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58話「分かってるぅ!」




 少しずつ寒くなってきている今日この頃。

「ゆりー、今年もお菓子作らないのー?」

「えー?なんでー?」

 ソファに横になりながらテレビを見ていた私は、お姉ちゃんの問いを適当にあしらいながらテレビを楽しむ。


 日当たりが良いテレビ横のベランダには、みぃちゃんが横になっている。

「もうハロウィンの時期だよ?今月最後がハロウィンなの忘れたの?」

 ……しまった。完璧に忘れてた。

「……忘れてたのね」

「……すみません。ハロウィンなんてイベント私にはいらないのです」

 手身近にあったクッションを顔に埋める。

「はいはい。とりあえず、作るの作らないの。どっちよ」

「……作ります」

 そんなわけで私のお菓子作りが始まった。



 とりあえず作るものを決める。

「お菓子作り初心者のゆりには、一番簡単だとされるアイスボックスクッキーを作ってもらいます」

「ウッス!よろしくおねあいしゃーす!」

「なにその気合い」

 台所の飽きスペースにはアイスボックスクッキーの材料と思われる物が並んでいた。

「では、ここにアイスボックスクッキーを作る為の材料があります。が、全部の材料を指差しながら答えなさい」

「え、何そのクイズ形式」

 お姉ちゃんからの突然のクイズに戸惑いながらも答えていく。

「……砂糖でしょ。卵でしょ。 ココアパウダーでしょ。 ボールに乗った若干溶けてるバターでしょ。……真っ白な魔法の粉」

「ちょっと待て!砂糖と卵とココアパウダーは合ってる。 “ボールに乗った若干溶けてるバター”ってのも、まぁ合ってる。 最後のは何だ。“真っ白な魔法の粉”って何だ」

「あー……あれだ。アニメ『フェアリーローズ』で白魔法の1つ。 何の変鉄もない白い粉なのに、浴びたら体が痺れるっていう……」

「誤魔化すように架空の魔法を即席で作るな」

 お姉ちゃんに頭を叩かれた。痛い。折角頭をフル回転して考えたのに。



 頭を押さえていたら、お姉ちゃんが溶けかけてるバターと砂糖が入ったボールを差し出してきた。

「はい、混ぜて」

「りょーかい!混ぜます!」

 ボールと混ぜる器具を手にリビングのソファに座る。 隣に座ってきたお姉ちゃんもボールとゴム製の混ぜる器具を手にしている。

「……ちなみにさ、ゆり。今ゆりが使ってるその混ぜる器具の名前分かる?」

「……混ぜ混ぜ器」

「泡立て器だバカ」

 あちゃー。惜しい。


 テレビを見ながら5分程混ぜる。腕が疲れてきた。

「ねぇ、あとどれくらい混ぜんのー?」

 痛くなってきた腕を揉みながら、いつの間にか台所で別の作業をしているお姉ちゃんに問い掛ける。

「ちゃんと混ぜてんのー?」

「混ぜてるー」

 台所から出てきたお姉ちゃんは疑いの目で私を見てくる。

 腕に抱えながら混ぜていたボールの中身をお姉ちゃんに見せてみる。 お姉ちゃんはボールを手にして2、3回程混ぜる。

「ん、オッケー。じゃあ卵を入れて混ぜる」

 ちょっと待ってて。とお姉ちゃんは台所に何かを取りに行った。 戻ってきたお姉ちゃんの手には生卵が入った小皿。

「どうせゆりの事だから、また殻が入ってパニクるだろうから割ってきてやった」

「さっすがお姉ちゃん!分かってるぅ!」

「この生卵を十分に混ぜてから、少しずつボールに入れて混ぜて」

 そう言うと、小皿を私に預けて再び台所に戻っていった。

 まずは卵を十分に混ぜる所からか。


 卵を十分に混ぜる事は簡単に出来た。テレビを見ながら混ぜていると、台所からお姉ちゃんが何かを手にして戻ってきた。

「ゆりボール貸して」

 反射的にボールをお姉ちゃん側に出すと、良い匂いがする何かを3滴程入れた。

「わぁ、良い匂~い。なにこれ?」

「バニラエッセンス。バニラの匂いするでしょ」

 癖になりそうな匂いに、一瞬ボールの中身がバニラアイスに見えてしまった。



 混ざったであろうボールをお姉ちゃんに渡すと、本の少し混ぜた後に台所に行った。 次の工程の道具を持ってくるのだろう。

