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転生ものに飽きたけど推し兄弟の間に転生しました。  作者: 海人ハナ
第2話『ルノア・オークス』
4/18

①夜の街

「ルノア、ごめんって」


 私は居間の暖炉の前で濡れた髪を乾かしていた。とはいうものの乾燥は暖炉の火に任せ、体育座りで腕の中に顔を埋めて落ちこんでいた。


「なんで入ってくるかな」


「薄暗かったからもう風呂出たのかと思って」


「カゴに脱いだ服あったでしょ!」


「あった…ような?」


 絶対にちゃんと確認せずにお風呂に入ってきたな。


 私が落ちこんでいることに焦ってはいるが悪びれないグロウを睨みつけた。


「まあ兄妹なんだし、裸を見た、見られたってそんなに…」


 なにが兄妹だ!こっちは転生したばっかで兄妹よりも推しキャラの感覚で接してるのに。


 グロウの言い訳をさえぎったのはメロウのため息だった。


「確認しなかった兄さんが悪いよ。いくら兄妹とはいえもう子どもじゃないんだから」


 メロウは末っ子だからおそらくずっと子ども扱いされてきたのだろう。今日何度か年下扱いされるのを嫌がる素振りがあった。でも今回の「子どもじゃない」は説得力があったし頼もしかった。


 その後「兄さんはデリカシーがない」「メロウは神経質なんだよ」と話題が変わった。


「もうよさそうね」


 母親が櫛で髪をとかしてくれた。


「身体が冷えないうちに休みなさい」


 私はランタンを持っておやすみと言ったが返事をしたのは両親だけ。言い合いに夢中な兄弟は見向きもしなかった。


 自室に入った私は窓を開けてランタンを額縁に置いた。本来の私のものではない髪が風でなびく。


 死んでない(と思う)のに転生して、でもそれはいないはずのキャラ。この世界ではちゃんと生まれて生活してきた歴史がある。テンプレじゃないことばかりだ。


(…で、初日の終わりにテンプレかよ!)


 窓の額縁を叩くとランタンが揺れた。


 自分の身体じゃない、しかも若くて可愛いとはいえ、中身は自分だからか、裸を見られたことはショックだった。


 それだけではない。グロウの裸も見てしまった。


 薄暗い中、ランタンの淡い明かりに照らされ影ができた凹凸のある身体。幅の広い肩。筋のある腹筋。長い肢体。


 下のほうまで思い出しそうになり慌てて頭を振った。


 次は面倒でも絶対にろうそくに火をつける!


 高らかに意気込みを掲げたときだった。街灯と月明かりしか頼りのない街の暗闇を数人の男の子たちが走っていった。


 同い年くらいかな。こんな暗くても外に出るのは普通なんだ。


 私は試しに外に出てみることにした。ストールを羽織り音を立てないように一階まで下りる途中、まだグロウとメロウの言い合う声がした。


 外に出てしまえばランタンの明かりなどあてにならなかった。近くの街灯まで寄ってみる。


 これはガスかな?どうやってつけてるんだろう。


 レトロな街並みはすべてが新鮮だった。ぜひ明るいときにまた見たい。


 静まりかえった街中は歩くたびに靴音が響く。さっきの男の子たちもどこかへ行ってしまった。身体が冷えるし帰ろうかな。


 振り返ると、意図せず身体が硬直した。真後ろに同い年くらいの男の子が立っていたのだ。部屋の窓から見た男の子たちと同じだろうか。


 声をかけようか、素通りしようか迷っていると後ろから口をふさがれ狭い路地に引きずりこまれた。そのまま冷たい地面の上に押し倒される。


「こいつ、オークス酒店の子じゃないか?」


「マジかよ。爵位の低い貴族を狙うより金になるぜ」


「よし、変更だ。強盗じゃなくて誘拐にしよう」


 冗談じゃない。


 感じたのは身体の痛みよりも恐怖だった。逃げようともがくと目の前にナイフを突きつけられた。月の光を浴びて鋭く光っている。


「…なあ、その前にちょっと遊んでやろうぜ」


 言うが早いか、ナイフで服の胸元を引き裂かれた。全身に鳥肌がたったのは外気にさらされたからか、それともこれから起こることを想像したからか。


 どちらにせよ、私は動けなくなってしまった。


 真上に浮かぶ月を見ながら思った。私は殺されるのだろうか。もしくはいいようにされてしまうのだろうか。すきでもない、こんな男の子たちに。


「――いた!」


 ナイフを握っていた男の子が視界からいなくなり、次の瞬間には私の横に倒れていた。グロウが男の子に馬乗りになった。


「お巡りさん、こっちです!」


 お巡りさんという言葉に男の子たちは血相を変えて逃げようとしたが、すぐ駆けつけた数人の警察官に取り押さえられた。


「大丈夫か?」


 グロウは私の身体を起こし、悲惨に裂かれた胸元を見ると自身の上着を肩にかけてくれた。


 メロウは私を見て短く息を吐いたあとグロウを睨んだ。


「兄さん、やりすぎ。相手、ナイフ持ってただろ」


「殴ってない。ルノアから引きはがして上に乗っただけだ」


「そういう問題じゃなくて」


 警察官の一人がやってきた。


「大丈夫ですか?ちょっとお話をうかがいたいんですが」


 メロウがすっと警察官の前に出た。


「すみません、姉も疲れてると思うので今日は休ませてあげてください。明日警察署にうかがいます。オークス酒店と言えばわかりますか?」


「ああ、あの店のお子さんでしたか」


 警察官はすんなりと引いた。現代だったらこうはいかないだろうな。


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