スカウトの条件
「タイガー選手の息子さんが、那覇くん、あなたと同じチームで戦いたいと言っているんです。」
スカウトは友達になったタイガー・グッツくんの推薦だった。
「ええ？ でも、僕には学校もあるし、アメリカはちょっと無理かな。アハッ。」
那覇はさりげなく笑って誤魔化した。
「安心してください。まだ完全にスカウトするとは決めていません。」
「そうなんですか？ 良かった。」
ホッとする那覇。
「我々も限られた登録選手枠があるので、より優秀な選手を獲得したい。そこで日本の全国大会で活躍した選手をアメリカに連れていこうと思っています。」
活躍しなければアメリカに行くこともないと安心する那覇。
「今日は挨拶を兼ねた声掛けです。」
「他の選手にも声掛けがんばってくださいね。」
「ありがとう。」
スティーブンは席を立つ。
「あ、言い忘れていましたが、契約金は１００万円です。」
「１００万円！？」
那覇は小学生には大金の１００万円という言葉に心が揺れた。
「１００万円あれば、チョコレートが１００回は食べれるです！？」
「ワッハッハー！」
那覇は見事にお金に釣られ、それを面白くて笑うスティーブン。１個１万円のチョコレートとは、いったい！？
「まあ、がんばってね。バイバイ。」
「ありがとうございました。」
スティーブンは去って行った。
「はあ！？ そうか！ 野球をすればお金がもらえるんだ！」
那覇は例え小学生であっても、野球で活躍すればお金をもらえることを知った。
「だからお金に汚いデニーくんはプロ野球選手になりたかったのか。うんうん。」
一人で納得する那覇。
（なんか俺、悪口を言われてないか？）
ディスられている俺。
「やったー！ 東京に着いたです！」
那覇は東京に無事にたどり着いた。
「おえええええー！？ 空気が不味い！？」
沖縄の澄んだ空気と比べると、東京の空気は毒ガスを吸っているみたいだった。
「これだから田舎者は嫌なんだよ。」
その時、那覇に上から目線で声をかける男の子がいた。
「何者だ！？」
「俺は少年野球全国大会東京代表の千代田だ。」
「東京代表！？」
現れたのは東京代表の千代田だった。
「おまえたちが沖縄代表だそうだな。なんでも剛速球投手がいて、その投手は世界大会の代表にも選ばれてアメリカに行ったそうじゃないか。そいつはどいつだ？」
那覇も有名選手になってきた。
「あの・・・・・・僕です。」
恐る恐る那覇は自己申告する。
「はあ！？ おまえみたいな奴が！？」
千代田は那覇を見て小さくてチビが何を言っているんだと疑った。
「すいません！ すいません！ ごめんなさい！ 許してください！」
那覇は全力で謝るのが癖になっていた。
「やめろ！ 男が簡単に謝ってんじゃねえよ！」
千代田は那覇のナヨナヨした態度を一喝する。
「はい！？」
那覇は怖いので背筋を伸ばして直立不動する。
「まったく調子の狂うチビだ！ まあ、いい。俺たち東京代表と沖縄代表が戦えるのは決勝戦だ！ それまで負けるなと剛速球投手に伝えておけ！ あばよ！」
千代田は言いたいことだけ言って去って行った。
「だから剛速球投手は僕だと言っているのに。もう～。」
プンプンしている那覇。
（アメリカ！ アメリカ！ 嬉しいな！）
俺は日本は眼中になかったので、千代田の話は聞かずに、アメリカに行くことしか考えていなかった。
つづく。