「よし。じゃあこの200グラムの薄力粉を全部ふるって混ぜる!」

 真っ白な魔法の粉は薄力粉だったのか。

「えー。多くなーい?」

「美味しいクッキーを作る為だ。頑張れ頑張れ」

 そう言うと、再び台所に戻っていった。仕方なく道具を手にして、少しずつ薄力粉をふるっていく。

「あぁ、腕痛い……」

 台所のお姉ちゃんには聞こえなかったようだ。



 何分経っただろう。やっと終わった薄力粉のふるいは、左腕だけが負傷して終わった。

「あーっ、終わったーっ!」

 ソファに体を預けて天井を見上げる。丁度お姉ちゃんもリビングに戻ってきた所だった。

「終わったよー」

 ボールを軽く押しやってお姉ちゃんに見せる。

「……終わったよーって、ふるいが終わっただけで混ぜてはないじゃん」

 ふるいが終わっただけでこんなに達成感があるとは思わなかった。もう左腕が動かない。


 私が先程までふるっていたボールをお姉ちゃんがゴム製の混ぜ混ぜ器――泡立て器で混ぜている。

「あ、ちなみにゆり、このゴム製の器具の名前は、“ゴムベラ”だから」

 まるで私の考え事が聞こえているかのように、教えてくれたお姉ちゃん。

「……うっす」

「ゴ・ム・ベ・ラ。言ってみ」

「……ゴムベラ」

 満足したのか、止めてた手を再び動かし始めた。

 ……ゴムベラって言うのか。


 よくこんなめんどくさい事を楽しそうに出来るな。

 お姉ちゃんに邪魔だと言われた私は、ソファに横になってテレビを見ていた。 時々、お姉ちゃんの方を見ては腕を揉む。

「よくこんなめんどくさい事出来るね~。あたしゃ疲れたよ」

「それは慣れてないからでしょ」

「お菓子作りなんて大変なだけじゃん。楽しい?」

「楽しいに決まってんだろ。何で楽しくないことを進んでやるのさ」

 分からない。お菓子作りなんて、めんどくさい工程ばっかり。 確かに混ぜるのは楽しいけど、ずっと混ぜてると腕痛くなるし。 さっきのふるう工程も腕が痛くなるし。


「お菓子作りなんてめんどくさい。とか思ってるでしょ?」

 お姉ちゃんに核心を突かれ、ビックリしてしまう。 私が有無を発言するよりも、お姉ちゃんが話を続ける。

「確かにめんどくさい時もあるけど、作り終わった時の達成感とか、食べてもらった時の感想とか聞くと嬉しいし。 最近ではさ、お母さんも少しずつ美味しいって言ってくれるし。 そういうの考えると、めんどくさい工程も苦ではないよ」

 私にもそう感じる時が来るのかな?



 テレビの大きな音によって話は番組の話となった。それでも、私は未だにソファに寝転んでいて、お姉ちゃんが代わりに捏ねている。

 流石に私がやらないとと思い、ソファに腰掛けてボールに手を掛ける。

「……何してんの?」

「私も捏ねる!」

「一通り捏ねたから待て。半分に分けたからココアパウダー掛けた方を捏ねて」

 軽く返事をすると、片方の生地にココアパウダーを掛けていく。その間に、私は手を洗ってソファに腰掛ける。

 少し待つと、ボールを私に寄せてきたお姉ちゃん。


 私が捏ねていると、お姉ちゃんは残りの生地を4等分に分ける。

「ゆり、捏ねた後に4等分にしといてね」

 捏ねながら返事をする。

 暫く捏ねる事に集中していると、視界の端で4等分に分けた生地を細長く伸ばしているお姉ちゃんがいた。

 1分程無言で眺めた後、再び捏ね始める。



 何とか捏ねる事が出来た私に、茶色に染まった生地を4等分に分けた。が、お姉ちゃんみたいに細長く伸ばすのは難しい。

「おねーちゃーん!やってー!」

「自分でやれ」

「……おねーちゃーん!」

 やっと手伝ってくれたお姉ちゃん。お陰で次の工程に行けそうだ。


 黄色と茶色が交互になるように積むとラップで包んだお姉ちゃん。 1つを手にして台所に向かうお姉ちゃん。 後を追うように、私も残りの1つを手にして台所に入る。

「冷やすのか。……だから“アイス”なんだ!」

「今更?!今までなんだと思ってたんだよ……」

「……さぁ?」

 あれ?じゃあ“ボックス”はどこから来たんだ?

