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52話「俺が良いと思う人ー!」





 4時間目の体育で頑張ってバドミントンやったのが駄目だったのか、はたまた朱音のボケにツッコミとして頭を叩き過ぎたのか。

 いやでも、朱音は頭を痛がってる様子はないし、バドミントンだって朱音やモモよりやってはないし。

 どうしてか手首が痛い。


「ごめん、やっぱり保健室行ってくるわ」

 どうしても気になってしまった私は、弁当を早めに食べ終えてモモ達に告げる。

「やっぱり痛い?」

「うん、分かった」

「ゆり、一緒に行く?」

 モモと朱音が優しさを振り撒いているのに、唯一冷たい態度を取る梓。

「ちょっと力入れると痛い位だから大丈夫!保健室ぐらい1人で行けますぅ~」

 朱音の問い掛けにちゃかしながら教室を出ていく。



「しつれーしまーす!」

 保健室にはシロ校に入って2回目の入室だ。1回目は入学してすぐの身体測定だった。

 室内を見渡したが先生はいない。ベッドを使っている生徒は……

「……いた」

 咄嗟に口を塞ぐ。

 カーテンが閉まっていて影しか見えないが寝ているみたいだ。

 具合悪いんだよね。煩くしないように先生がくるのを待っていよう。

 改めて周りを見る。保健室や病院って独特な匂いがするから嫌いだ。消毒液なのだろうか。 きっとこの匂いを好きな人はいないはず。

 小学校の頃はよく転んだり、熱出たりして保健室に連れていかれてた。低学年にはテスト中に吐いた記憶がある。 あの時の記憶は意外と鮮明で、吐き気で辛い中、前後左右の席から悲鳴や心配する声が聞こえてきていた。

 小学校高学年になると、身体測定の時以外には訪れる事がなかった。

 中学も同様で、身体測定以外では……いや、自転車通学だったから転ぶ事が増えたんだ。

 まぁ、転んだ事以外に保健室に行く私用はなかった。もともと体は頑丈な方だったから、病気は小学校低学年までだ。

「あれ?」

 ドアの開く音と共に女の人の声が聞こえた。

 待っていた養護教諭だ。


「手首を痛めちゃったのかー」

 事情を話すと手際良く手首を固定する。

「もー、バドミントンし過ぎも危ないわー」

 具合悪い人が寝ているにも関わらず、声を潜める事もなく話す養護教諭。

「先生、静かにしましょうよ」

「え?なんで?」

 あの寝ている生徒は先生が居ないときに無断でベッドを使っているのだろうか。

「だって、ベッド……」

 ベッドを指差しながら先生に話そうとしたら先生が笑いだした。

「ふふっ、大丈夫よ、仮病だから」

 えっ?

