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5話「何してんだー」




 朝、いつもより早めに登校したら何故か廊下側に居たはずの卜部が窓側の席に座っていた。不思議に思いながらも自分の席に着く。

 なんか違和感。妙に椅子が高い気がする。あれ?これ私の席だよね?まぁいいや。

 今日は朱音達より早く来たからまだ教室もそんなに人は居ない。


「茅野、今日は早いんだな」

 教室を見渡してたら、卜部が話しかけてきた。卜部は私よりちょっと早く出るから、今日はまだ来ないと思っていた。 なんでなのか聞くと、しどろもどろに答えた。

「あ、いや、ちょっとな。別に忘れてたわけじゃねぇけど、とりあえず早く来たんだ」

 何となく分かった。つまり野球部の朝練に来たけど、昨日からグラウンドは整備で綺麗にしてる途中だから来た意味無かった、ということだ。 卜部が言った言葉を要約して話すと顔が赤くなった。ふふ、可愛いやつめ!


 2人で話していると下が騒がしくなってきた。もう少ししたら朱音達も来るかな。

 名前の知らないクラスメイトが少しずつ挨拶をしながら入ってくる。 その中には菅谷君も居て、私を見ると鞄の中を漁りながら挨拶してきた。

「あ、おはよう茅野さん、これありがとう」

 渡してきたのは、貸していた化学のノートだった。

「うん、おはよう、どういたしまして」


 朱音達まだかな~?と待ちながら、1時間目の用意をする。用意を終えた頃、朱音達はようやく来た。

「おはよー朱音、梓、モモは?」

「おはよー、モモ今日寝坊して遅れるって」

「オールしようとしたら3時頃に寝ちゃって、起きたら8時だったらしい」

 寝坊の理由がモモらしくて笑った。


 笑ってたら梓が変な事を言い出した。

「ゆり、そこあたしの席」

「え?」

「あれー?ゆり忘れたんでちゅかー?昨日席替えしたでしょー?そこ梓の席だよー?」

 ……はぁ!思い出したぁ!そうだ。だから椅子が高く感じたんだよ! うわ、やべぇ、机の中に教科書入れちゃった。

「ご、ごめん!今退くよ!あたしの席何処だっけ?!」

 手に教科書類や筆記用具を持って辺りを見回した。えーっと?

「ゆりの席は梓の横だよ」

「こっち?」

 2人して「うん」と言うと苦笑いされた。

「てか、昨日の今日で忘れる?逆に凄いよ」

「え、照れる」

「褒めてないわ!」

 いやー、今日も良いツッコミだなぁ。と笑うとまた苦笑いされた。

「コントは終わりにして席着いたら?」

 梓の言葉でようやく気付いた。先生がいる事に。


「どうぞ、まだコントやってたら?時間になった訳じゃないし」

 先生が言った通り、まだ時間ではなかった。けど、もう殆どの人が席に着いていて何人かはこちらを見ていた。恥ずかしっ!



 1時間目の事もあって、その後は大人しく過ごした。と言ってもいつも大人しくしてるけど。

 モモは現代文をやってる途中に来た。やっぱり寝坊らしい。遅刻届けを先生に渡して席に着く時、こちらを見て小さく笑った。 笑い事じゃないよ、その時の先生の顔は恐かったぞ。 モモの事睨んでたぞ。 その事を2時間目が始まる前に話したらさらに笑った。どういう神経してんだ。




 そんなこんなで気付いたらもう5時間目も終わる所。さっきまで寝てたけど、終わる10分前に起きて、今一生懸命板書取ってます。 で、書き終わったら落書きしよう。 目標を立てた方が早く終わるし、その気にもなる。

 何とか頑張って黒板の字を板書し終えた。書き終えてから、化学の先生って字汚いなぁ、と改めて思う。 まぁ分かれば良いんだけど。


 5、6分後のチャイムで寝てた人が全員起きた。その光景を後ろから見るのは結構面白い、と今日実感した。 机に伏せている体が突然のチャイムによってビクッとなるのが良い。 また、そんなのが10何人いるのか、寝ていた人全員の体がシンクロしていて笑える。一番後ろで黒板を見ていた私はそれにビクッとなったが。


 終わって10分経つと今度は英語が始まった。

 席替えをしたせいで今日来る先生達が戸惑うのを何回も見ている。

「あ、席替えしたんだー…」

 席を覚えるのが大変なのか、教卓に置かれてる新しい席順を見ながら汗を拭いていた先生方。

 つい先程教室に来たばかり英語の先生は、入ってきた途端に「えー?!席替えしちゃったの?!」と驚く。そんなに驚くことだろうか。

 教卓に置かれてる座席表をよく見ると、嬉しそうにする。これもまた、何回も見てきた光景で、何故嬉しそうにするのか謎だったが、英語の先生が言った事で理解した。


「あ、でも嬉しい。卜部に稲見に山上、会沢、佐藤。やる気なし、馬鹿、うるさい、の人達が前の方に居るし、注意しやすい座席だね」

「俺はうるさくないっすよ!」

「あたしもー、馬鹿じゃないよ先生!」

 その発言で、自分の事認めちゃってるって知ってるかい?

