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Imagene  作者: 有羽妃
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宇宙E研究会

高校一年の春、桂木駿介は思案していた。

手には、B4サイズの両面刷りを半分に折った冊子が一部。

一ページ目の表題は、『クラブ活動(必修)のしおり』とある。

県下屈指の公立進学校である宝ヶ原高校は文武両道で有名、とは聞いていたものの、その理由がクラブ活動の強制にあるとは、受験勉強から開放されてひと息つくまで、駿介はつゆとも知らなかった。

べつに文武両道など、駿介は目指していない。

運動部に入ってよけいな体力を消耗する気などさらさらないので、どうしても入れと言われれば選択肢は文化部系に限られる。

冊子の三ページ目の表を目でたどりながら、駿介はナシ、ナシ、これもナシ、と見えないペケ印をつけて三十近くある選択肢をしぼっていく。

判断基準は、特殊な技能や修練が必要ないこと。

たとえば、吹奏楽部、書道部、英語劇クラブなどは却下だ。

さらには、人間関係がなるべくわずらわしくなさそうなところがいい。

おそらく、放送部、美術部、パソコンクラブなどメジャーなところは部員数も多いだろうから避けた方が無難だろう。


上から半分くらいはことごとくペケがつき、選択肢は下の方のあやしげな同好会に限られてしまった。

中でも、天文クラブというのには若干の興味がわくが、初期費用がおよそ二万円とは、いったい何を買わされるのか。

自前で道具をそろえての真剣な活動などべつに求めていないし、真剣にやらないならそんな出費は無駄になる。

駿介の視線は、けっきょく、表のいちばん下で、いくども左右に動いた。

初期費用ゼロ円、月会費ゼロ円。

所在は、なぜか新聞部部室内。

どこをどう考えたって、大人数で意欲的に活動しているとはおもえないそのクラブの名は、『宇宙E研究会』──

Eってナニ、というところからして見るからにうさんくさすぎる。

もし、エイリアンの略だったらどうしよう、とおもったがローマ字じゃあるまいし、エイリアンなら頭文字はAのはずだ。


駿介は、くしゃくしゃとくせっ毛をかき混ぜた。

まあ、見に行ってみるだけなら害にはなるまい、そう結論づける。

ともかく、どこかに入らざるを得ないのはたしかで、いちばん大切なのは、受験勉強のための時間をクラブ活動などに浪費しないことだ。

友人づくり、先輩後輩との交流、それに学業以外の成果、だったか……

そんなクラブ活動の意義などくそくらえだ、と駿介はおもう。

夢や目標の足しになるわけでもあるまいし、大学受験までの限られた時間をただの道草なんかに使えるわけがない。

駿介がめざす国立大学の医学部医学科受験は、ちいさなミスひとつも許されない最高難度の戦いなのだ。

入るクラブを選んでいるこの間にも、ライバルたちは駿介の知らない英単語を十個は暗記しているにちがいないのだから。


その日の放課後。

めんどうな問題はさっさと片づけてしまおうと、駿介はさっそく新聞部の部室に向かった。

新聞部は冊子の表を見るかぎり、旧校舎にある社会科資料室を部室に使っているらしい。

行ってみれば、校舎全体が古くさいのはもちろんとして、さもありなんとおもうような廊下の突き当たりの日当たりの悪そうな小部屋が社会科資料室で、その扉に新聞部という貼り紙が見えた。

一応、下の方にちいさい字で『宇宙E研究会』とも書いてある。

ここまで来てもEがなにを指すのかさっぱり分からないことに、駿介は少々不安になってきた。

一見しておかしな研究をしているようであれば、新聞部の見学に来たふりでもすればいい、そう自分に言い聞かせてから、駿介はネジのゆるんだドアノブをそろりと回す。



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