「ちょっとセンセー!何で言っちゃうのさー!」

 私が声を上げるより先に、閉まっていたカーテンが勢い良く開かれ男子生徒が出てきた。

「あら、だってそうでしょ?」

「ここは最後まで騙すのが鉄則だろー!」

「保健室では静かにね」

「センセー卑怯!」

 寝ていた生徒はとても元気そうに先生と話す。


「よくここでサボってるの」

 ポカーンとしていた私に先生が説明をしてくれる。

「まぁたサボったのよ。ここはサボり室じゃありませんって言っても来るのよ」

 困ったわぁ。とあまり困ったように見えない先生。

「保健室のベッドって俺にとっては丁度良い硬さなんだよ!君も寝てみ!」

 名前すら聞けてない男子生徒に手を引かれベッドの脇まで連れられる。

「こーらっ、彼女は手首を怪我して来たのだから寝る必要ないでしょ?湿布貼りましょ?」

 先生の言葉にチッと舌打ちをする男子生徒。



「この湿布って臭くなるやつですか?」

「そうよ?臭くないやつがいい?」

「お願いします」

 恥ずかしがりながらもお願いすると、すぐさま変えてくれる先生。

「あー、湿布ってくせーもんなー!」

 男子生徒はうるさい。

「ネット包帯はする?」

「ネット……包帯?」

 普通の包帯とネット包帯とは何が違うのか。

 ネット通販で買った包帯なのか。

「これよ」

 先生が出したのは網のようになっているやつ。

「あ、見たことある!ネット包帯っていうんですね、これ」

 ネット包帯をお願いすると、湿布に被せるように手首に通す。

「はい、これで大丈夫!あと少しで5時間目始まるわよ」

「わっホントだ!ヤバい」

 5時間目まであと1分だった。

 先生に礼をして急いで教室に戻る。




 5時間目始業のチャイムと同時に教室に入ったので、5時間目が終わるとモモと朱音に心配された。

「ゆり、大丈夫だった?」

「てかゆり暑くないの?」

「私見てるだけで暑くなってきた」

 唯一普通に接する梓は優しいのか、冷たいのか。

「湿布貼ってもらったから大丈夫だよ」

 心配そうに眉を下げるモモに笑顔で言うと、少し穏やかになった気がする。

「でも利き手でしょ?版書写し終えた?」

「大丈夫!ちゃーんと写し終えた!」

 笑顔で答えるとモモも笑顔になる。

 しかし暑い。

「駄目だ、あたしゃあ暑くて溶けそうだよ」

「朱音!駄目だ、寝るなぁ!」

 私とモモが話してる横で朱音と梓がコントをしている。

 寝るなぁ!って……それって雪山で遭難した時にいう言葉じゃないか?


「でもホントに暑くないの?ゆり」

「いや、暑い」

 ブレザーを来ているのには理由がある。

「別に隠さなくても大丈夫じゃない?」

「いやでも、湿布貼ってる所とか見られたくないじゃん?」

 湿布貼ってるのを見せて、手首痛いですよアピールしてると思われたくないし、何より湿布貼ってるのを見られて恥ずかしい。

「だからってブレザー着て隠すのは…」

 偶々朝寒くてブレザー羽織って登校してきたのが良かった。



「今日はこの時間を使って文化祭の事について決めないといけないのがあります」

 折角用意した教科書を閉まって先生の次の言葉を待つ。

「文化祭実行委員会と出店はこの間決めたでしょう?今日は女装コンテストと男装コンテストの出場者を決めます」

 先生の言葉に教室内がざわつく。


「ゆりとかいいんじゃない?背ぇ高いし」

「梓の方がかっこいい仕草とか知ってるんじゃない?」

 狙うは優勝。つまりめちゃくちゃかっこいい格好とめちゃくちゃかっこいい仕草が出来る梓が出るべきだ。

「ねぇねぇ!梓が男装したらめちゃくちゃかっこいいと思うんだけど!」

「ほら梓、モモもこう言ってるし」

 モモはいつだって私の味方だ。

「ねぇねぇ!ゆりが男装したらめちゃくちゃしっくりくるんじゃない?」

「ゆり、朱音がこう言ってるけど?」

 朱音は私の敵のようだ。


「まず女装コンテストから決めます!」

 いつの間にか学級委員の坂本君と林さんが教卓に立っていた。

「誰かやりたい人や推薦したい人はいますか?」

 坂本君の問い掛けに誰も手を上げずに話し合いをしている。

「聞いてますかー!」

「はーい!」

「はい山上!」

「俺が女装する!」

「却下!誰かいませんかー」

 おぉい!何でだよ!と坂本君にツッコミを入れている山上。

「はーい!」

「はい畠山!」

「引田君が良いと思いまーす!」

 畠山君の言葉にある男子生徒が立ち上がる。推薦された引田君だ。

「なんでだよ!さてはお前この間の仕返しか?!」

「あー、引田かー、良いと思います!」

「まじでなんでだよ?!俺が女装して優勝なんかしてみろ!近くの高校生から笑い者だよ! 女装コンテストで優勝したってモテないんだよ!誰も俺を彼氏にしてくれねぇんだよー!」

 なんか、引田君だけ別問題になってない?


