50話「ローマスジェームス・聡司」
10月中旬に開催予定の文化祭。私達のクラスは焼きそばを作ることにした。
山木さんのお母さんが麺を提供してくれるらしく、クラス一同は山木さんに感謝する。
「えーっとぉ、次はクラスマッチの競技決めまーす」
学級委員の坂本君と林さんが黒板にクラスマッチの競技を書いていく。
総合学習の授業である今は、2時間授業で文化祭とクラスマッチについて話し合う時間だ。
つい先程決まった文化祭についてあちこちで話し合っている。自由に席を移動していいみたいで、仲のいい子同士が束になって座っている。
「ゆり、何やる?」
周りを見渡していると、隣から名前を呼ばれる。いつの間にか私の前には朱音が座っていて、その隣にはモモが座っていた。
「んー、ドッジボール、バドミントン、バレー、リレー」
黒板に書かれている競技を読み上げる。他にもサッカーが書いてあるが、参加出来るのは男子だけらしい。
「まずリレーはなしだね」
「えーっ」
頷く梓と朱音に対して、モモだけがブーイング。
「やろうよー!」
「やらない」
「なんで!」
「疲れる」
「それ言ったら全部そうじゃん!」
私、当日休もうかな……。
「私バレーやるわ」
私とモモが口論で疲れてる中、梓が宣言する。
「そういえば梓はバレーやってたんだよね」
朱音の問いかけに頷く梓。
「梓がやるならあたしもやろうかなー」
「朱音に出来るのー?」
冷やかしを1つ。
「出来ますーっ!漫画でバレーのやり方覚えたんだもーん!」
バレーが題材の漫画と言えばあれしかないが……。
「ローリングサンダーッ!ってボール拾う!」
あ、やっぱりあの漫画か。
「あれはね!天才的リベロだから出来ることなんだよ!朱音には出来ないね!」
私は知ってる。あのキャラはリベロの天才だからあんなことが出来るんだ。
「そんで!俺にトス持ってこい!ってやって!ドンピシャってやる!」
「朱音ホントに漫画読んでる?リベロはスパイク打てないんだよ?」
ハッとする朱音はやっぱり馬鹿だ。
「あ!そういえば小説版買った?」
「買ったよ!もう読み終わってる!」
私と朱音だけで盛り上がってると梓が手で邪魔してきた。
「えー、どうしよー」
次々と皆が決めていく中、私はまだ1つも決まってない。
リレーは元から考えられないし、バドミントンは男女のペアになるのが面倒だし、ドッジボールなんて私なんかいてもいなくても変わんないし、バレーとかやるより見てる方が楽しい。
「あー、もーっ」
「適当でいーじゃん!」
「適当って……私にとっては大問題だよ、競技によって私死ぬぜ?」
「そんな大袈裟な……」
朱音もモモも梓も決めたらしい。
朱音はドッジボールとバドミントンとバレー。
モモはドッジボールとバドミントンとリレー。
梓はドッジボールとバドミントンとバレー。
「今分かったんですけどー、ドッジボールは全員参加みたいでーす」
なんと?!
