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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

彼と彼女の日常

醜い物でもどうか許して下さい

倖せというものを間近で見てしまうと、感情が昂って唇が酷いことになります。

私では彼をこのように出来ないと、笑って生きてあげられないと、嘆き哀しみ膝を崩し頭を抱えて地面に踞ってしまうのです。

身勝手な八つ当たりではありますが、弱い自分にはこうする事でしか自分を守ってやれないのです。

泣くほど心臓を痛めたところで誰も何も言ってくれやしないんだけれども。

鼻息荒くして喉を掴んで言葉にならない声を震わせたって響く部屋は暖房で温かいだけ。

人や動物のほんのりとした体温すら分けてもらえず、冷めた布団で今夜も夜を明かす。

泣き痕があったって明日も平日。

週末にならなければ彼にバレません。

会わなければ知られることもない。

だって見せたくないもの、こんな醜い姿。

執着は悪いことだって誰かが言ってた。

面倒臭い女は捨てられるってワイドショーが話してた。

重い片思いは相手の身を沈めるって本が教えてくれた。

なので、言いません。

絶対に死ぬまで貴方に教えてあげません。

そうしたら、そんな私なら、良い子なら…ちょっとは一緒に生きてくれるでしょ?


ごめん、ごめんね、ごめんなさい。

許してほしいとは望まない。

愛してほしいなんて高望みはしない。

貴方の時間にほんのちょっと私と重ねてくれるなら、ビルから飛び降りるなんて造作もない。

自分の喉に爪を食い込ませて引きちぎるなんて赤子の手を捻るように簡単簡単。

昔の私が囁くの。

飽きもせず暇さえあればこう言うの。

『もう可哀想だから殺してあげたら?』

生きててみっともないって。

頑張ってて惨めだって。

何にも見返りが手に入らないのに、良い子ぶってて気持ち悪い笑顔が見てられないって。

指差して腹抱えて白い目で見てくるの。

底冷えしそうな声で耳に手を添えて続けるの。

『嫌なら殺してもらったら?あの○○○○○の大きな手で一捻りにゴキンって』

想像の私の首がマリオネットのように縦に一回転する。

その時の彼の表情は暗くてよく見えなくて、一瞬だけ掠めた視界に見たくない映像が脳裏に焼き付いて焦げ付いて離れない。

私が一番したくない事を、やりたくないやっちゃいけない事を、本当は心の底で望んでいるなんて嗚呼最低な屑野郎ね。

泣かせたくないってあれほど言ってたのにこんな顔させて。

伸ばそうと手を上げようにも脳に酸素がいかないから体はとっくにバランスを保てなくて後ろに倒れてく。

慌てて支えてくれる優しい腕に鼻がツンと痛くなって、目を閉じて体を突き放す。

ご都合主義がこんなところで発揮されて、こんな時だけ体が動いてくれる。

そう、彼から自分を突き放す場合だけ。

でも私の力は弱くて添えるような形で終わってしまうんだけど、察した目は更に涙を溢れさせて悔しそうに怒ってて何か言うんだけど暗闇に飲み込まれてる私には聴けなくて。

