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兄のキスに飽きたけどなんとか拒否しようとしました。

「ルーノア、行ってくるな」


 グロウは今日も今日とて最愛の妹、ルノアにキスをしようとした。その日の気分や互いの体勢によって唇の終着点は違うが、今日は柔らかな左頬に唇をよせた。ら、両腕をつっぱねて拒否された。


 正直、妹の細腕で力をこめられたっておしこめられる。余裕だ。だがしかし、十七年間一度だって拒否されたことはなかった。


「なんだよ、どうした?」


 自分の意思とは裏腹に眉間にしわがよってしまう。ルノアの眉間にもしわがよった。可愛い。残念ながらあまり似てない兄妹なので同じ表情でも似てないんだろうな、と思った。


「ずーっと思ってたんだけど、どうしてキスするの?」


「どうしてって…これから隣の隣の村まで酒を仕入れに行くんだ。寂しいだろ」


「隣の隣って一泊で帰ってこれるじゃない!いや、そうじゃなくて…」


 グロウに流されそうになりながらもルノアは首を横に振った。いまだ両腕には力がこめられている。


「おかしいでしょ!兄が妹にキスするの!」


「そうか?たしかにこの辺じゃ珍しいかもしれないけど、ほかの街じゃ家族や友人でキスする文化もあるんだぜ」


 そう、ここ王都では珍しいのだ。


 百年ほど前に接触により疫病が蔓延したとか、今夜いかが?という浮気の暗喩だとか諸説あるが、数代前の王が潔癖症という説が有力候補だ。


「じゃあ私だけじゃなくて家族みんなにしてよ」


「だって父さんと母さんは夫婦だし、メロウは男だしなあ…」


「女の子にキスしたいだけなら恋人作って!」


「おま…っ、なんてこと言うんだ!お兄ちゃんに恋人できたら寂しくないのか!」


「逆に清々するわ!」


 ルノアはグロウを押しのけて距離をとり、大きなため息をついた。


「今まで頬とか頭とかだったからいいけど。絶対に口にはしないでね」


 次の瞬間、ルノアは両肩を力強く掴まれていた。目の前の兄の顔は瞳孔が開きかけ、例えるなら新たな力に目覚めたゲームキャラのよう。あ、元々ゲームキャラだった。


「口にキスされたい男がいるのか」


「いや、単純に兄に口にキスされたくな…」


「いるのか」


「だから…」


「いるのか」


「怖いよ!」


 聞く耳をもたない。そしてだんだんグロウの出発時間が迫っている。


「お兄ちゃん、機関車乗り遅れるよ!」


「ごまかすってことはキスされたい男がいるんだな」


「ダメだ!全部そっちの方向にもっていこうとしてる!」


 グロウは常軌を逸した表情でルノアの頭をがっちり固定した。


「そこらの男の奪われるくらいなら俺が…」


「いやああぁ!シスコンの域を超えている!」


 ルノアはなんとか頭を振ったりグロウの手を引き離そうとするも、グロウにとっては子猫がじゃれてくる程度の抵抗でしかなかった。


「おとなしくしろ!」


「え、ちょっと…!」


 迫られた勢いでルノアは押し倒されてしまった。視界いっぱいのグロウの顔。いつもの元気で明るい表情とは違ってきつく怒った目つきは思わずときめいてしまうが、今は兄妹。画面越しに推していたときとは違う。


 これ本気でヤバイやつだ。


 鳥肌がたち、全身の血が冷えきった。


「メロウ――!助けて――!」


「ちょっとさっきからうるさいんだけど!こっちは月の売り上げ計算して…」


 三階から怒りを隠さず一階へ下りてきたメロウは絶句した。全身をばたつかせ抵抗している姉の上に兄が馬乗りになっているのだ。


「なにやってんの!?馬鹿じゃないの!?どうしたらそんな状況になるんだよ!」


「お兄ちゃんがぁ…!」


「違えよルノアが…」


「いいから兄さんはそこからどいて!」















 ――という兄弟げんかをわりと間近で見ていたオークス夫妻。


「グロウが一人で買い付けを始めたとき、街の外の女の子にひっかかったり騙されたりするんじゃないかと心配だったが…」


「それよりもっと深刻な心配が浮き彫りになったわね」


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