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51話「10点先取ね!」




 朝の挨拶が飛び交う中、私は目を擦りながら席に着いた。


「――茅野ゆりーっ!」

「はいっ!提督ですかっ?!」

「……何言ってんの?」

 怪訝な表情の梓とキョトンとしているモモ。学校でアニメの夢を見るのは危ない、と私は悟った。


「……眠いの?」

「あ?」

「すみませんっ」

「……何で謝ってんの?」

 朱音の問いに答えようとしたが、何故か謝られた私はそのまま伸びをする。

「今日の体育でさ、バドミントンやろうよ!」

 思い出したように提案する朱音はイキイキとしている。

「いいけど……何で?」

「クラスマッチの練習!」

 今月末に控えているクラスマッチに燃えているらしい。

「一振りしようぜ!」

「……なんか別の言葉に聞こえたのは気のせい?」

「気のせい!」

 朱音のエアー素振りが机の角に当たった。痛そうに手を擦る朱音に鼻で笑ってやった。



「そういえば3組と4組は女装コンテスト出る人決めたらしいよー」

 最近は文化祭の事はがりを話す朱音。それだけ楽しみなんだろうけど、少しウザくなってきた。

 文化祭の前にクラスマッチがあるのをお忘れなく。

 今朝買ってきたばかりのアニメ雑誌を捲りながら思い出したようにいう朱音は、ニヤニヤしながらアニメキャラを眺める。

「女装コンテスト?」

「……何それ」

 何も知らないらしいモモと梓に朱音は驚いて目を見開いている。

「女装コンテストと男装コンテストがあるんだよ!知らなかった?」

「そもそもうちら1年生で、シロ校での文化祭初めてなんだけど」

 逆に何で知ってんだよ、と朱音をジロリと見る梓。

 ちなみに、梓が言う“シロ校”とは白ヶ峰高校の略だ。


「3組のカッシーが決まったーって言って、そこであたしも知ったんだもん!」

 ふーんと興味無さげに反応する梓。

「ゆりは?知ってた?」

 音楽を聴いていた私は、朱音の質問に片耳のイヤホンを外す。

「うん、お兄ちゃんとお姉ちゃんがシロ校だったからね」

 答えた所で朱音からブーイングが飛んでくる。

「知ってたならもっと早く教えてよー! 男装コンテストとか面白そうじゃん!」

 知ったら朱音、絶対煩くなると思った私は正しい。

「ごめんねー」

 軽く謝ると朱音はアニメ雑誌に目線を戻す。



「でもさー、うちのクラスで女装似合いそうなやついるかな~」

 アニメ雑誌は飽きたのか、スマホをいじりだした朱音は教室全体を見渡しながら呟く。

「ん~、どうだろうね~」

「梓全然興味ないでしょー?」

「うん興味ない」

「はぁ、分かってないね~こんな楽しそうな企画を」

 何故か上から目線の朱音は女装コンテストについて語り始める。

「女装ってことは、男子が女子の格好をするって事! つまり男子のあんなとこやこんなとこが垣間見える貴重な姿なのだ!」

 アニメのナレーションが技の説明をするときのように聞こえた。

「分かる?男子特有のあの筋肉質な足がスカートの下にあるんでっせ?! 違和感半端ないその絵面を思い浮かべて!そして思いっきり叫んで! すね毛隠せー!」

「…女装の何が朱音をそんなにさせるの?」

 梓、いいツッコミだ。


 



「見て見てー!」

 2時間目終わり、朱音が紙を手に私の席までやってきた。隣の席の梓も教科書を仕舞う手を止めて朱音に興味津々だ。

「山上が女装したのを想像して描いたの!」

 私の机にバァンと音を立てながら紙を見せてきた。

 “山上が女装したのを想像して描いたの”?何言ってんだコイツ。

 心の中でコイツ呼ばわりの朱音は、目をキラキラさせて私を見てきた。朱音の目からは、私の絵を見て!と語ってくるようだ。

「……山上だねぇ」

「……山上だ……」

 朱音の絵を見た私は率直に感想を言う。隣の梓も同じ事を言う。

 確かに山上だ。眼鏡が描かれてるし、顔の黒子の位置も同じだ。坊主なのも同じだし、出っ歯なのも同じ。

 唯一違う点は服装だ。山上は男だ。男の服装としてスカートを履くことは間違っている。 女装したのを想像して描いたのだから間違ってはないが、キモい。 というか不気味だ。 

