③当日
私事ですが、首を痛めてしばらく更新できませんでした。
これからまたがんばります。
それから一週間、飲み放題の準備に明け暮れた。店内の整備、テーブルと椅子の確保、おつまみの考案、ほかにも準備を進めれば案も出てくるし疑問も出てきた。それを一つ一つクリアしていく。普段の営業と同時進行、家族五人一丸となった。
ルノアはその日、客足の少ない時間帯に許可をもらって自室で看板を書いていた。指と爪のあいだをインクで汚しながら木の看板に文字を書きこんでいく。
「――よし」
インクをよく乾かしてからできあがったものを一階の店スペースへ持っていった。
「見て、どうかな?」
客がいないのをいいことに堂々とかかげてみせる。
“17:00~19:00 店内各酒20ペインで飲み放題”
カラーインクがないのでモノクロだが、木色の薄いものを看板に選びできるだけ文字が目立つようにした。
「おっ、いいじゃん」
「当日から入り口に飾りましょう」
ちなみにお客さんにはすでにチラシを配布している。庶民に印刷技術がないのと紙が貴重なので十数枚だけだが、人とは噂好きだ。きっと広まるだろう。
「看板を立てるイーゼルはお兄ちゃんが画家の先生からお古をもらってくれたし。あとは当日におつまみ用の食材を買って…チーズは長期保存できる種類のものは早めに買ってもいいよね。あ、食器の置き場所なんだけど…」
「一人で突っ走りすぎ。熱出るよ」
思いついたことを次々と口に出していたルノアはメロウのつんとした言い方にブレーキをかけられた。
「メロウは家族がいるんだから頼れって言いたいんだよ」
メロウの皮肉にグロウがフォローを入れた。ルノアの頭をなでて甘やかすことも忘れない。
「でも私が提案したことだし、もし失敗して赤字にでもなったら…」
「そうならないためにメロウがスケジュール立ててくれただろ」
「それにどんな失敗も母さんの花かざりまくり作戦にはかなわないよ」
「あら、店内も華やかになってお客さんも増えていいと思ったのに」
「母さん、お客さんが増えたって、女性のみだったぞ。しかも買わずに物珍しさに花を見ただけだ」
父は昔を思い出すかのように遠い目をしていた。
「しかも男性客は減り、花は定期的に買いなおさなければならず、花瓶の水替えや落ちた花びらの掃除で仕事は増え…」
「もう!お花のお世話はこれくらい当然よ!」
「母さんの元花屋の血が騒いでる…」
オークス酒店は以前にも新しい取り組みを行ってきたらしい。
「へえ、そんなことあったんだ」
家族全員が不思議そうにルノアを見る。
「なんだ、覚えてないのか」
「え!?ち、ちっちゃかったからかな!?」
ルノア・オークスが生まれたあとの話か!
思い出す努力をせずに発言したルノアは慌ててごまかした。
「マジかよ。俺十歳にもなってなかったけどけっこう衝撃的で覚えてるぜ」
「俺はうっすら」
そのあとは言及されることもなく、普段の営業に戻った。
――当日。昼間の営業を終えたオークス酒店は初めて夜の営業に切り替わろうとしていた。
発案者のルノアだけでなく、家族全員がどうなるのかとそわそわしていた。
看板を目立つ位置に置きなおし、店を掃除し、人気の出そうな酒はすぐ注げるようにカウンターに準備。そうこうしているあいだに17時になった。客は来ない。
「まあ、当日だしね。しょうがないよ」
17時半をすぎてやっと客が来た。けっきょく、閉店までに来た客は二組。
順風満帆に行くとは思ってはいなかったが、それでももしかしたら当日から満席、なんてことを期
待せずにはいられなかったルノアは肩を下げて落ちこんでしまった。
――一週間後。
「おーい、こっちに同じのおかわり頼む!」
「追加でハムのスライスと煮卵!」
「はーい、ただいま!」
17時すぎ、オークス一家は夜の影響でてんてこまいだった。父とグロウが酒を注ぎ、母がつまみを用意し、ルノアが配膳し、メロウが勘定。慣れないながらも適材適所でなんとかなっていた。
初日こそ客足は少なかったが、この試みは酒好きの男たちの噂や興味をそそり、今では大繁盛だった。
いける、いけるわ。
ルノアは客席とカウンターのあいだをくるくると行き来しながらほくそ笑んだ。
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