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転生ものに飽きたけど推し兄弟の間に転生しました。  作者: 海人ハナ
第2話『ルノア・オークス』
6/18

③噂

 太陽光で自然に目が覚めた。なんだか圧迫感があって苦しい。


 目を開けると、視界の端に赤い髪と紫がかった黒髪が見えた。


 しばらく思考の回らない頭でそれがなにか考えた。そしてそれがなにであるか思い出すとガバッと起きあがった。否、起きようとした。


 くっ…身体が動かない!


 ルノアの動作はベッドを揺らしただけだった。目線を下に動かすと胸元に腕が左からからみついていた。


 おいぃぃぃ!お前か!


 ルノアは首を動かして元凶であるグロウをにらみつけた。その視線を感じたのか、グロウが目を覚ました。


「ん…起きたのか、ルノア」


 グロウはかすれた声を出した同じ唇でルノアの額にキスをした。真っ赤になり体温が急上昇するルノアだが、グロウはなにごともなかったかのように二度寝してしまった。


 早くここから逃げなくては…!


 身体を動かそうとしたルノアは胸元だけでなく右手にも違和感を覚えた。再び視線を下に動かすと手が握られていて、それはメロウにつながっていた。


 ツンケンとしたメロウが一晩中握っていてくれたと思うと、なんだかこころが温かくなった。


 ルノアが動いたせいで目が覚めたのか、メロウは目をつむったまま深呼吸した。


「………いい匂い」


 メロウがルノアにすり寄った。メロウの鼻が髪の毛ごしに首筋を刺激した。


「ちょっと…!」


 暖かくなった心は今にも大爆発しそうだった。


 たしかに昨日、ルノア・オークスとして生きることを決めた。そしてそれはグロウの妹として、メロウの姉として生きることだ。


 だとしても昨日の今日。一昨日まで二人はアプリゲームの中の存在だった。急には受け入れられない。


 それを抜きにしたって姉(妹)として受け入れられない。


「起きて―――!!」


 これ、一夜を共にした男女がやるやつ。


















 開店準備は父とグロウにまかせ、ルノアは母につきそわれ警察署に出向いた。


 昨日のことを説明すると、男の子たちは強盗も誘拐も強姦も未遂なので数日拘束したのち釈放されると警察官が教えてくれた。


 母はルノアが昨日を思い出すことで恐がってしまうのではないかちと終始心配していたが、取り乱すことなく警察署をあとにした。


「洗濯物、メロウにまかせたけど大丈夫だったかしら」


「母さん、ルノア」


 噂をしているところに後ろからメロウが現れた。頭から肩まですっぽり入ってしまうほど大きなカゴを抱えている。


「洗濯物いっぱいあって大変だったでしょう」


「べつに平気だよ。でも父さんと兄さんにまかせなくてよかったね」


 たしかに。あの二人はゴシゴシこすって破きそうだ。


 庶民の洗濯は朝、街の外れに数ヶ所ある共同洗濯場で行う。庭付きの家に住んでいる貴族ならともかく、庶民は洗濯場に洗濯物を持ちより、井戸水を汲みあげ、石鹸で洗ったのち干してそれぞれの家に帰る。そして日が落ちる前に乾いた洗濯物を持って帰るという生活様式だ。


 三人で店兼自宅へむかう。その道中、ルノアは母をあいだに挟んでメロウと目が合った。なにかと首をかしげるもメロウはルノアをじっと見つめるだけだった。


「どうしたの?」


「…大丈夫だった?」


「メロウも心配してくれるの?大丈夫よ、昨日のことはもう恐くないから。お母さんもさっき…」


「そっちじゃなくて、いや、そっちも心配だけど…」


 メロウは口ごもると、なんでもない、と前をむいてしまった。


 ルノアはまた井戸から水を汲みあげるイメージで一生懸命思い出した。


 メロウは女の子のように可愛いが、中身は意外と男らしくて歯に衣着せぬ物言いをする。そんな彼が口に出せないなんて、なにを心配しているのだろう。


 店の付近まで来たときだった。


「いなかったわねえ、ルノアちゃん」


「やっぱり…」


「でもほら、まだ洗濯に行ってるかもしれないわよ」


 店から三人の中年女性たちが出てきた。ルノアは自分の名前に反応し、用があるのかとかけよった。なぜか焦ったのはメロウだった。


「おはようございます。なにかご用ですか?」


「ルノアちゃん!?」


 中年女性たちはルノアの話をしていたにもかかわらず、いざルノアが姿を現すと動揺した。


「いや、用ってほどでもないんだけど…」


「その…元気そうね?」


 そういえば、昨日は具合が悪いということで一日休んでいたのを思い出した。


「すみません、昨日のことでご迷惑を…」


 話をしている途中なのに、中年女性たちはひそひそと話しはじめた。


「えーっと…」


「つらいでしょうけど、同じ女として力になるからね」


「ソレを含めてつつみこんでくれる男性がきっと出てくるわよ」


「大丈夫、人生悲しいことばかりじゃないわ」


 中年女性たちはなぜかルノアにエールを送り去っていった。


「なんだろう」


「なにかしらねえ」


「………」


 よくわからないが、店のドアノブに手をかけた。


「あのさ…!」

ちなみに、メロウはルノアが心配で警察署帰りに会いたかったので洗濯物はしわも伸ばさず干しちゃいました。

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