「良くこんな姿想像して描けたね」

「いや、我ながらキモいなと思って描いたよ」


 山上の女装姿絵をようやく起きたモモにも見せる。

「……なんか……この山上、美化されてない?」

 声を上げて笑うと思っていた私は、モモが言いたそうにしていることを最後まで待つ。と同時私達が笑ってしまった。

「たっ、確かにっ」

「モモっ、よく山上の顔見てるんだね~っ」

「……っ、……っ」

 梓は声を上げて笑いそうなのを耐えながら、朱音の言葉に頷いて同意を示している。

「いやだって、山上もっとブサイクじゃん」

 同意を求めてくるモモに悪気は無さそうだ。

「あとさぁ、何か足りないと思ったけど、足の毛がないのが違和感」

 モモが言ってるのはすね毛の事だろう。

「あー、すね毛ね」

 ツボにハマっていた梓がさも何事もなかったかのように話を続けた。

「……こうでしょ!」

 机に転がっていたシャーペンを手に朱音の絵にすね毛を描き足すモモ。

「ヤベェッ、面白いっ」

「アッハハハッ、ハッ、ハハッ」

「二人とも、笑いすぎっ…」

 声を上げて笑う朱音と私に注意する梓だが、梓も笑っている。

 すね毛を描き足したモモは、これがさも当然だとばかりにドヤ顔をする。

 ツボにハマってしまった私達は、授業始めのチャイムで我に返って自席に戻る。





 3時間目も終わり、一斉に体操服に着替える。隣の2組の教室からも騒ぎが聞こえてきた。


「各自クラスマッチの練習しろよー!」

 案の定、体育教師はやる気無さそうに指示を出す。

「とりあえず1回ペアになってやろう!」

 モモは素早くラケットと羽を用意すると、ペア勝負を提案する。 モモが私と腕を絡めてきた事から、私とペアになりたいと言っているようだ。

「じゃあ私と梓、モモとゆりね」

 モモに選ばれた事にドヤ顔をしていると体育館の隅に移動し始めた。

 特にここでこれをやれとは言われていないので、皆が好きな所で練習を始める。 サッカーに出場する男子達が体育館全体を使ってやり始めた為、当たらないように距離を取る。


「先に10点取った方が勝ちね!」

 モモの合図で羽を手にしていた梓が打ち上げる。




 勝ったのは私とモモ。

「はぁはぁ……よっしゃぁ……」

「イエーイ……はぁ、はぁ……」

 息を荒くしながらも、ハイタッチをした私とモモ。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

「くっそー……負けたー……」

 一方では、負けた梓と朱音が床に座り込んで悔しそうにしている。

 この通り、私達の白熱な戦いが目に見えて分かるだろう。こんなに息を荒くしているのだから。

「……きゅ、休憩しよう……」

 私が床に座り込むと横にモモが座り込んでくる。

「あつい……」

「あついねー……」



 梓は死んだかのように動かない。休憩から約10分程だろうか。一向に動こうとしない梓。

「おーい、あずさー……生きてるかー」

「……ふ」

「あーずさー?」

「……い……」

「あーずーさーっ!」

「…………」

 動かない。屍のようだ。


 休憩から約15分。梓も少しずつ動き始めた。

「モモー、やろうぜー!」

「よーし、やったるー!」

 もう元気になったらしい朱音とモモは、ラケットを手にして立ち上がる。

「10点先取ね!」

「ゆりー、数えといてー」

 モモからのお願いに了承すると、朱音が羽を打ち上げる。下投げで打ち上げた羽は綺麗な放物線を描いてモモの手前に落ちていく。

 素早く反応したモモは軽々と打ち返す。モモが打ち返した羽は朱音の頭上を軽く越えて壁ギリギリを落下していく。

 驚いた朱音は急いで駆け寄ったが、振ったラケットに羽は当たらなかった。

「イエーイ!」

 モモは拳を突き上げて勝利のポーズをする。

「朱音ー、取られちゃったねー先制点」

「ぐぬぬ……」

 体育の授業、残り20分。モモ対朱音の勝負。モモの先制点から始まった。

 さて、どちらが勝つのか――。


「よくあんなに動けるよね」

「おー、梓、大丈夫か」

「なんとか」

 壁に背を預けて座ってる私と梓。その前ではモモと朱音が楽しそうにバドミントンをやっている。

「ある意味モモも朱音もお化けだよね」

「お化け?」

 私の問い掛けに頷く梓はそのまま話を続ける。

「体力お化け」

「う~ん、私と梓が体力ないだけかもよ」

「変だな、私バレーやってたのに……」

 お互い苦笑いをする。


 体育の授業、残り10分。体育の授業は少し早く終わらせるのが基本。実質残り10分だが、遊べるのはあと5分。

 モモと朱音の対決ももうマッチポイント。ラリーが続いているが、これで点を取った方が勝ち。

「ッラシャァ」

「ふいやぁっ」

「っシャイッ」

「あいやぁっ」

 緩かったラリーが急にスマッシュになって、交互から変な叫び声が聞こえてきた。

「……変な叫び声」

 梓の呟きは朱音の叫び声によって消えた。





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