「女子チーム15人と、男子チーム19人ってなってます!」
マジで、当日休もうかな……。
「茅野さーん、リレー出来なーい?」
「ごめーん、ムリー」
「そこをなんとかー」
「ごめんねー」
坂本君は先生と何かを話している。
「やればいいのに、ゆり結構足早いじゃん」
「足が早いからって嫌がる人を選ぶのは可笑しいでしょ」
やりたい人がやればいいんだよ!と論破したようにドヤ顔を披露する。
「そのやりたい人がいないんじゃない?」
「うぅ~……」
「茅野さん」
机に項垂れていると名前を呼ばれた。低い声の主は坂本君だった。
「茅野さんの50メートル走が9秒台で、クラスの中では早い方なんだ」
そんな甘いマスクで諭されても私は落ちないぞ。
「リレーがあと2人足りないんだ、出来れば出てもらえないかな?」
50メートル走をもっと遅く走れば良かった……。
結局、私はリレーの選手に選ばれてしまった。ついでに残りのバレー、バドミントンにも選ばれてしまった。全競技だし。
「死んだ……」
「まぁまぁ、リレーはモモと一緒なんだしいいじゃん」
モモに目線を向けるとニコニコしていた。釣られて顔を緩める私。
「一緒に走ろうね!」
「私達同じチームだから別々だよ」
そうだったね!とニッコリ笑うモモが可愛く見えるのは何故だろう。
当日、運良く熱とか出ますように。とか願ってみる。
「このままホームルームやっちゃうねー?」
授業が終わったと思ったらすぐにショートホームルームが始まる。先生が何か配るのを横目にリュックを整理する。
「茅野さん」
リュックへの視線を前に移すとローマス君が学級便りを渡してきた。
「あ、ありがとー」
「茅野さん、今日部活じゃないよね?」
学級頼りをファイルに仕舞いながらローマス君の問いに肯定で答える。
「なんかね、この後ドッジボールの練習として男女対抗でやるみたいなんだ」
「へー」
曖昧に相づちをすると、ローマスは話を続ける。
「グラウンドでやるらしいんだけど、茅野さん達もやる?」
「……それって強制?」
「んー、どうだろう……」
正直言ってめんどくさい。
「「さよーならー」」
椅子を机の上に置く動作も慣れてきた。
「あのー!この後ー、ちょっと話聞いてー?!」
席を前に送ると皆が散らばるより前に坂本君が大声でクラスの皆に話し掛ける。
「あのー!この後部活や予定ない人ー!手ぇ上げてー!」
坂本君の問いに何人かが手を上げている。朱音とモモもそうだ。一応私も手を上げとく。
「あれ?梓は?今日ボランティア部ないよね?」
「別の予定があるの」
梓曰く、妹の迎えにいかなくてはならないらしい。 少し風邪気味で学校に行ったらしい妹が午後になって悪化したらしく、迎えにいけない母に代わって梓が行く事になったらしい。
「あの馬鹿が、今日席替えだから絶対行くって言って聞かなかったから」
梓はこう言ってるが内心凄く心配している。今だってほら、定期を手にして足首を解している。 きっと最寄り駅から小学校まで走っていくに違いない。
汗を隠しながら妹の看病をする梓を想像していると、坂本君の解散の合図が聞こえた。 私が現実に戻った時にはモモ達はいなくて、教室掃除担当の人がホウキを手に私を見ていた。
急いで教室を出るとモモと朱音がいた。
「あっ、ゆり!梓予定あるからって帰っちゃった!どうする?放課後の練習出る?」
「何か梓から聞いてる?ゆりから聞いてって言ってすぐに帰っちゃった!」
モモと朱音が同時に話しかけてきた。聖徳太子の気分。
「梓の妹ちゃんが熱出たらしくて迎えにいけないお母さんに代わって梓が行く事になったらしいよ!」
モモと朱音は妹思いの梓に感心している。
「じゃあどうする?ドッジの練習、出る?」
「出ようよ!どうせ暇でしょ?」
「まぁ暇っちゃ暇なんだけど……制服のままみたいだよ?」
「え、そうなの?」
教室前で3人で話し合っていると誰かが私の肩を叩いた。
ローマス君よりデカイその人は、同じ学年ではないみたい。シューズの色が緑だ。緑色のシューズって何年生だっけ。
私達のクラスで一番身長があるローマス君だが、今私達の前にいる男子生徒はもっとあるだろう。巨人レベル。
