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俺は目撃者として親、警察、学校から話を聞かれ、心配された。
目の前で人がガードレールを突き破って落ちて行ったのを見て平常心でいろ、というほうが無理がある。
学校から帰ってきてからどこか考え事をしているようで、不安そうな俺を両親は心配してくれた。
「ごちそうさま。今日は疲れたから風呂に入ってもう寝るよ。おやすみ。」
そう言って席を立つ。
「しゅうちゃん…」
母さんが何か言ったが、父さんがそれを止めたのがわかった。
疲れたが寝たかったわけではない。
どうしても1人になりたかった。
相手のことが心配だが、それと同時に俺の中にはもう1つもやっとした黒い得体の知れない違和感があった。
ーー俺はあの時、見えたんだよな?
湯船に浸かりながら浴室の天井を見上げる。
何も変わらない、いつもの天井だ。
(まあそんな普段から天井見てるワケじゃないけど。)
今までだって見えたことはいくらでもあった。でも今回はことの大きさが違う。
下手したらあの人は死んでいたかもしれない。
見えたけど何もできなかった。
古澤や藤谷が俺の立場なら何か動くことができていただろうか。
否。
あれは見えてから現実に起こるまでの時間が短すぎた。
そう自分に言い聞かせて湯船を出る。
温まったはずの体なのにどこか寒気がした。
風呂から出て歯磨きをしながら何の気なしに鏡に映った自分を見る。
あれ?こんな所にアザあったっけ?
首元にうっすら浮き出た赤黒いアザを見ながら思い出す。
あぁ、そうか、俺も一応今日転んだんだ。
その時にでも打ったんだろう。
痛くないし問題ないか。
明日は寝坊しないように学校に行こう。