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1-1 2115年8月8日 冷房の無い真夏の朝

 寝静まった部屋の中、薄汚れたむき出しの分針が、十二の位置に重なった。


 すぐさま少年の腕が時計に伸びる。結果として機械仕掛けの鶏は、一鳴きするに留まった。


 時計は寝台の真上に置かれており、4年前からその位置は一切変わっていない。少し動かした途端とたん、その部分の見目好さが不協和音を奏でる事は明らかだった。


「……朝か」


 時計が鳴いたら、二音節目が響く前に少年が腕を伸ばす。という光景は、この殺風景な一人部屋のお決まりになっている。


 音をよく聞かずとも、少年が寝坊することは無い。起き上がるまでが彼のルーティーンと化しているのだ。


 そもそも夏の東都で寝坊をする者など居ないだろう。朝からとても熱い上に、クーラーの類はとっくに世界から退場している。


 洗濯板の桶に当たる音と蝉の声が、湿った街に木霊こだまする。

 

「うるせぇ……」

 

 少年は寝床でぐるりと寝返りを打つ。


「うるせぇなぁ……」


 だが、文句を垂れていても仕方がない。少年はカビ臭い寝床から飛び起きた。


 少年――松永 奏太(まつながそうた)は、ここ東都で16年前に生まれ、東都で育った生粋きっすいの都会っ子である。それなりに裕福な家庭で育ち、4年前までは何不自由なく暮らしてきた。

 

 しかし、今は自分の稼ぎのみが彼の食い扶持ぶちとなっている。有り体に言えば、彼は4年前にボンボンから戦災孤児にジョブチェンジしたのだ。


 朝食など用意されていないし、朝食を食べる時間も金銭的余裕も無い。


 奏太は肌身離さず身に着けている星型のお守りを、ふところにしまい込む。

 

「行ってきます」


 返事をする者はいない。これもまたルーティーンである。彼はひび割れたアスファルトの上を駆け抜ける。




 あの日――忘れもしない4年前――2111年の5月30日、奏太は全てを失った。両親と友人達は、神と悪魔に殺され、兄は行方知れずとなった。


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