 前の方で行われている会話にツッコミたくなるのを抑えるように、梓に話しかける。

「先生達が嬉しそうにしてた理由はこれだったんだね」

 私の言葉に梓は「ね」とだけ返して笑った。

 少し笑い合ってたら、「始めようか」と言う先生の言葉に学級委員の人が号令をかけた。 起立する時にモモの方を見てみたら、まだ眠そうに目を擦っていた。




 結局、英語の時間もモモは寝ていて、先生に注意されていた。

 授業が終わり、英語の先生が出ていくと同時に担任の先生が入ってきた。いつもはもう少し遅いのに、どうしたんだろう。

「先生、今日来るの早いですね」

 ゴミを捨てるついでに先生に聞いてみた。

「うん、中間テストの範囲が決まったから」

 先生の言葉に耳を疑った。

「え、先生、今、なんて?」

 戸惑いながらもう一度先生に聞く。

「だから、中間テスト。範囲が決まったから紙持ってきたんだよ、ほら」

 私の言葉に疑問を持ちながらも答えてくれた先生は、ある紙を私に見せた。 それは、中間テストの範囲表で『中間テスト範囲表♪』とか『みんなでテストを頑張ろう☆』とかが書かれてた。

 頑張れない。そんな急に見せられても頑張れないよ。 ♪マークや☆マークがあるのは何でですか?怖さ倍増の為ですか? てか何で下の方には変な絵が描かれてるの?何これ、新種の呪い札?それとも嫌がらせ?


「先生、生徒への嫌がらせは駄目ですよ。こんな忌々しい紙は焼き払わなきゃ」

 先生の手からそれを取り、ゴミ箱に向かう。

「あー、駄目駄目!それ一枚しかないんだから。それから、これは呪い札でも、嫌がらせでもありません。学生の本分の一環です。分かったら席に戻りなさい」

 先生に叱られたので、諦めて席に戻った。

 笑っている皆、この後のホームルームで知りたくない事実が言われるよ。 何で先生に聞いちゃったんだろう。

 席に戻ると梓に心配された。「大丈夫」とだけ言っといたがまだ同じ顔をしてる。すぐに分かるさ。



 案の定、知ってしまった事実に笑っていたはずの皆が少し暗い顔して教室を出ていった。 掃除をしてる人も廊下で待っていた私達も。 その事実は1組だけでなく2組、3組にも知られていた。まさかこんな早くに範囲が決まるなんて。

 落ち込んでいた私達の前を4組の人達が通っていった。

 昨日のドラマがこうであーでかっこ良かったーっ!なんて、随分楽しそうにテレビ番組の話をしていた。

「ケッ、キャッキャキャッキャしやがって!あーっ!4組は簡単でしょうね!けどね、私達はテストが苦手でーすっ!!」

 丁度開いていた廊下の窓から特別棟に向かって声を上げる。

「ゆり……」

「茅野ー!何してんだー、うるさーい!」

「すんませーん!」

 中庭から聞こえる先生の注意を軽く流して窓を締める。

「寒いんじゃボケぇ!」

 連続で叫び声を上げた事で軽く息が上がっていた。

「ゆり……」


「はぁ……」

 高校生になったのに、こんなんでどうする茅野ゆり!頑張れ私!頑張ろう私!私はやれば出来る子!

「よっしゃぁ!やったんでーっ!」

「うおっ、何?!」

 思わず声に出してしまった考えをモモ達に話した。自分に言い聞かせるように言ったそれを聞いて、モモ達もやる気になったようだ。 て言ってもテストは5月下旬頃だから少し余裕だけど。

「やっしゃー!がーんばーるぞーっ」

「「「エイエイオーっ!!」」」

 3人同時に拳を上げた。


「そうと決まれば範囲の紙、写真撮ってくるね!」

「そーれはまだいい!」

 写真撮ってこようとスマホを持って教室に入ろうとしたら、朱音とモモに止められた。何で?どうして?Why?

「それはまだいい!テスト1週間前になったら撮ろう! それからでも遅くない!ね!朱音!」

「うんうん!そうだよ! それに何か、こんな早くに写真撮っても忘れちゃうよ!」

「……別に忘れないと思うけど?」

「いや!今日はまだ撮らなくていい!」

 さっきまで頑張るぞー!って感じだったのに何故か範囲の写真はまだいい、と言い張るモモと朱音。いきなりどうしたんだ。なんか見る限り汗が多い2人。

 そこに救世主が現れた。


「きっとまだ、テスト気分になりたくないんじゃない?」

 梓だった。

「どーいう事?梓」

「ギリギリまでテストの事は忘れたい、でしょ?」

 梓の言葉にモモと朱音が小さく頷く。

「そーいう事?もぉなんだよぉ、ビックリしたぁ~」

「でも一応、私は撮っとくよ」

 梓が言った言葉にじゃぁ私も、と便乗した。朱音とモモはそれを見ていただけだった。本当にテストが嫌いなんだな。

「テスト1週間前になったら写真送るよ」

「了解!よ~し、それまでは遊ぶぞ~!」

 それは意気込む事かな?

「そうと決まれば帰ろー」

 モモが帰るように促す。でも、私と朱音には用事があった。


「ごめん、少しだけ待ってて」

「軽音部に用があるから行ってくる」

「りょーかい!校門の所で待ってるね」

 モモの言葉に「うん」と言うと、朱音と一緒に急いで部室に向かった。




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