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61話「逆ギレ?!」




「あたしより朱音と喋ってた方が楽しい?」

 モモが私に向ける顔はいつもの笑顔ではない。

 いつも笑顔な人の無表情がこんなに怖いだなんて知らなかった。


 何故モモが私に無表情を向けるのか、初めは分からなかった。

「え?」

「あたしと喋る時と朱音と喋る時で差があるのは分かってる」

 モモは私の横に目線を向ける。朱音だ。

「何言ってんの?モモ」

 そんな事ないよ。と朱音がフォローを入れる。

「そんなにあたしと喋るの嫌?」

 問いかけてくるモモは未だに無表情だ。

「……もういい!」

 モモは駆けていってしまった。


 ここが教室で、今は昼休みだとやっと理解出来た。


 なんでこんな事になったのか。今の私には分からない。


「ゆり、ゆりはモモが友達だと思えてる?」

 自分の席に着くと、梓がおもむろに聞いてきた。

「え」

「ゆりさ、友達に夢見たりしてる?」

 梓が疑うように私を見てくる。

「……ゆりにとって友達って何なの」

 梓の言葉が突き刺さってくる感覚。

「友達って……一緒に遊んだり、一緒に話したりして……」

 5時間目のチャイムによって私の言葉は途切れた。



 モモは戻ってこなかった。

 何でこんな事になったのか、私は一旦冷静になって整理をする。

 確か、お昼はみんなと一緒に食べていた。そこまではいつも通り。

 今日は弁当がなかったので、購買でパンを買ったのだ。唐揚げパンは、程よいマヨネーズが唐揚げを美味しくしてくれた。 初めて食べた為か、凄い美味しく感じた。

 食べながらモモと話していたはずだ。その時にモモを怒らせてしまったのだろうか。

 話していた内容……は確か、昨日夜にやっていたアニメの話題だ。

 私は別のテレビを見ていた為、モモにどんな内容だったのか聞いていたのだ。

『……で、その瞬間駆け寄ってきて、一撃で仕留めちゃったの!』

『へー、まじか。すげーな』

『凄いよね!マジかっこよかった!』

『見ればよかったかも……』

 うん、普通だ。


 食べ終えてからは朱音と話していたんだ。朱音も同じ購買組だったので、私より少し食べ終わっていたはず。

 モモは未だに弁当を手にしていて、同じく食べていた梓と会話を始めていた。

 私が食べ終わったのを見て、軽音の話題を持ち掛けてきたのだ。

『先輩からの伝言なんだけど、今日部室集合だって』

『へ、なんで?』

『なんか、来年の部活紹介について会議がしたいんだって』

『来年の? 2年の人達とって事?』

『うーん、よく分からん』

『なんやそれ』

『せやかてー』

 うん、普通だ。


 思い出したが、どこか問題でもあっただろうか。

 チラッと朱音の方を見たが背中しか見えず、何を考えているのか分からない。

 曖昧な記憶のどこかに、モモを怒らせてしまった原因があるのは明白だ。

 今度は梓を見た。

 真横の席なのに、全くこちらを向かない。授業に集中しているのか、私の視線に無視しているのか。後者だったら私泣くぞ。



 結局、原因が分からないまま5時間目が終わった。

 モモはまだ戻ってこない。


「私の質問に答えは出た?」

 数学のファイルを机に置くと、梓が話しかけてきた。

「質問?」

「5時間目の前に聞いたじゃん。ゆりにとって友達って何って」

 ため息を吐く梓。

 私は梓の質問を忘れていたようだ。

 原因追及で思いだし笑いしてる場合ではなかった。

「友達って、一緒に遊んだり一緒に話したりして、親しくなった人のことでしょ?」

 以前、友達がいない頃の私が辞書で調べたときがあったが、簡単な事しか書かれてなくて正直何の役にも立たなかった。

 意味として、“いつも親しく付き合う人”という意味があるらしいが、それだけじゃない気がする。


「分かってるなら何でそうしないの?」

 梓は私を見下ろすように見てくる。

「私にとっての友達がモモにとっては違ったらどうすんのさ」

 やっと梓に反撃出来た気がした。

「そんなの聞いてみないと分かんないじゃん。ゆりは、そうやって思ってるだけで終わらせちゃうの?」

「そうじゃないけどさ、」

「思ってるだけじゃ何も始まんないじゃん。つまんない」

 私の言葉を遮ってまで、梓は私を責める。


「はいはい、ストーップ」

 無言のまま睨みあってると朱音が入ってきた。

