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転生ものに飽きたけど推し兄弟の間に転生しました。  作者: 海人ハナ
第1話『転生ものに飽きたけど推し兄弟の間に転生しました。』
3/18

③同居あるある

 ノック音がきこえた気がして目が覚めた。「はい」と寝起き声で答えるとメロウが入ってきた。


「ごめん、起こした?」


 私は苦笑した。起こされたことではなく、グロウと同じことを言ったからだ。外見も中身もあまり似ていないのにやっぱり兄弟だなと思った。


「ホットミルク持ってきたんだ」


「ありがとう」


 お昼と同様、私はベッド上で身体を起こしてカップを受けとった。湯気が立つそれを一口飲むと優しい甘みがじんわりと広がった。


「甘い」


「はちみつ入れたから」


 私は部屋を見回した。まだ明るいが、時計がないから時間がわからない。


「今何時?」


「もうすぐ昼の3時だよ」


「じゃあまだ仕事中だったんじゃない?」


「べつに、ちょっと休憩しようと思ってたから」


 仕事は疲れるだろうに、貴重な休憩時間にわざわざ牛乳を温めてはちみつまで入れて持ってきてくれたわけだ。メロウはツンデレキャラだったからなあ。


 私がホットミルクを飲む間、会話が弾むわけではないがメロウはグロウ同様ベッド脇にはりついていた。


「…子どものとき以来じゃない?そんなに寝込むの」


「あー、そう…だね」


「風邪をひどくして肺炎になりかけたんだよね」


 子ども、風邪、肺炎。


 私は井戸から水を汲みあげるように記憶を辿った。


「…あのときもメロウ、ずっとベッドにはりついてたよね。「お姉ちゃんが死んじゃう!」って」


「子どもだからびっくりしたんだよ!あんまりにも辛そうだったから…」


「風邪移っちゃうからって言っても泣いて離れなかったし」


「だから、子どもだったから…!」


 思い出せる。意識すればこの世界で生きてきた「ルノア」の記憶や思い出をたぐりよせることができる。


 ルノアは王都で生まれ育った17歳。実家のオークス酒店の手伝いをしている。


 メロウは15歳で店の事務や金銭管理をしている。15歳で働くなんて早そうだが、この世界では基本的な読み書きを習うのは10歳まで。それ以上の教育が受けられるのはお金持ちか天才だ。


 グロウは19歳。行動的な性格を活かし、外の街やときには国外まで行き酒の輸入をしている。そのおかげでオークス酒店は外国の珍しい酒が買えるということで繁盛している。


 ゲームをしていたときの情報ではなく、兄弟として育った記憶で初めて二人のことを知った。


「もう行くよ。晩ご飯、下りてこられそうだったらおいでよ」


「ありがとう」


 メロウは私の飲みほしたカップを持って立ちあがり、言いにくそうに目線を泳がせた。


「その…」


「……?」


「無理に下りてこなくていいから。女の子は大変だし」


「だから違うって!」


 どんだけ月のものにしたいんだ!



















 夜、晩ご飯に下りてみんなと一緒にシチューをいただいた。今日は後片付けを手伝わなくていいという母親のお言葉に甘えて先にお風呂をいただくことにした。


 というかいつも片付け手伝ってたのか。もしかしたら料理や洗濯等も手伝っていたのかもしれない。明日からはがんばらなくては。


 居間兼台所の奥に人一人分の洗面台。隅にカゴがあるから脱衣所も兼ねているのだろう。さらに奥が風呂場になっていた。三畳ほどのスペースにバスタブがある。


 私は密かに感動していた。バスタブにお湯がはってある。ヨーロッパはお風呂よりシャワーのイメージがあるがここは日本人が作ったヨーロッパ風のゲームの世界。いいように改ざんされている。ルノアの記憶だと毎日お風呂に入っていた。


 バスタブのすぐ横に二種類の蛇口がある。おそらくお湯と水が出るようになっている。ということはガスの技術が発達している証拠だ。


 問題は電気。まだまだ未発達なようで、天井から吊るされている燭台のろうそくに火をつけなければ明かりを確保できない。


 明かり問題に気づいたのは黄昏時だったが、壁にランタンがかけてあったのを発見し難を逃れた。階段を下りたときも風呂場に入ったときも片手にランタンを持っていたのだ。


 面倒くさいなあ。


 踏み台に上って、防水防風のガラスカバーを外して、マッチで四本のろうそくに火をつけて。考えるだけで面倒くさい。ランタンだけでもぼんやり見えるけど。


 私は気づいた。


 ランタンの明かりだけでいいではないか。真っ暗じゃないんだから。


 私はランタンが濡れないようにバスタブから離れた隅に置き、服を脱いでお湯に浸かった。

 

 うん、ゆらゆら揺れる影が逆にロマンチックだ。


 ほかの家も毎日お風呂に入れるのだろうか。それに三階はそれぞれの自室、二階は居間や台所、一階は酒屋。三階建てだし、オークス家は庶民にしてはお金持ちなのかもしれない。


 私はバスタブの淵に頭をあずけて肩まで浸かった。


 一日考えたけどなぜ転生したのか、なにをすべきなのかわからなかった。


 ルノアが生きてきた証がある以上、異世界から転生してあなたの家族は別人になりましたなんて言えるわけもないし、信じてもらえるわけもない。


 とりあえず身体は元気なのだから明日からは仕事を手伝おう。意識して記憶を引きだせばできるはずだ。


 私は立ちあがった。


 と同時に風呂場と脱衣所をつなぐドアが開いた。そこにはランタンの明かりに照らされたグロウがいた。全裸で。


「いやあぁぁぁ!!」


 ここでテンプレかよ!











→NEXT


とりあえず一章終わり。ちなみにこの連載のテーマソングはいきものがかりの『GOLDEN GIRL』です。

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