ!お前とは違って彼女は可愛らしく、学もある。お前みたいに、罪を認めず無様に縋り付いたりもしない!」


私に可愛げがないのも、無様に縋り付いているのも本当のことなので何も言えないのが悔しい。ハンカチを噛み締めたい思いだ。


「彼女は子爵令嬢とはいえども、庶子です。由緒正しき伯爵家に嫁ぐのは荷が重いはず。せめて、愛妾に留めておくべきです」


「そこまでして次期伯爵夫人の座が欲しいのか。なんと強欲な女だ。彼女は私のために頑張ると言ってくれた。それに、すでに父上から許可はもらっている」


どうやら、かなり戦況は不利らしい。いや、不利なのは最初から分かっていたことだけど。


家系の古さと権力の大きさは比例する。家の歴史が深ければ深いほど、昔から王家に仕えてきたということだからだ。

アルメリア伯爵家は、オルドース伯爵家よりも古い家系だ。

つまり、こちらの方が権力が大きい。

本来なら、もし向こうから正式に婚約破棄を申し入れられても、こちらは頷く必要はない。

しかし、この婚約の経緯を考えると、そんな甘い考えは通用しないだろう。十中八九、こちらは破棄を断れない。

金がなければ生きていけないが、歴史はなくとも生きていけるのだから。



そして今、不利どころか、王手をかけられている気がする。


しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。どうにかして婚約破棄を食い止めないと!

頑張れイベリス。あなたはできる子よ!















翌日、アルディア様は私の元婚約者となりました。


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