「とりあえず、モモの所いこ?」

 朱音曰く、モモは保健室にいるらしい。

「ちょっと朱音。邪魔しないでくれる?」

「ごめんごめん。いいじゃんよ梓~」

 朱音は私の腕を引いて教室を出る。


「待って朱音。私まだ原因分かってないんだよ。謝れない」

 階段の踊り場で俯く私。

「原因はあたしも分からないから大丈夫!」

 笑顔で断言する朱音に拍子抜けしてしまう。

「えっ」

「教えてもらえばいいんだよ! モモに」

 朱音の言葉に拍子抜けた私は、なんだかホッとしている。

「はぁ?! そんなの、モモが許しても私が許さないよ!」

「まぁまぁ梓」

 怒っている梓を宥めながら、保健室に向かう朱音。そんな朱音に腕を引っ張られながら後ろを着いていく。


 保健室の中からは何1つ物音がしない。そんな保健室のドアを勢い良く開く朱音。

「たのも~!」

 何か違うセリフを吐く朱音に頬が緩む。

「……モモ~?」

「モモ」

 モモを探す朱音に対して、私はカーテンが閉まっている1つのベッドに向かう。

「モモ、開けるよ」

 シャッと勢い良く開けると、頭が本の少し見えた。布団の中に籠っているようだ。

「……良く分かったね」

 顔を覗こうとしたら目が出てきた。


「うん、使ってないベッドにカーテンを閉める必要なんてないもん。カーテンが閉まってたら誰かが使ってるって事。 3つの内1つだけにカーテンが閉まってたらすぐに分かるよ」

 ベッドに横になる場合には本人の意思でカーテンを閉めることが出来るのだ。

「その無駄に働く頭をフル回転して、あたしが怒ってる原因も分かってよ」

「……ごめん」

 布団から顔を出すモモは怒ってるようだ。


 養護教諭は私達が来たことによって職員室に行ってしまった。

「モモ、モモは何で怒ってるの?」

 私が投げ掛けるより先に、朱音がモモに尋ねる。

「……朱音が聞かないでよ!」

 咄嗟に起き上がるモモに、近くにいた私は驚く。

「いいよね朱音は、ゆりと共通の話題が沢山あるし、部活も一緒だし。 毎回毎回楽しそうに話せてる朱音を見て、あたしと話してるゆりがつまらなそうに見えるの!」

 違う。モモと話すのも、朱音と話すのも楽しい。そんなふうに見えていたなんて知らなかった。


 突然の事に、私だけじゃなく朱音も梓も動かずに聞いていた。

「部活入ってから、あたしと話すのより朱音と話す方が増えてきて、なんだか、あたしだけが進めてないみたいに感じて……だってあたしだけだもん! 部活入ってないのあたしだけで、それがあたし達の中で差になってる気がして」

 差?差なんて私は感じた事がなかった。


「そう感じてるうちに、今日のゆりの顔を諸に見ちゃって、(むな)しくなって、やっぱりそうなんだって思ったらゆりに詰め寄っちゃった……ごめん」

 違う。謝るのは私の方なのに……

「ごめん……もう、一緒にいなくていいから……たまにでいいから、あたしと話すときも笑ってよぉ……」

 もらい泣き?違う。悔し泣きだ。

「何で……なんでモモが謝ってんの? 謝るのは私の方なのに……泣かないでよ、ね? ごめんなさい、モモがそういうふうに感じてたなんて知らなかった」

 知らなかったからって、こんなふうにモモを泣かせていい訳じゃない。

 モモが感じてる事を、私が感じ取る事が出来てなかった事が悔しかった。


 濡れた頬を手で拭うと、そのまま近くに置いてある椅子を引き寄せてベッド脇に座る。

 布団に顔を押し付けて泣くモモの頭を優しく撫でる。出来るだけ優しい声で話し掛ける。

「差なんてないよ。確かに部活に入ってから楽しいよ? でも、こんなに楽しくなったのはモモのおかげ。あの時、モモが話題を出してなかったら、私も朱音も部活に入ってないの」

 そうだった。あの日の放課後、唐突すぎる話題はモモから始まった。

「部活に入ったからって、モモとの差が出来るわけないよ。それに、いつもモモには助かってるの」

 モモの唐突な話題が、いつも私を助けてくれてることをモモは知らない。

「……た、助かって……?」

 布団に押し当ててた顔を上げて私を見てきたモモ。


 モモの目は凄い腫れていた。泣きすぎだよ。

 流れ落ちるモモの涙を軽く拭いながら、私はモモの言葉に頷く。

「助かってるよ。引っ込み思案で、シャイで、自分からは話す事も、行動する事も出来ない私は、いつもモモに助けられてる。 唐突すぎる話題が、私を楽しくしてくれる。それは私だけじゃなくて、梓や朱音もそう思ってる」

