6話「どーん!」
軽音部の部室は電気が点いていた。良かった、まだ居た。
「部長!」
扉を開けて、清水先輩を呼ぶ。
「?!ど、どうしたの?朱音ちゃん、ゆりちゃん」
「晴れて入部出来ましたー!」
勢い任せに朱音が言い切った。
「すみません、一応入部出来た事を言おうとしたんです。本当は昨日言おうとしたんですけど、時間が遅くなってしまったので、今日言いに来ました」
朱音の後を追うように部室内に足を踏み入れる。
混乱してるであろう先輩達に私が説明をする。橋本先輩はそんなに驚いていなかったけど、他3人は驚いた顔をしている。 近藤先輩は驚きすぎて変顔みたいになっていて結構面白い。
「良かった……!それじゃぁ今日、歓迎会しましょ!」
あ、それは……
「すいません、今日は用事があって」
清水先輩の誘いを断るのは嫌だったけど、今日はモモ達を待たせてるし、家に帰ってから用事がある。
「そう。ごめんなさいね」
「あ!でも、別の日にやりましょう!」
清水先輩の目が潤んできて泣きそうになったが、朱音が言った言葉にすぐ笑顔になった。
「そうね。明日予定空いてる?」
清水先輩の質問に私達は1つ返事で答える。
「良かった。じゃぁ明日に」
「ごっめん!明日俺用事ある」
清水先輩が言い切る前に木村先輩が顔を暗くして言った。すると、清水先輩の目がまた潤んできた。
「舞、あたし月曜用事あるの。でも、火曜日はない。舞はその日予定ある?」
橋本先輩の問いに涙を流しながら首を縦に振る。 清水先輩は声を上げながら泣き出した。 その間に木村先輩は近藤先輩に殴られてた。うっわ、痛そー。
結局、清水先輩の「水曜日は空いてる……」発言と、その後の橋本先輩の鋭い眼差しで強制的にその日になった。
来週の水曜日が私達の歓迎会となった。
「ごめんね、取り乱しちゃって」
「あ、いえ、大丈夫です」
何とか泣き止んだ清水先輩は少し恥ずかしそうで可愛かった。それは橋本先輩も思ったらしく写真を撮っていた。 そして、殴られていた木村先輩は畳の上で寝ていて、近藤先輩はスッキリした顔をして戻ってきた。
「用事あるって言ってたけど、時間大丈夫?」
近藤先輩が言った言葉に私達は焦った。
「あ、すいません、私達もう帰りますね。先輩方さようなら」
私がそういうと朱音が駆け足で走って行った。 私は軽くお辞儀をして朱音の後を追った。
急いで校門で待ってる2人の所に向かった。
「ご、ごめーん。遅く、なった」
「もー、遅いー」
「少し遅くなっちゃったね」
「帰るかー」
結局、いつもと同じぐらいの時間になってしまった。
「ゆり、自転車は?」
あ、忘れたぁぁぁ!
「ごめん!私自転車持ってくるけど、もうバイバイする?」
「そうだね、ゆり、バイバイ!」
皆が遠ざかった所で、急いで自転車を取りに行く。そして今度は学校を後にした。
家に着いた頃には空が少し暗くなっていて、近所の家は明かりが点いていた。
「ゆりお姉ちゃん!」
自転車に鍵掛けてると名前を呼ばれた。その方向を向くと、見知った近所の小学生が飛びついてきた。
「ゆりお姉ちゃん!おかえり!ねぇ!遊ぼ!」
わぁ、子供は元気で良いねぇ。 高校生になったら学校終わっただけで元気なくなるよ? てか、さっきまで遊んでたのかい?
「そら君、もうお外暗いからお遊びは終わりね」
腰に回っていた腕を解いて、少ししゃがみ目線を会わせながら話す。 すると、少し俯いてから小さく頷く。かわいいなコノヤロウ。
友達と別れたそら君がこちらに駆けてくる。
手を繋いで話ながら歩く。
「そら君、今まで遊んでたの?」
「うん、公園で皆で鬼ごっこしてたー!」
この子は三浦大空君。大空と書いて「そら」と読む。 キラキラネームというやつだ。 私が通っていた小学校に通っていて、今年3年生になった。
家に帰ってからの用事とはこの子のお迎えだった。 最近この辺で不審者が出ると言っていたから、学校側が決めたらしい。 だが、そら君の両親が仕事で都合が合わず、小学校のお迎えが出来なかった。唯一出来るのが私だけだった。 結局、私もお迎えはしてないが、まぁいいだろ、この子が無事なら。
家には良く出入りする仲なので、そら君が持っていた鍵で中に入る。相変わらず綺麗に整頓されてる。
「ゆりお姉ちゃん、何飲みたい?僕用意出来るよ!」
「じゃぁ、いつものにしようかな?」
そら君が「はーい」と言いながら冷蔵庫を開ける。可愛いなぁ。一生懸命にやる子供って可愛い。
「はい、ゆりお姉ちゃん。僕はカルピスー♪」
今日はそら君の両親も私の家族も仕事で遅かったり、帰ってこなかったりするからこっちで食べる予定だった。
少し休んでから料理に取り掛かる。料理苦手女子の私でも、唯一目玉焼きだけは作れる。 他に出来てるサラダやドレッシングを冷蔵庫から取り出す。 そうしてる間にそら君は宿題をしてる。はぅぅ、首傾げてるの可愛い。
分からない所は私が教えてあげて宿題を終える。それから夕飯。
お風呂は自分の家で入るとして、そら君がお風呂から出てくるまではこっちに居ないと可哀想だ。 今、そら君がお風呂に入っていて、私はテレビを見て待っている。
「どーん!」
暫くテレビを見て待っていると、背中に衝撃と温もりを感じた。 見てみると、髪を濡らしたままの状態で私の腰に腕を回していた。
「そら君、髪の毛乾かそうか」
私が「ドライヤー持ってこれる?」と聞くと、頬を膨らませながら「持ってこれるよぉ」と駆け足で持ってきた。
髪が完全に乾いた時には、眠そうにしていた。「寝る?」と聞くと首を横に振る。
「僕が寝たら、ゆりお姉ちゃん帰っちゃう…」
「家すぐ近くだし、何かあったら電話して良いよ?」
そういってもそら君は首を縦に振らない。ましてや、「ゆりお姉ちゃんと一緒に寝たい」と駄々を捏ねてしまった。
「……じゃぁ、すぐ着替え持って来るね」
そういうと、そら君は眠気が吹き飛んだように嬉しそうな顔をして頷いた。
急いで家に帰って軽く歯磨きをし、着替えを持ってそら君の家にダッシュした。
結果、そら君の目が覚め、その後ゲームをし続けた。そら君が寝たのは10時を過ぎた頃。 お陰で目が疲れた。 とりあえずそら君をベッドに移し、その脇に私も横になった。 少し早いけど、今日はもう寝よう。
次の日の朝、そら君の両親が帰ってきて感謝されてしまった。「わざわざ大空の我が儘に付き合ってくれてありがとね」と。
また、その日学校に向かう際にそら君に抱き付かれた。「僕もゆりお姉ちゃんと一緒に行くー!」と。
そのせいで、学校に遅刻しそうになった。 朱音達に不思議に思われた私は、理由を言いたくなかったので「寝坊」だと嘘を言っといた。