「今のところ引田君しかいないんですけどー」

 引田君で良いですかー?と気だるげに皆に同意を述べる坂本君。

 等の本人の引田君は泣いてるのか、寝ているのか。机に体の伏せて動かない。

「はい!畠山君が良いと思います!」

 と思ったら立ち上がって畠山君を推薦する。仕返しか。


「引田君と畠山君とー、他にいますかー!」

「はい!」

「おぉ卜部!」

「大塚君が良いと思いまーす」

 卜部の推薦に教室内がさわつく。等の本人の大塚君は挙動不審になっている。後ろの席の朱音がちょっかいを掛けている。

「はい!」

 と思った大塚君も反撃に出た。

「卜部君が良いと思います!卜部君は顔立ちも整ってるし、女顔で可愛いし、背も低いので女装したら一番可愛くなると思います!」

 大塚君の考えに教室内がおぉ!とざわつく。


 反撃を受けた卜部は、先程の引田君のように机に体を伏せている。

「候補は引田君と畠山君と大塚君と卜部君の4人!他にいませんかー?」

 坂本君の声は最後列の私や梓に聞こえているはずなのに、誰も答えずに話し合いをしている。

「多数決で決めまーす!」

「はーい!俺が良いと思う人ー!」

 坂本君が言うより先に山上が立ち上がって皆に同意を求める。しかし誰1人手を上げるより人はいない。ましてや、山上の発言で教室内が一気に静かになった。


「えっと…引田君が良いと思う人ー」

 7人が手を上げる。その中には畠山君がいた。

「じゃあ畠山君が良いと思う人ー」

 9人が手を上げる。その中には引田君がいた。

「大塚君が良いと思う人ー」

 9人が手を上げる。その中には卜部がいた。

「卜部君が良いと思う人ー」

 9人が手を上げる。その中には大塚君がいた。


「……もう1回やってもいーすかー」

 あまりにも揃いすぎたせいか、坂本君がもう一度多数決を取る。

 しかし、やっぱり畠山君と大塚君と卜部が同じ人数になってしまう。勿論私達もちゃんと手を上げたし、学級委員の2人も手を上げていた。

 つまりは――

「えっと、畠山君と大塚君と卜部君、じゃんけんで決めよう!」

 坂本君の言葉に再び教室内がざわつく。応援する声も聞こえる。

「勝った人が女装コンテスト出場決定だから」

 男気じゃんけんみたいだ。




「次は男装コンテスト出場者を決めます」

 今まで版書していた林さんが坂本君と変わって司会をする。

「誰かやりたい人や推薦したい人は挙手してください」

 誰も挙手しない。

 さっきまで梓を推薦しようと考えていたが、いざ推薦しようとするとちょっと勇気がいる。

「はい!新垣さん」

 梓?!いつの間に!

「私は茅野さんを推薦します。背も高い方だし、髪も最近短く切ったのでロン毛男子になってかっこいいと思います」

 ロン毛男子ってなんぞ?


「茅野さんね…他に誰かいませんか?」

「はーい!はいはい!」

「はい、会沢さん」

「翔がいいとおもいまーす!」

 会沢さんが推薦した“翔”とは、霧山翔さんだ。名前からして男子だと思うが、会沢さんとは仲良しでいつも一緒にいる女子生徒。

「ふむ…会沢さん、霧山さんを推薦する理由は?」

「結構日焼けしてるから男装したらかっこ良くなると思うんだー!」

 会沢さんは男装した霧山さんを思い浮かべているのか、黒板の方を見ながら含み笑いをしている。

「リサー、誉めても何も出さねぇぞー?」

 嬉しそうに話す霧山さんの語尾にはハートマークが付いてそう。


 勇気を振り絞って私も挙手する。

「はい!茅野さん」

「私は新垣さんを推薦しまーす」

「ほぉ…理由は?」

「梓は男子に少し憧れている部分があって、普段の仕草に私もキュンとする事があるから、です!」

「女子がキュンキュンする仕草を知っている、と…」

 席に座ってから隣の梓を見てみると、こちらを睨んでくる梓と目が合う。私がニヤニヤ笑うと梓は前に向き直る。


「他に誰かいませんか?」

 林さんが教室内を見渡す。釣られて私も見渡すが誰も挙手する人はいない。

「じゃあ、3人の候補から多数決で決めます」

 再び教室内がざわつく。私は梓に票を入れると決まっている。

「茅野さんがいいと思う人!」

 疎らに挙手する人がいる。その中には梓と朱音も挙手していた。

「霧山さんがいいと思う人!」

 私より挙手されている。この時点で私の男装はなくなった事にホッと息を吐く。

「新垣さんがいいと思う人!」

 霧山さんと同じ位挙手されている。林さんも数えるの大変そうだ。


「えっと、男装コンテストに出場するのは新垣さんに決まりました!」

 林さんが拍手する。釣られるように他の皆も拍手する。私は、わざと梓の顔近くで拍手をする。ニヤニヤしてしまうのを押さえるが無理だった。





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