「“アイスボックス”ってのは冷凍庫から来てんだよ」

「へー!そうなんだ!」

「冷凍庫で冷して作るクッキーだから、アイスボックスクッキーって言うの」

「……知んなかった」

 勉強になったね。と笑いながら、ラップに包んだ生地を空いてるスペースに置く。

「何分冷やすの?」

「10分か15分くらいかな」

 お姉ちゃんは、その間に使った道具を洗ったり、焼く為の準備を施す。何もする事がなくなった私は、リビングに戻ってソファにダイブする。

 テレビを見て待とう。



 テレビを着けてるにも関わらずスマホを弄っていた私は、お姉ちゃんからの呼び出しで起き上がった。

「なーにー?」

「……切るぞ」

 台所に行くと、包丁を手にした無表情のお姉ちゃんがいた。

「……殺さないで」

「何言ってんの?冷やした生地を切るよって言ってんの」

 よく見ると、まな板とその上には生地が置いてあった。

「やー……包丁怖いんだよねー」

「そんな事言ってると一生料理できないよ?」

「……しなくても良いと、思うんだよね」

「いや、しろよ」

 お姉ちゃんに頭を叩かれるのは本日2回目。


 お姉ちゃんによるお手本を見るが、やっぱり包丁は怖い。懐かしい記憶が蘇る。

 あの時は、自分自身何を思ったのか分からないけど、本物の包丁を使っておままごとなんてするもんじゃない。我ながらバカだ。

 お姉ちゃんは、冷やした生地をクルクルと回しながら切っていく。冷して固めたにしては意外と切れる生地。

「じゃぁ頑張って」

 そういうと包丁を手渡してくるお姉ちゃん。仕方なく包丁を手にして生地の前に立つ。

 ……包丁で何かを切るときは猫の手だとよく言うが、続けて切っていくと、いつの間にか左手は猫の手ではなくなっている。これは何の手だ?

「左手の猫どこ行った。それじゃただ添えてるだけだろ」

 いつの間にか後ろから覗いていたお姉ちゃん。

「今ここに猫戻ってきたから!ビックリさせないでよ!手ぇ切っちゃうでしょ!」

 左手を猫の手にするように集中すると、今度は右手が思うように動かない。てか切れない。



 その後、呆れたお姉ちゃんによって代わってもらい、私はレンジが170度に予熱されるのをじっと待った。



 お姉ちゃんによって切られた生地は、綺麗に並べられてレンジの中に入っていった。焼けるまで13分経つという。

 私は、再びリビングに戻ってソファにダイブする。

 クッキーの生地をたった5枚程切っただけでこんなに疲れるとは。

 やっぱり私には理解出来ない。



 スマホを弄っていたお陰か、13分経つのは意外と早かった。焼き上がる数分前には良い匂いがリビングにまで漂ってきて、途中お姉ちゃんと一緒にレンジの中身をそっと覗いてはお腹から音がなった。

 何故か取り出してから放置しておくお姉ちゃんを不思議に思い質問してみると、「焼き上がったばかりなんだから熱いでしょ」と当たり前のように答えてきた。


「完成してから気付いたけど、ゆりは誰にあげるの?」

 味見と生じて2、3枚口にするとお姉ちゃんが質問してきた。

 いつメンの3人には絶対でしょ。クラスで仲良い子にもあげたいし、一応幼馴染にもあげておいた方が良いのかも。

「大体あげる人は決まってるけど、“トリックオアトリート”って言われたらあげるよ」

 お姉ちゃんは暫く考えて私に確認してきた。

「……90枚はあるし、足りるよね?」

「足りる足りる!」

 90枚あるのなら、少し余るくらいじゃないかな。


 その後、5枚程に分けて子袋に積めていく。可愛いキャラクターが描かれている子袋は、この間お姉ちゃんが買ってきた物の余りだ。


 お姉ちゃんが言っていた“達成感”は分かった気がした。

 私が渡したお菓子を美味しいって言ってくれると嬉しいな。





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