必死に何か叫んでるんだけど離れる度に視界も霞んで、指先すら掠めない距離までくると水に飛び込んだように真っ暗だけで何も無い。

本当に何も無い空間に歪な体がゆっくりとゆっくりと落下する事だけわかるの。

ごめんね、ごめんなさい、こんな言葉を並べたところで彼に届くこともなくて。

許して、許さないで、矛盾すら生まれて訳がわからなくなって。

こんなことさせたくなかった、本心は貴方に終わらせてほしがってた、あんたは人殺しにさせたがってる、巻き込んで何が楽しかったの?嫌な奴だねあんたって。

暗闇に嫌な声が本音の邪魔をする。

自分に自分で否定する意味はきっと戒め。

させてしまった我が儘を後悔しているからこそ私が私を傷付ける。

言葉のナイフで何回も何千何万何億以上だって桁を数えるのが馬鹿らしくなるまで懲りることなく事務的に。


言葉を文字が飲み込んでくれる。

私の嘆きを悲鳴をそのまま印刷するかのように、白い壁に様々な色をぶちまけては汚してしまった事にまた罪悪感を覚えてしまう。

そんな涙さえ紙を通して受け入れてくれる。

なんて優しい世界だろうか。

醜い物、綺麗な物、形無き物でさえも分け隔てなく浸透してしまう。

そして新たな形を成すのだ。

そしてそれらを重ねて積み上げて雪崩を起こしても止めずにいたらきっと埋もれて呼吸さえ止められて、嗚呼倖せって自殺完了(ハッピーエンド)

……なんてね。

ちょっと怒った?



画面から顔を上げて、彼が寝る用の布団に顔を埋める。

残り香を肺一杯吸い込んだらまるで本当に彼がいるような気がして、顔を擦り寄せたところで在るのは自分の体温だけ。

醜い腕を上げて流れる濁流にシーツを汚して、バレないように縛ったタオルは意味が無くなる程湿ってしまった。

でも大丈夫、今日は木曜日。

週末までに掃除しておいたら彼にバレない。

怒られて呆れられて溜め息吐かれて泣かれては嫌なので、週末はお出掛けしようか。

肌を隠すように重ね着をして、傷とは逆の腕で手を繋いで、包帯も落ちないようにきっちり縛っておかないと。

気だるい体を持ち上げて、一先ず汚しちゃった果物ナイフを洗面器に放り投げた。

今日は浅く済んだな、なんて廊下を歩いて浴室に入りタオルを洗濯機に放り投げた。

洗面台の鏡に移る自分の姿は相変わらず汚くて、一つ一つの線のかさぶたをなぞりながら引いた日数を思い返す。

決してアートとは呼べないな、なんて冗談混じりに失笑してからシャワーを浴びる。

こんな自分を本当に愛してくれる人なんていない。

そんなことはわかりきっている。

だから私が殺してあげる。

脳内で何度も何度も嫌ってくらい死体を積み上げて、それでも表を傷付けて殺人未遂を繰り返す。

馬鹿馬鹿しい行為だって理解している。

でも、どうしたって報われない可哀想な自分を救ってやりたくてこうするしかないんだ。

でも殺しきれないのは結局決意が足りないからで、甘えてしまっているからで。

どうやってどうしたって私は結局屍だというのに。

心が腐り落ちてしまっては人とは呼べない。

だから屍なのだ。

墓石すら用意されない歩く死体。

嗚呼気持ち悪い。

彼も見下して見放してくれないだろうか。

なんて、ね。

ドMはお気に召さないかしら?


