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56話『勝負だドーン!』



 文化祭が無事に終わり、1週間が経った。教室の背面黒板に貼っていた壁新聞も取れて、今は大事に畳んで仕舞われた。

 そしてこの1週間では、体育の授業でマラソンが始まったり、冬服絶対着用となった。 完全に冬である。


 寒がりの私はこの時からある戦いが始まる。 それは、“マフラーを使わずに、いつまで髪の毛だけで防寒出来るか”という、絶対やる人が少ない戦いだ。

 寒さについてはまだ大丈夫なのだが、最近イライラすることがあった。 知らない先輩に告白された事だ。


 文化祭が終わってからというもの、何故かこの学校で告白が沢山されているらしい。 噂話大好きな朱音が、どこから情報を貰ってくるのか定かではないが、よく“また告白した人がいたんだって!” とか、“2年生の人が3年生に告白したらしいよ!” など話してくるのを適当に流していた。

 私にはどうでもいいと流していたが、一昨日、私も見たことのない2年生の先輩に呼び止められ、購買付近で告白された。 先輩には悪いが、即効お断りをした。


 告白された翌日、いつメンとたまたま一緒にいた谷さんにその事を話したら、何故断ったのかと怒られた。 解せぬ。

 だって普通、見ず知らずの人にいきなり呼び止められて告白されても断るしかないだろう。 ましてや、時間はお昼過ぎで、生徒は疎らにいた所で告白されたのだから、顔がイケメンでも絶対断る。


 スマホで調べた所、最近は生徒が周りにいても告白する事があるらしい。 何でも、周りに人がいることで断りづらくしているとか。

 私はそんな罠に引っ掛からないぞ。

 私の理想の告白シーンは昔から変わらず体育館裏なのだ。 そこは譲れない。


 私がイライラしたのはこれだけが原因じゃない。 私に告白してきた男子生徒が別の人に告白して成功した、と聞いたからだ。別に嫉妬ではないぞ。

 男なら1人の女を落とすまで諦めるな、と言うことだ。 私自身を相手に本気になられても困るが、男なら1度断れたとしても諦めずに押すのが常識だろう。



 今日はそんな私のイライラを解消しようとしてくれる朱音と遊ぶのだ。 モモは文化祭終わりにバイトと始めてしまい、今日が初日らしく早く帰っていってしまった。 梓は急遽部活が入り、つい先程別れたばかり。