「あの、えっと……ローマス、いますか?」
「あっ、え……っと、ローマス君なら掃除に、いき、ま、したっ」
ローマス君より大きい人を前にガチガチになりながらも答えると、さらに質問してきた。
「ローマスの掃除場所、分かりますか?」
「え、んと……どっ、どこだっけ?」
「っ!……」
ローマス君の掃除場所が分からずモモと朱音に慌てて聞くが、2人とも分からないようで首を横に振るだけ。
「ちょっ、ちょっと待ってて下さいっ」
後ろ2人がガチガチになっているので私が掃除場所を確認するしかない。
「あっ、ローマス君の掃除場所、体育館でしたっ」
「そうですか。あの、ここで待っててもいいですか?」
「え、あっ、えぇ?」
「あそこにおいてあるリュック、ローマスの、です」
彼が指さした先には階段の端に置かれてる見たことあるブラウン系のリュック。確かにいつもローマス君が背負ってるやつだ。
「あ、じゃっ、どうぞ……」
「ありがとう、ございます」
そのまま私達の横で窓際に寄り掛かる彼。
「武蔵!」
「わぁ?!え、兄さん?何で?」
……。
「――お兄さん?!」
ローマス君が帰ってきてすぐに彼がローマス君に駆け寄る。ローマス君も驚いているが、私達も驚いた。
「ローマス君お兄さんいたんだ?」
「あ、うん!兄さん!一緒にいたの?」
ローマス君の問いにお兄さんは小さく頷く。恥ずかしがり屋なのか、あまり喋らないお兄さん。
「兄さん!クラスで仲のいい女友達!左から茅野さんと富田さんと大澤さん!」
「初めまして、茅野ゆりです」
「富田朱音です!ローマス君とはめっちゃ仲良くしてます!」
「大澤桃子です……」
朱音はいつもの調子に戻っているが、モモにはちょっと怖いらしい。朱音の後ろに隠れている。
「ローマスジェームス・聡司」
お兄さんが何か言った。
「あ、兄さんの名前!俺が武蔵で兄さんが聡司!兄さんは3年生なんだ!」
「あ、そうなんだ」
「何かカッコいいよね!お兄さんの聡司に、ローマス君は武蔵で、ザ・日本人って感じ!」
「まぁ半分は日本人の血も混ざってるんだけど…」
ローマス君が苦笑いして答える。
「武蔵、帰ろう」
お兄さんが帰ろうと催促する。
「あっ、ごめん兄さん、今日この後からクラスマッチの練習でドッジボールやるんだ」
お兄さんの顔が衝撃で変な顔になった。ここで笑ってしまうとお兄さんに失礼だから堪えながら兄弟2人を見る。
「今日一緒に帰る約束はどうなる?」
「えっと、今日急に決まった事だし、強制じゃなくても人数多い方がいいと思うし……」
「一緒に帰る約束……」
どうしよう、ローマス君のお兄さんが私のお兄ちゃんに見えてきた。少し可愛く見えるのは目の錯覚?
「あ、兄さんもドッジボールやる?」
「いいのか?」
「坂本君に聞いてみないと分からないけど、きっと大丈夫だと思うよ!」
兄さんの顔が真顔に戻った。が怒ってるように見えるのは気のせいだよね?
折角だから皆で行こうと提案してくれたローマス君に私達も着いていく。
「大澤さん、兄さん怒ってないから大丈夫だよ」
未だに怖がってるモモを見かねて、ローマス君が諭す。
「家ではもっと穏やかだけど、学校だと恥ずかしくて顔が強ばっちゃうらしいんだ。 だから怒ってる訳じゃないんだよ」
ローマス君に続いてお兄さんが私達に小さく謝る。
「大丈夫ですよー!全然怖くないです!好きなアニメキャラに似てて私は好きです!」
アニメキャラに例えやがったよ、バカ朱音。
「私も大丈夫!私のお兄ちゃんにも若干似てるし!」
朱音のバカな例えに便乗して私もお兄さんを安心させる。
「わたっ、し、も…大丈夫っ、大丈夫大丈夫っ」
説得力皆無だなモモ。最後絶対自分に言い聞かせてるだろ。
「おーい!ローマスーっ!」
「おっせーぞー!ローマスー!」
「朱音ーモモー!」
「ゆりやーん!おそーい!」
ゆりやんって言ったやつ誰だ。
呼ばれた私達は慌てて皆の所まで駆け寄る。
「ん?あれ?ローマスの兄さん?!何で?!」
「えー?ローマス君のお兄さんなのー?ヤバーイ超かっこいー!」
今回のお陰でローマス君のお兄さんが一時大人気になった。