 モモは確認するように、梓と朱音を見る。

 釣られて私も2人を見やると、声を出さずに涙を流していた。

「えぇっ? なんで2人がそんなに泣いてんの?!」

 びっくりした私は、大声で叫んでしまった。


 梓も朱音も、目を何度も擦ったのか凄く腫れていた。モモに負けないくらい。

「だっ、だってぇ~……聞いたこともない優しい声で、モモを慰めてるゆりを見たら……誰だって泣くわぁ!」

「逆ギレ?!」

 てか、“聞いたこともない優しい声”って、私、結構優しい声で話す場面沢山あるじゃない!!

「ごめっ……モモが何か感じてる事は知ってたけど、そんなに思い詰めてるなんて思わなくて……」

 あ、あの梓が、泣いてる……だと?!


「梓、朱音、ゆりの言ってる事、ホント?」

 目を擦りながらも、モモの言葉に頷く梓と朱音。

「ホントだよ。凄く助かってる。モモがいてくれて良かったって思う事、沢山あるんだから」

「あだしもぉ~……凄く助かってるんだからぁー!!」

 若干キレながら叫ぶ朱音に呆れながら笑う。

 朱音と梓は近くのテーブルに備え付けてあるティッシュ箱を勢い良く手にする。

「ズビーッ、はぁ、目が痛い」

「ズビーッ、ズッズッ……ズビーッ」

 梓はともかく、朱音どんだけ鼻水出てんだよ。


 ティッシュ箱を投げ付けられた私は、自分の涙を拭くついでに、モモの涙も拭く。

「モモ……ごめんなさい。モモともっと沢山遊びたいし、話したい。 それが友達だと思うから、こんな私だけど、これからも一緒にいて?」

 モモは余計に泣いてしまった。

「うっ……ズビッ、あたしも、ゆりと遊びたいし、話したい! ふつつかものですが、よろしくおねがいします!」

 あれ、私いつプロポーズしたっけ。

「あっはっ、モモ、プロポーズじゃないんだからっ」

「ブフッ」

 空気読めない2人をスルーして、私はモモの頭を撫でる。

「私が養ってあげる」



 泣き疲れたのか、モモは寝てしまった。

「モモ、意外と重い」

 それを支えてる私は、若干ダメージを受けているが、モモを起こさないように横にする。

「あー、私も寝よっかな」

 モモと一緒のベッドに横になると、眠くなってくる。

「ちょっとちょっと奥さん、何しちゃってんの」

「そうだよ、モモと寝るのは私なんだけど?」

「いや、そういうことじゃないでしょ!? この後の授業どうすんの?! もう残り」


――キーンコーン……


「あぁぁ! ほら、教室戻るよ?!」

 どうやら6時間目が始まるようだ。まぁ、今から寝る私には関係ない。

「朱音、バイバイ」

 ドアを開けようとしてる朱音に手を振りながらこちらに歩み寄ってくる梓。梓も私と同じ事をしようとしてるようだ。

「ちょっとぉ?! 梓は私と一緒にいてくれないの?!」

「あれはあれ、これはこれ。と、いうわけでゆり、そこ邪魔」

「モモの隣は私のものだ」

 無理矢理布団を捲ろうとする梓と、それを必死に食い止める私。そんな私達をドア付近で突っ込んでる朱音。

 なんてカオスだろう。


 こんなに騒いでても起きないモモ。

 ゆっくりと休んで欲しい所だが、出来れば起きて、私に加勢してほしい。

「ほら、モモの顔を見れるように移動したから、梓はそっちのベッド使ってよ」

「……しょうがない」

 なんとか折れてくれた梓。

「ふぁあ、ねむっ……」

 どうやら本当に眠かったようだ。泣き疲れたのだろうか。

「あ、朱音は一番端のベッド使ってね」

 それだけ言うと、梓は横になって目を閉じる。

「……だぁーっ、もういい! 寝る!」

「おー、寝ろ寝ろ」

 朱音がベッドに横になったのを見て、私も目を閉じる。

 起きたらいつも通りになるだろう。


 その後、起きた私達――私と梓と朱音は、寝癖をそのままに反省文を書く羽目になり、私と朱音は部活に遅れる事になる。





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