「そろそろ行きますかぁ?」

「そろそろ行きましょうかぁ」

 深く椅子に座っていた私は「よっこいしょー」とリュックを手にして立ち上がる。

「ゆりおばあちゃん大丈夫ぅ?」

「いやぁ最近腰が痛くてねぇ…」

 鼻声で腰を痛がるおばあちゃんを演じながらリュックを背負う。

「ゆりおばあちゃんは腰が痛いのかぁ」

 背負ったはずのリュックを手にした朱音は私の腰を軽く叩いてきた。

「あーそこそこっ」

 意外と気持ちよく、朱音にもう少しお願いしようかとすると、どんどん力が入ってきているように感じで、叩く場所も少しずつずれてきた。

「おぉおぉおぃっいってぇよ!」

 おばあちゃんを演じようにもマジで痛くて朱音から逃げた。


 グラウンドから聞こえてくる音や声をBGMにしながら校門を出る。

「もぉ、おばあちゃん逃げちゃ駄目だよぉ」

 笑いながらも、未だに介護員を演じている朱音に、もう終わりだと告げるとブーイングが出てくる。

「てか、さっきの絶対狙ってたよね?」

「あ、分かった?」

「分かるわ!」

 駅への道のりを自転車を押しながら朱音と喋る。

 道路を挟んだ向こう側を歩いてる人は犬の散歩のようだ。トイプー可愛い。 まぁ犬より猫の方が可愛いがな。

「で、今日どーする。タイテツやる?マルカーやる?まさかのゾンビいっちゃう?」

「……全部やろう」

 私の答えに驚いている朱音。



 最寄り駅まで着くと、目的地の建物が目に入る。

「ホントにゾンビもやっちゃっていいの?あれだよ?あの襲ってくる奴だよ?」

「だからいいって言ってんじゃん」

 電車に乗ってる時からしつこく聞いてくる朱音に、怒り通り越して呆れて笑ってしまう。

「ほんっとーにいいんだね?」

「はいはい、いいよ」

 ああいうのをやってこそ、本当にイライラが解消するかもしれない。



 やはり制服来ている子が沢山いた。見たことのある制服の子や、見たことのない制服の子もいる。

「どれからやるー?」

 ゲームの音やいろんな人の声で五月蝿い中、いつもより声を張って訊ねてくる。

「朱音のやりたい順でいいよ」

「よっしゃあ」

 隣を歩いていた朱音が突然向きを変えて歩いていく。

 朱音の後を着いていくと分かった。

「ゾンビからやろう!」

 ちょうど誰もやっている人が居なかった。



 やはり怖かった。

「いやぁー、爽快感ハンパねぇ!」

 どこがだよ。

「次タイテツやろ! タイテツ!」

 朱音に腕を引かれて歩く中、周りを見ると子供も増えてきていた。


 タイタツ前に着いた私はリュックから取り出した財布から、100円玉を1つ取り出す。

「今日どっち?アニソン?ボカロ?」

 100円玉を投入口に入れようとしていた朱音は動きを止めて暫し考える。

「……じゃあボカロ!」

 投入口に100円玉を入れた朱音はバチを手にして意気込んだ。


 ボカロをあまり知らない梓とモモの為に、いつメンで来たときはアニソンやJ-POPばかりなのだ。 しかし今日は私と朱音の2人だけ。その為か、朱音は楽しそうに曲を選んでいる。

 梓は知らないが、モモは1曲だけ知っているらしい。あの有名な演歌歌手までもが歌った、ボカロといえばこれだという曲のみ。

「これ知ってる?」

 朱音に訊ねられた私は首を縦に動かす。

「“難しい”選んでよ!」

 えー!とブーイングをするも、私は“難しい”を選択していた。

「勝負ね!」

 バチで肩を軽く叩きながら朱音がドヤ顔を噛ましてきた。

 赤い顔のキャラクターが『いざ!勝負だドーン!』と盛り上げていた。




 結果なんて分かっているだろう?私の勝ちだよ!

「ゆりって意外とやるよね」

 3曲やって、3曲とも私が勝ったのだ。

「まぁね、家でよくやってるから」

 前を歩いている朱音が見えない事を良いことに、私はドヤ顔で呟く。

「マルカーも勝負しよう!」

 先を指差しながら私に向き直る朱音。前に私に勝ったからなのか、顔がニヤニヤしている。

「言っとくけど、あれから私はマルカー特訓したから」

「え」

 マルカーに歩み寄っていた朱音は私の一言に動きを止める。

「ほらほら、早く行かないと他の人に先越されちゃうよ」

 朱音の腕を引いてマルカーの席に座る。

 マルオが画面を走っていた。



 

 史上初の大接戦だった。

「危なかったぁ~……」

 朱音がリュックを片手に呟く。

「くっそ……」

 私は朱音に聞こえない位の小さな声で悔しさを表現する。

「まぁ、特訓したとしてもあたしにはまだまだだね」

 この騒がしいゲームセンターで呟いた小さい声は、朱音には聞こえていたらしい。ドヤ顔がムカつく。

「さて……次どうする?」

 プリクラコーナーの手前で止まった朱音は、振り返って訊ねてきた。

「明らかに“プリクラ撮りたい”って感じだよね」

「あ、分かった?」

「分かるわ!」

 何故か最近、朱音が考えている事が分かる。




 プリクラを財布に仕舞って、ゲームセンターを出る。スマホで時間を確認してみたら5時40分を差していた。

「そろそろ帰っか」

「そうだね~」

 エスカレーターに向かって歩き始める。

 平日でも5時を過ぎれば人が増えていく。大きなショッピングモールだから仕方ないが、数時間前まではそこまで人は多くなかった。


「ねぇねぇ! 軽音でボカロ弾かない?」

 エスカレーターで1階に降りてる最中に、朱音が後ろから顔を覗き込んできた。

「別にいいけど、私初心者だよ? 初心者で弾けるやつあるかな?」

「探せばあるって!」

 暇な時にはオークマンで色んなボカロ曲聞いてるけど、出来そうなやつがないように感じる。

「ほらっ、確かここの2階か3階になかったっけ?楽器店」

 本屋の近くにあったはずだから3階だ。

「楽譜も売ってると思うし、あそこで探そうよ!」

 1階には大きなテレビがあり、その前にはテーブルと椅子がセットで何個か置かれている。

 楽器店はこことは反対方向にあり、結構な距離を歩くことになる。

「……今から?」

「また来たときに!」

 朱音は楽しみなのか、大きなテレビの前をスキップで横切って出入口に向かう。


 外はすっかり暗くなっていた。マフラーをしていない首元は、冷たい風によってスースーする。風があった今日は昨日より寒い。

「ゆり、1人で帰れる?」

「いや、帰れるから」

 イタズラっ子のように笑った朱音は手を降りながらその場から去っていく。

 軽く手を降り返すと、「ばーいばーい!」と大声を出す朱音。近所迷惑だということを考えない朱音がある意味勇者に見えた。





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