血を出しすぎて風呂で倒れて、死にかけたのは良い思い出。

【オマケ】

*隠した物を見せて下さい


彼女の様子が可笑しい。

普段寝る時服なんか着ないのに今日は長袖なんか着ている。

お風呂も別々だったし、いつも僕がケータイ弄ってたら構えと言わんばかりにのし掛かってくるのに、今日は腕組み以外のスキンシップをしなかった。

テレビをつければ相変わらずジッと子供みたいに動かず観てるけど、時折腕や太股を擦っては顔を歪める。

洗い物を終わらせて凭れていた人を駄目にするソファに寄り掛かるとちょっとしてから立ち上がって、飲み物を持ってきてから次は布団の上に座ってしまう。

足で挟んでペットボトルの蓋を回そうとするのを取り上げて代わりに外してあげると、ちょっと驚いた顔して薄く微笑みながらお礼を言う。

けど、それが面白くなくてそっけない返事をすれば不思議そうに髪を揺らしながらもまたテレビ画面に釘付けに。

そういうところは変わってないけど、明らかに距離を置かれた現状では不満しかないわけで。

いつもは腹に乗り上がるくらいベタベタしてくるくせに、何で人一人分空いているんだか。

珍しく洗ってたシーツを褒めてもあんまり嬉しそうじゃなかったし、食事中もちょっと上の空で会話にならなかったし。

…僕が何をしたっていうんだ。

いや、何もしてない。

ぼんやりしてるのだって今更なんだけど、テレビに集中してるのだっていつも通りなんだけど、何か避けられてる。

それがとてもいや思ってる以上に不本意。

横顔を盗み見るとちょっと痩せた感じだけど、服のせいでそう極端に代わり映えしては見えない。

仕事のこともあるし心配はしないけど、痩せたというより窶れたの方が正しいかもしれない。

蛍光灯の下だからか顔色が青白く唇がカサついて隈が酷い。

夕方まで働いてたしその疲れかもしれないが、先週に増して危うさが滲み出てると申しますか…不安と申しますか。


ゆっくりと横たわった彼女の長い髪がちょっとだけ当たって、僕の枕を下にテレビを眺めている目はとろんと微睡み夢まで一歩手前。

寒いのか掛け布団をまさぐりミノムシみたいに丸まりながらボーッとしてる寒がりに恐る恐る近づいていく。

雑学番組の司会者が解答を間違え観客に笑いを起こさせてる。

それに反して暖房の音しか響かない静かな部屋にスゥスゥと寝息が混じり、そーっと覗き込むと睫毛が蓋をして幼い寝顔が確認できた。

それにすこしだけほっとして、はみ出た手を軽く握ってカサついた唇にそっと自分の舌で濡らしてから重ね合わせた。

嗚呼、やっぱり愛しい。

心臓がそれに呼応するように高鳴るのを止めない。

長い髪をサラリと撫で下ろし、我慢できずにもう一度熱を移す。

赤みを戻したそれに満足して、自分もそろそろ寝ようかと時計と相談してから歯を磨きに洗面所へ。

隣に敷いた布団に潜り込み、また手を繋いで向き合うように距離を詰める。

今日の分を取り戻すように。

細い線を抱き寄せて、血の臭いが抜けない肩に鼻を押し付け首に熱い吐息を溢す。

まさぐる体に包帯の形をなぞり、またやったのかと呆れながら興奮を隠さず自分のモノを柔らかな肉に押し付けた。

「悪い子だね…僕に黙ってするなんて。起きたらまた、お仕置きしなきゃね」

耳を舐めると高い声がすがるように服を握る。

隠したい気持ちを尊重して何も言わなかったけど、お仕置きは大事だもんね。

明日はどんなことをしようか。

君が嫌なアレの続きをしようかな。

その小さな唇が引き吊って喚いて逃げようとしても腰を抱いて引き戻して、誰のモノかを思い出させてあげないと。

君と僕の共有財産を勝手に壊すのはルール違反だからね。

傷付けるのが君の役目なら、僕は癒し慰めることにしよう。

小さなか弱いこの身体を温めて、また明日を冷たく寂しい朝にしないように。

この嘘が下手なこの子が泣かないように。

わかりにくい愛情をじわりじわりと注いであげないと。

ずっと一緒にいれない分もこの時間ですこしでも取り戻さないと。

可哀想な女の子。

自分を愛してあげられない惨めな恋人。

その代わりにこんな形の愛で良ければ、君が気付かないように入れてあげる。

真っ正面だと素直に受け取らないから卑怯と何と言われようと寝てる間に僕なりの伝え方で。

そしたらきっと、隠すのもいつかは馬鹿らしくなってくると思うから、言いたくなったら何時でも聞いてあげよう。

溢れて溢れて君の器がいっぱいいっぱいになったら僕のに注げばいいよ。

一緒に受け止めてあげる。

一緒にいてあげる。

だから、その時までおやすみ。

僕のことを思い出したら、明日は離れないでね。

約束。

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